第4話 村の少女
草を蹴る音が響く。
全力疾走しているオレの視界の先、わずかに立ち昇る黒煙と、断続的な悲鳴が森の奥から響いていた。
「……間に合え!」
【アル=ブラッド】「血の気の匂いが濃くなってきたな。これは——斬り甲斐がありそうだ」
【リリィ】「ケガしてる人……いるかも。タクミくん、私、絶対守ってみせるから……!」
【ブーツ】「転ばんようにだけ気ぃつけや!」
【パンツ(♀)】「ふふ……また“私”が役に立つ時が来ましたね」
装備たちは、もう出撃準備万端だった。
だけど、今回はオレの“意志”で走っている。勝手に体を乗っ取られてるわけじゃない。
あの時、何もできなかった。
あの人を、ただ見殺しにしてしまった——そんな過去の記憶が胸を刺す。
もう、あんな思いはしたくない。
「今度こそ、守る……!」
視界の先、森が開けた瞬間——そこはまさに、地獄だった。
荷車が燃えている。木々は折れ、地面は踏み荒らされ、辺りには複数の影。
それは、男たち。ボロボロの鎧を身に纏い、いかにもならず者といった風体。
そして——
「や、やめて! 近寄らないでっ!」
彼らに囲まれた少女が、必死に叫んでいた。
年の頃は十六、七。栗色の髪を振り乱しながら、荷車の陰に逃げ込もうとするも、包囲されている。
「見ろよ、こいつ、けっこう可愛いじゃねぇか?」
「ヒヒッ、売ればいい金になるぜ」
「動くなよ、小娘。すぐに“気持ちよく”してやるからよぉ……」
その言葉で、視界が赤く染まった。
【アル=ブラッド】「貴様ら……焔に焼かれる覚悟はあるな?」
【リリィ】「最低……最低最低最低! タクミくん、あいつらだけは絶対に許さない!」
【ブーツ】「殺ってまえ! ぜーんぶ踏み潰したれ!!」
【パンツ(♀)】「“女の子”に酷いことをする人……許せません♡」
「——お前らァ!」
叫びながら跳躍する。
オレの動きは、すでに戦闘モード。だけど今度は、自分の意志で仕掛けていた。
【スキル発動:怒りの跳躍斬】
【スキル発動:連続防護展開】
【スキル発動:妬みの枷】
【スキル発動:オレをナメるな(対象:敵全員)】
宙に舞った刹那、木剣が赤く発光した。
【アル=ブラッド】「紅蓮爆破・魔斬牙ッ!!」
叫ぶより早く、炸裂音が森に轟いた。
ドガアァァァアアアッ!!!
地面が揺れ、ならず者の一人が吹き飛ぶ。リリィの防御バリアがオレの体を守り、他の男たちの刃はすべて逸らされた。
「なんだァ! 誰だテメェは!」
「クソ、仲間でもいたのか!?」
「関係ねぇ、まとめてやっちまえ!」
三人の男が同時に剣を振り上げ、迫ってくる。
「させるかよ!」
地を蹴って滑り込む。パンツの《妬みの枷》が男たちの足元に黒い鎖を巻きつけ、動きを鈍らせた。
「うおおおおおっ!!」
一閃。
木剣が薙ぎ払うと同時、連続バリアの防御がオレを包み、刃を弾く。瞬間、ブーツが自動回避で一人を踏みつけた。
「ギャアアア!!足があああ!!」
「よそ見すんな……ッ!」
そのままオレの斬撃が、残った男を吹き飛ばす。
——全員、戦闘不能。
戦いは、十数秒で終わった。
俺は少女の前に立ち、剣を地に構えたまま言った。
「もう大丈夫だ。……立てるか?」
少女はしばらく呆然としていたが、やがて震える声で呟いた。
「……ありがとう……助けてくれて……!」
その言葉が、胸にしみた。
……やっと、守れた。
この手で、この足で、この意志で——“誰かを助けられた”という実感が、全身を満たしていく。
【リリィ】「……えへへ。やっぱり、タクミくんって……ヒーローだよね♡」
【パンツ(♀)】「こんなにカッコいいタクミさん、見たことありません……♡」
【アル=ブラッド】「……ふん。少しは、我が業火にふさわしい主になってきたな」
【ブーツ】「泣けるやろ? ほれ、泣いてええんやで?」
……うるさいけど、ありがとう。
少女の手を取りながら、俺はふと思う。
「……名前、教えてくれ」
「え……あ、はい。わ、私は……」
その時だった。
森の奥から、地響きが——
ズズズズズズ……ッッ!!!
鳥たちが飛び立つ。獣でも、モンスターでもない。だが明らかに“異常”な気配。
【アル=ブラッド】「この圧……まさか、魔族か……?」
【パンツ(♀)】「……来ます。とても、とてもヤバいやつが……♡」
背筋が冷たくなる。だけど今度は、逃げない。
絶対に、この少女を——今度こそ、誰も——
「守ってみせる……!」
オレは異常”な気配がする方へ剣を構えた。