第十章 谷底の咆哮
谷の深い峡谷の底から、低く響く咆哮が空気を震わせた。
土埃を巻き上げる影は、陽光を浴びて鋼の刃のように輝く鱗を纏っている、大型のブレード・ラプター。背中から尾の先まで連なる鋭い骨刃は、見る者すべてに死を予感させる。
俺、カイル・レオンハルトは視界の端でその姿を確認した瞬間、短く息を呑んだ。
体長5メートル近い巨体。まさに移動する要塞だ。
すぐさま、隣に立つダン、カルド、ヴィス、そしてジェイク・ウィルソン率いるC-7チームの五人と目を合わせる。
「仕方ない、誘導するぞ!」
俺の声に、全員が反応した。
俺、ダン・マーフィーは愛用の斧を構えながら、大型ブレード・ラプターを見据える。
妻のアイシャと娘たちのために、ここで、この化け物を倒して、絶対に生きて帰る。
「カイル、俺は右側から回り込む!」
俺は持ち前の機動力を活かして、ラプターの側面に向かう。
俺の名前はジェイク・ウィルソン。C-7チームの隊長だ。
「C-7チーム、縄と網の準備はいいか!」
俺はチームメンバーに確認する。みんな緊張しているが、やる気は十分だ。
「いつでも行けます、隊長!」
チームメンバーのマークが答える。
「よし、決定的な瞬間に備えるぞ!」
俺、カルド・レーンは弓を構えながら、ラプターの動きを観察する。
「ヴィス、左側は頼んだぞ!」
俺はヴィスと連携して、右側から矢で牽制し、ラプターの注意を引き付ける。
「狙いは足だ。動きを鈍らせるぞ!」
私の名前はヴィス・トゥレイン。カルドと息を合わせて弓を引く。
「了解だ。カルド!」
私は左側から矢を放つ。矢は正確にラプターの左足に命中した。
「やった! でも、まだ浅い!」
ラプターの鱗は想像以上に硬い。矢では致命傷は与えられない。
南の谷の中央付近には、事前に掘られた大穴が待ち受けている。巨獣をそこへ誘い込み、仕留める――それが今回の作戦だった。
俺とダンが囮となってラプターの前を駆け、カルドとヴィスは左右から矢で牽制する。ジェイクたちは後方で網と縄を構え、決定的な瞬間に備えていた。
「こっちだ、化け物!」
俺は剣を振りながら、ラプターの注意を引く。巨大な黄色い目が俺を見据えた。
俺は、リオ・アルデン。谷の上から作戦を指揮している。
「カイル、もう少し左に誘導してくれ! そのままだと穴の中心に落ちない!」
俺は大声で指示を出す。落とし穴の位置を完璧に把握しているのは俺だけだから。
「ダン、今度は右側から攻撃だ!」
ラプターは俺たちの挑発に応じて、鋭い爪を振りかざしてきたが、俺は間一髪でそれを避けた。
「うおおおお!」
ダンが斧を振り上げて、ラプターの足に叩きつける。金属音が響くが、深い傷は負わせられない。
「硬ぇ! こいつの鱗、鋼鉄並みじゃねぇか!」
俺の名前はマーク・ジョンソン。C-7チームのメンバーだ。
「隊長、網の準備完了しました!」
俺は巨大な網を構えながら、隊長のジェイク・ウィルソンに報告する。
「タイミングを合わせるぞ。ラプターが穴の縁に来たら一気に掛ける!」
私の報告を聞いて、ジェイク隊長が指示を出すした。
俺は、C-7チームのメンバー、リック・テイラーだ。
「縄の準備も完了!」
このロープでラプターの動きを封じる。そのために、俺は太いロープを握りしめる。
「みんな、集中しろよ。一回のチャンスしかない!」
やがて、巨躯が罠の縁まで追い詰められる。
「今だ!」
ダンが叫び、全員が一気に距離を取った。
轟音とともに、ブレード・ラプターが穴に落ちる。すると、土埃が舞い上がり、一瞬視界が遮られる。
「やったか?」
カルドが息を切らしながら呟く。
だが、その刹那――地響きを立てながら、その巨体が鋭い爪で壁を掴み、這い上がろうとした。
「くそっ……!」
最も近くにいたダンが、迷わず前へ踏み込み、自分の斧を構える。
俺は迷わず前に出た。家族のために、仲間のために、ここで止めなければならない。
「お前なんかに負けてたまるか!」
俺は斧を振り上げて、ラプターの爪に叩きつける。だが、次の瞬間、ラプターの前脚が唸りを上げ、俺の腹部に深々と爪が突き刺さった。
「ぐ……ああッ!」
激痛が体を走る。血が地面に滴る。でも、まだやることがある。
俺は苦痛に顔を歪めながらも、斧を振りかざすのではなく――それをカイル向けて投げ放った。
「カイル! やれぇッ!」
その叫びに、俺の足は迷わず動いた。
宙を舞う斧を掴み、そのまま渾身の力でラプターの爪へ叩きつける。硬質な感触の後、鋭い裂断音が響き、爪が切り離された。
「うおおおお!」
俺は全力で斧を振る。ダンの想いを込めて、仲間への責任を背負って。
ラプターの巨体は再び穴の底へと落下する。
「今だ! 縄を切れ!」
俺は崖の上にいるチームに指示を出す。
これが、最後のチャンスだ。吊り下げられていた巨岩を落とす。
私、レイナ・クロスは崖の上で縄を握っている。
「妹の仇、取らせてもらうわ!」
私は鋭いナイフで縄を一気に切断する。
巨岩が轟音とともに落下し、穴は完全に塞がれた。土煙が空を覆う。
俺はサム・ホーキンス。崖の上からその光景を見届けた。
「やったぞ! ついにやったんだ!」
俺は拳を振り上げる。長い戦いがついに終わったと思った。
静寂――。
その中で、俺は斧を手放し、ダンのもとへ駆け寄った。
「しっかりしろ、今すぐ治療班を呼ぶ!」
血で濡れた手を押さえ、必死に声をかける。
俺は血を流しながらも、カイルに微笑みかけた。
「やったな、カイル。俺たちの勝ちだ」
意識が朦朧としてくるが、家族の顔が浮かぶ。
「アイシャ……娘たち…………。」
俺は通信笛を吹き、近くで待機していたC-6チームの治療担当を呼び寄せる。少しすると、遠くから急ぎ足の影がいくつもこちらへ向かってくるのが見えた。