第10話 学術都市ミルディア
朝の光が、宿の窓から差し込んでいた。
目を覚ました俺は、ゆっくりと身を起こす。昨夜の疲れは、なんとか癒えたらしい。
【パンツ(♀)】「おはようございます、タクミさん♡ 昨夜は乱れて……いえ、湯気まみれでしたわね♡」
「……お前は黙ってろ」
平和な朝だ。
* * *
俺たちは宿を後にし、次の目的地である学術都市へと向かった。
商人と研究者が集まる知の都。そこには魔道具の最新理論から古代遺物の展示まで、あらゆる“知恵”が渦巻いているという。
「しっかし……街に近づくにつれて、空気が変わってきたな」
街の門の前には、行列ができていた。兵士が一人ひとりの荷物を調べ、魔道検査まで行っている。
【ブーツ】「……厳重やな。こんなに検査してるって、よっぽどなんかあったんやろ」
【リリィ】「ここ最近、“失踪事件”が相次いでるって噂。しかも、ただの誘拐じゃなくて、魔力ごと“消える”って……」
「魔力ごと、消える……?」
それはつまり、“生きてる気配”ごと、何かに“吸われてる”ようなものだ。
【パンツ(♀)】「ふふ♡ タクミさんの“気配”なら、わたくしは逃しませんけど♡」
「お前も検査されてこい」
そんなやり取りをしつつ、俺たちは検問を通過し、ようやくミルディアの市街へと足を踏み入れた。
* * *
高くそびえる魔道塔。白壁に銀装飾を施した研究所の建物。書物を抱えて歩く学者や、奇抜なローブ姿の研究員たち。
魔道都市ミルディアは、ひとことで言えば「理論と理屈の塊」だった。
だが、その中に——一際目を引くものがあった。
街の広場で、大勢の人を集めて開かれていた“展示会”。
その中央でひときわ目立つ光を放っていたのは……喋る装備だった。が、
「……あれ、俺たちと同じ“精霊装備”じゃないか……?」
どこか違和感があった。
同じ“自律式”のように見えて、あれはあまりにも人間離れしていた。
「注目してくれてありがとう。これは《ソレイル》。“完全制御型精霊鎧”。自我は持たず、命令には忠実だ。無駄口も叩かない、従順な防具だよ」
声の主は、白衣の青年。顔には無表情を貼りつけ、目の奥がどこか空虚だった。
「俺の名は《カイル・シュラフト》。この装備を設計した、精霊学理論の第一人者だ」
会場がどよめいた。研究者たちが一斉に拍手を送る。
「おいおい……“喋らない装備”が最新ってどういうことだよ」
【パンツ(♀)】「なにそれ、つまらなくありません? タクミさんを悩殺するのが、わたくしたちの仕事なのに♡」
【ブーツ】「……でも、あれはあれで、完成度高そうやな……タクミ、こりゃ一筋縄じゃいかんぞ」
【リリィ】「……あの人、タクミくんのこと見てる。なんか、ただの学者って感じじゃない」
その通りだった。
カイル・シュラフトの目は、明確な「敵意」と「興味」をこちらに向けていた。
そして、彼はひとつ、意味深な言葉を口にした。
「“自然精霊との融合契約”なんて、もう古い技術だ。時代は“封霊式”。必要なのは感情ではなく、性能だ」
その瞬間、俺は眉をピクリとさせた。
感情ではなく、性能。
言い換えれば、装備から“心”を切り離す……いや、“奪う”ということだ。
「……おい、まさかお前、“喋る装備”を……」
「無論。解析し、模倣したよ。だが“人格”など無駄だ。必要なのは、使い捨て可能な兵器としての効率性だ」
【アル=ブラッド】「……貴様ァ……それでも、魂を宿す装備を語るかッ!」
【パンツ(♀)】「そんなの、許しませんわよ……♡」
展示会の熱気が冷たい空気に変わり、俺たちは牙をむくことになった。
* * *
その夜、俺たちは宿に戻った後ーー
「……ミルディアでの滞在、長くなりそうだな」
【リリィ】「タクミくん。私たちも、“進化”しなきゃね」
【ブーツ】「やな予感するけど……まあ、やるしかあらへんな」
【パンツ(♀)】「ふふ♡ この“変態下着”の名にかけて、負けるつもりはありませんわ♡」
今後、レベルアップや防具の強化も必要になってくるのかもな。