表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

マゼンティアの現実

 その後はもう一つの"お使い"で、また別の村へと向かう我々一行。そこはコラル村ほど敵対的では無いとは言え、慢性(まんせい)的に税金の滞納(たいのう)が続いていると言う。

 行って見ればこちらは(さび)れ果てた農村で、やはり大半の住人が人族。一応ここの村長は魔族の様で、住人の不満を何とか(おさ)え込めてはいるそうだが、みすぼらしい屋敷(やしき)の様子から裕福では無いだろうとは(うかが)える。我々はこの村長に税の督促状(とくそくじょう)を届けに来た訳だが、泣きながら土下座で(ゆる)しを()われるわ、滞在(たいざい)終始(しゅうし)住民達の(うら)めしげな視線に(さら)されるわ、正直かえってこっちの方が心にダメージが大きかった。

 帰り道も、ミントは無言で舌打(したう)ちしているし、シトラもつい不満を()らし始める。

督促状(とくそくじょう)をチラッと見ましたけど、農作物の全収穫(しゅうかく)に対して6割を()()(おさ)めろと有りました。無茶苦茶です。ダイダンでは作物自体を全収穫(しゅうかく)の4割です。それでもきついのに、6割、しかも現金なんて…。商人に買い(たた)かれでもしたら、何にも残らないですよ。」

俺はふと、エボニアム国の現副将軍のジャコールが人族の農民が支払(しはら)う税を"全収穫(しゅうかく)量の3割"と打ち出した時、(高っ)と思った事を思い出した。実は随分(ずいぶん)と良心的だったんだなぁ。

「この国…てえかこの大陸じゃあ人族は搾取(さくしゅ)されるものってのが常識みたいな考えですんでね。そもそも魔王様がそういうお考えなんで、ジン・レオンは忠実にその通りにしてるって訳で。ガリーン辺りは打算的に(したが)ってたかも知れないかな。ちったぁマシなのはザキラムくらいですかね。エボニアム国に(いた)っては人族は魔族や鬼族の食糧(しょくりょう)(あつか)いですからな、生き地獄って評判(ひょうばん)です。まああそこよりゃマシなんでしょうが、このマゼンティアも人族の(あつか)いは家畜(かちく)以下ですんでね。昔から(ひど)かったがエンジャンが(さら)に悪くしていってる。人族だって国を捨てたり強硬(きょうこう)派になったりしまさぁね。」

今は車内の方を向いているガレンが語るマゼンティア地方の人族の現状。そう言えば元マホガン盗賊(とうぞく)団の構成(こうせい)員はかなりの割合人族だったのを思い出した。そういう国を捨てた人族の受け皿になっていたのかも知れない。

「そんな強硬派(きょうこうは)徐々(じょじょ)に勢力を増している状態では有るんだが、それを(おさ)え込むだけの力が今のマゼンティアには無いんでさぁ。」

「あれ、マゼンティアにはダイダン、てか昔のイエレンと拮抗(きっこう)する軍事力が有ったんじゃ無いのかい?」

と、俺が疑問を差し(はさ)む。

「昔はね。マゼンティアの軍は今は名目(めいもく)上ダイダン軍のマゼンティア分隊って言う扱いなんでやんすが、その運用や維持(いじ)はこの(りょう)領主(りょうしゅ)であるエンジャン(きょう)一任(いちにん)されてましてね。最初から少し()がれた戦力だったマゼンティア分隊ですが、エンジャン(きょう)の管理下になってからはより弱体化が進んじまって、今じゃマゼンティア内部の反乱分子すら取り()まれない始末で。今だったら俺達元傭兵(ようへい)の仕事も有るんじゃないかと粉かけてみたりもしたんですが、治安維持(いじ)に回す金が無いとかでね。」

自分等はあんな優雅(ゆうが)な暮らしをしといてかよ! 何だが聞いててイライラして来た。

「クリム姫に何かが有って、ジン・レオンが出張(でば)って来る事をむしろ(ねら)ってたんじゃ無いかと勘繰(かんぐ)っちまいますがね。(おん)を着せられる事無く心中(しんちゅう)の虫を退治(たいじ)して(もら)おうって魂胆(こんたん)じゃないかと。」

うん、たぶんそれが正解だろうな。とりあえずエンジャンって男の"底"は見えたし、何がしたいのかも大体分かった。分からないのは…溺愛(できあい)する妹をこんな奴の元へ(とつ)がせたジン・レオンの真意だが…。


 エンジャンの屋敷(やしき)に帰り、報告を行って、日暮れまで庭掃除(そうじ)とかやらされて(今度は第四夫人がチェックに来たが、シトラ主導(しゅどう)の庭掃除(そうじ)はやはり完璧(かんぺき)だった)、昨日同様見てくれは悪いが味は間違い無い夕食を遠慮(えんりょ)なくいただいて、その晩の事。例によってバルコニーで落ち合う俺とミント。今夜はそこにネビルブも呼んで報告を受ける。

「まあ5人もいますんで、全員にピッタリ()り付く事は出来ませなんだグワ、皆さん実に優雅(ゆうが)にお過ごしでしたなぁ。第一から第四までの夫人方はボニー様達と同じく"視察(しさつ)"に行かれたんですグワ、行った先々でそれはそれは手厚い接待(せったい)を受けておられたでクエ。いずれもみんなかなり羽振(はぶ)りのいい商人の所で、お屋敷(やしき)のいわゆる御用商人なんでしょうなぁ、奥様方とも親密(しんみつ)な様で、豪華(ごうか)な食事や(おく)り物()くしで、皆さんご満足そうだったでクエよ。第四夫人などは文化的視察(しさつ)とか言って、劇場に特別席を設けて(もら)って1日観劇(かんげき)でクエ。王子役の若い役者に入れ上げて楽屋に入り(びた)ってたでクエね。」

…まあ、マゼンティアの財政(ざいせい)を食い(つぶ)しているかもぐらいには思っていたが、どうもそれどころでは無さそうだ。御用商人と癒着(ゆちゃく)

「そうそう、第五夫人だけは内勤(ないきん)で事務仕事をされててクエが、不満そうでしたなぁ。()さ晴らしに使用人達の仕事の粗探(あらさが)しをしてた様ですグワ。」

なるほど、若い嫁ほど割りを食うのは仕様(しよう)なんだな。まあミント=クリムの受けてる仕打(しう)ちはちょっとそういう次元では無いが。

「ん?」

その時俺はふとある事に気付く、誰かが魔法を使っている。生活魔法の様な小さい物では無い。目を()らしてその方向を見ると、それは何と俺達の馬車の中での事の様だ。目を()らすのと同じ様に角の根元の魔法感知器官(きかん)を"()らして"みると、それは通信の魔法である事が感じ取れた。何者かが誰かと連絡を取っている。次に耳を()らすと、話し声や(いく)つかの単語が(かす)かに聞こえて来た。

 現場はここから数100メートルは離れており、知覚(ちかく)オバケの俺でなければ出来ない芸当だろう。飛んで行って確かめても良かったが、何となく何が行われているのか予想出来たので、"カチコミ"は()えて今は()けておいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ