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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
二章 日常と冒険を謳歌する少年
48/50

48話 闇を制す光

 



 またたきの間に結界を張り、一瞬で距離をつめてきた獣の魔人の爪を防ぐ。

 そこへ追撃に、兄上の風の刃と、姉上の水の槍が飛来した。


 素早く後方へ跳び、魔法の攻撃を避ける獣の魔人へ、白雷を天から降り落とすも、それさえ地を蹴ってかわされる。


 ……攻撃は、当たらなければ意味をなさない。


 的確にこちらの魔法を避ける動きを見やり、やはり魔人という存在は脅威だと再認識する。


 しかし、ただそれだけだ。

 当然ながら――ただ攻撃が当たらないというだけのことで、弱気になるつもりは毛頭ない。


 こちらの攻撃を避け切り、赤い炯眼をひたと私へ向けた獣の魔人が、吠える。


「喰ってやるッ!!」


 地面の土を蹴り上げ、樹々を足場にして勢いよくこちらへ迫る獣の魔人に、ヨルの雷矢とミミリアの風剣が飛ぶ。


 二種類の魔法の攻撃は、ちょうど空中にいた獣の魔人の正面に飛来し、今度こそ身体へと届く――その手前で、振りかぶった魔力を宿す鋭い爪に、引き裂かれて消滅した。


「マジかよ!?」

「魔法を消された!?」


 背中側から上がる、二人の驚愕の声を聞きつつ、魔力を圧縮して作り出した風圧を魔人へぶつけて退け、再び距離を確保する。


 獣姿の魔物にも言えることだが、獣の魔人は特に、身体を形作る魔力を純粋な身体強化魔法に変換することが多い。


 魔力を宿した爪は、魔法で作り出した剣と同等以上の鋭さで、魔法さえも切り裂きさきほどのように消し去ってしまえる。


「ったく! 獣の魔人ってのは、本当に面倒なやつらばっかりだな!」


 始祖様の見えない口から飛び出た愚痴に、思わずうなずきを返す。


 唯一の不幸中の幸いは、アレら獣の魔人の多くは、同族である狼姿の魔物たちの群れの長でありながら、こう言った戦闘時には一匹狼のごとく、単独行動が多い点。


 ……もしこの場に、他の魔物たちまで引き連れて来ていたのならば、さすがに私と始祖様だけがこの場に残り、兄上たちも【特務団】の二人も王城へ転送させていただろう。


 一匹狼と対峙している現状でも、当然心配は浮かぶが、しかしこの一戦はきっとこれから先、この場にいる全員の糧になるはずだ。


 魔人と戦い、倒して、民と国を護る責務を果たせたと。

 ――必ずやそう、胸を張ることができるのだから。



「魔法、ジャマ!」

「お前の爪も邪魔だっての!」


 兄上や姉上、ヨルやミミリアが放つ魔法の合間に、しっかりと足止めやかく乱の魔法を放って助力してくれている始祖様が、獣の魔人に言い返す。


 その舌戦の合間にも、魔法が飛び、避け、消し、再び距離を縮め、また距離を離す戦局がループするように続いていく。


 互いに攻撃を当てることが出来ないまま、動かない戦局が続くのは、魔族よりも持つ魔力に限りのあるこちらとしては出来る限り避けたい。


 しかしそうは言っても、素早く攻撃を避ける相手に対して、こちらの攻撃が決定打に欠けているのも、また事実。


 一応、今のところまだ、近衛騎士たちの剣技と言う攻撃手段が、残ってはいるものの……。


 息をするような自然さで、地面さえ叩き割るほどの身体強化魔法を使う相手に、近距離戦は危険すぎる。


 確かに、近衛騎士の役割は、私たち王族の身を護るための剣になることであり、今まさにその役割を発揮する場であるとは言え、無謀な交戦を許可するほどにはこちらもまだ、追い込まれてはいない。


 ――むしろ、からめ手を用意できる分、怒り心頭らしい獣の魔人よりも、余裕があると言えるだろう。


 防御に専念して、攻撃を他のみんなに任せている間に、しっかりと反撃の準備は整った。



「一瞬でやれよ、セス」

「――心得ています」


 ヒュンと耳元を通りすぎ、ささやきを一つ落とした始祖様に、落ち着き払った声で返事を呟く。


 元より、チャンスは一瞬しかないのだから。


 拮抗する戦場の行方を見守りながら、小さく、特別な詠唱を口ずさむ。


「〈紫眼のワースに(こいねが)う――我に系譜の導きを〉」


 詠唱に応じ、魂に封じていた魔力が解き放たれ、湧きいずるように身体の中へと満ちていく。


 魔力は細部にまで流れ、急激に増えた魔力の高まりに、ずいぶん伸びた青銀の髪が、ふわりと揺れて、浮き上がった。


「〈青銀の加護よ、在れ。

 紫眼の祝福よ、今ここに。

 系譜の導きよ、我が名はセルディス――青銀と紫眼にて、全ての魔を制する者なり〉」


 刹那、身体の周囲へと、煌く青銀の粒が散る。


 身体に留まりきらず、あふれ出た魔力が煌く幻想的な場の中心で、紫の光が灯る瞳をひたと倒すべき敵に注ぐ。


 交わった赤い炯眼を睥睨して、転送魔法を発動。


 一瞬で詰めた距離に、眼前の魔人が容赦なく爪を振るおうと腕を上げ――白い糸のような魔法が強く、その身に巻き付いて動きを止めた。


 そう、ここが一瞬の、チャンス。


 流れる時間が遅くなる感覚と共に、両手を伸ばして息を吸う。


「〈セインレイ!〉」


 凛と告げた魔法の名が、爆発的な純白の閃光を輝かせ、身動きの取れない獣の魔人を包み込んだのち。


 ――鮮やかな光の中で、その存在を消滅させた。




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