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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
序章 三度目の人生は第二王子
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5話 懐古と未来

 



 魔物の襲撃から一日がすぎ、再びおとずれた夜の時間。


 父上と母上が、まだ一人にするわけにはいかないと判断したのか、私だけはまた両親の寝室で、他の家族たちよりも早くにベッドへと横になった。


 眠りにつくまでの時間は、幼い身体であるためか、そう長くはないのだが……。

 それでも必然的におとずれた、考え事には最適の時間を活用して、前世と今世の違いに思考を巡らせる。


 幼さゆえのおぼろげな記憶もふくめて、特に今日の家族とすごす時間では、前世に幾度となく望んでいた、まさしく平穏な時間を堪能することが出来た。


 ただそれとは別に、振り返る記憶の中で、どうやら王族の中でも、特に過保護な対応をされているように感じていたのは……やはり、気のせいではなかったようで。


 この点は間違いなく、私が始祖様と同じ色を持って生まれた、この王国の王子だからだろう。


 今日に限っては、襲撃後だから、という点も加わっていたとは言え、同じ色を持っていた前世と比べるまでもなく、周囲の人たちにとても大切にされていることを実感した。


 それ自体は、素直にとてもありがたく思う。


 このように大切に護られ愛されることが、この王国だけではなく、この世界中で見ても、どれほど貴重なことなのか。


 魔族と言う闇を消しきれないこの世界では、愛情深い関わり合いが本当に少ないことを……私は前世で、学んでいるから。


 ――もっとも、私は前世でも愛情深い存在とは、縁があったのだが。



 その前世と言えば……と、かつての記憶の中から思い出すのは、やはりお一方と一体のこと。


 お一方は、人工精霊として形と意思を遺していた、このマギロード王国の初代陛下である始祖様。

 そして一体とは、縁あって契約することになり、前世では私の最期の時までそばに居続けてくれた、風の上級精霊である風の君。


 代々、強き魔法使いとして君臨してきた王家の、そのはじまりを告げたお方と、初代王妃様の契約精霊だった風の君との思い出は、私にとって今でも忘れがたきものだ。


 二人と一体とで過ごした日々は、たしかな懐かしさと共に、すぐに脳裏に浮かぶ。


 魔導公爵として、魔族の中でも動物姿である魔物ではなく、人型に擬態できるほど強大な力を持つ魔人と、王国の存亡をかけて戦った日。

 冒険者として、多くの魔族たちと戦い、さまざまな同業者と苦楽を共にした時間。

 そして、まだ何者でもなかった頃の、出逢い。


 鮮やかによみがえるかつての記憶の中、始祖様と出逢って間もない時の記憶が、ふいに頭をよぎった。


 それは、前世で貧民街から独立したばかりの、六歳くらいの頃。

 魔導書に宿る、幼子の拳大の紫に輝く光球――人工精霊の姿として、始祖様が幼い私のそばにふよふよと浮いている光景に、まだ慣れていなかった時期の事だ。


 サバイバルに慣れ切り、手際よく狩った動物を森の中で調理して、食事をしていた時。

 始祖様はどこか真剣な声で、幼い私に問いかけた――。




「これから先、俺の後継者として魔法を学ぶのは、まぁ、決定事項として。

 セス――お前は、自らの人生に何を望む?」


 前世でも、セルディスと言う名だった私を、愛称のセスと呼び。

 まだ幼かった私へと投げかけた、生き方への問い。


 それに対し、当時もまた【創世神の愛し子】として、幼児とは思えないほどの大人びた思考力で、私ははっきりと答えた。


「面白く、時には刺激的でありながらも平和な、私自身が平穏だと思うことの出来る日常……ですかね」


 私のサラリと告げた返答に、次の瞬間、始祖様は小さな身の紫色の光を明滅させて、実に楽しげな笑い声を森の中に響かせた後。


「ハハッ! 上等!! それくらいじゃねぇと、人生面白くもねぇよなぁ?」


 今振り返ると、とても好奇心を含んだその言葉に、当時の私は気づかないまま肯定の言葉を返したのだった。




 そして――たしかに前世では、この時の言葉の通りに私は生きていく。

 平穏な日々も、そうでない日々も楽しみながら。

 八十を越える年まで、しっかりと、最期まで生き抜いた。


 ……だからこそ、だろうか。

 晩年によく思った感情が、今もまたよみがえる。


 かけがえのない多くの出来事と共に紡がれ、私が得てきた、かつてのあの平穏な日常を。


 今度は、私だけが得るのではなく。

 私にとって大切な人々の日常も、私にとって見知らぬ人々の日常も。

 すべての人々の日常が、平穏なものでありますように、と。


 十二分に老人と呼ばれる年齢まで生きた記憶を持つからこそ、ふと未来へと思いをはせてそのように思い、密やかに決意を固める。


 今世では、この母国で今を生きる、多くの人々の平穏な日常を――護ろう、と。




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