46話 王の子たちの小冒険
また少し日々が流れ、そろそろ年に一度、来年の祝福を願い大規模浄化魔法を展開する、大浄化祭の日も近づいてきた頃。
――先触れなく、突然私の部屋へ姉上と兄上がやってきた。
「セルディス~~!!
わたくしとお兄様と一緒に、魔物討伐の冒険に出かけましょう!!」
開口一番、そう告げる姉上を見上げ、次いで隣に並ぶ兄上へと視線を移す。
「ご説明をお願いします、兄上」
「うん、驚かせてごめんね、セルディス。
ほら、少し落ち着いて、ルフェリア」
「は~い!」
とってもご機嫌で可愛らしい姉上と、穏やかに謝ってくれるかっこいい兄上いわく。
今日は時間が合うので、兄上たちと三人で一緒に、冒険者ギルドの依頼を受けに行こう、と言うお誘いだったらしい。
――そう言うことならば、喜んで、だ。
「分かりました。
では昼食後、一緒に冒険者ギルドへ行きましょう」
「さすが、わたくしの弟ね!!」
「うん。私たちもしっかり準備をしておくよ」
「はい。よろしくお願いします」
サラリと決まった午後からの予定に、自然と微笑みが浮かぶ。
兄上と姉上と一緒に、冒険者ギルドへ行くと言う状況だけでも、はじめての展開に少々心があたたかく、あるいはせわしなくなると言うのに。
さらには依頼を受けて、魔物討伐をするのだ。
「……これはもう、小冒険のようなものですね」
「楽しみだな!!」
「――はい」
ぽつりと零した呟きに、いつの間にか近くに来ていた始祖様が声を弾ませる。
それにうなずきを返して、しかしまずは昼食だと、部屋を後にした。
穏やかな昼食時、兄上が午後の予定を話題に出すと、すでに聞いていたのだろう父上と母上からは、注意事項だけが返される。
「必ず、充分な護衛を連れていくように」
「怪我には気をつけるのですよ」
そう、いつも少しだけ心配をして伝えてくださる父上と母上に、安心してもらえるように、私と兄上と姉上はしっかりとうなずきを返した。
そうして、兄上と姉上と、始祖様と、それに護衛の近衛騎士や【第二王子付き特務魔法団】のヨルとミミリアと一緒に訪れた、冒険者ギルドにて。
――案の定、そろって入って来た王子と王女に、ギルド内にいた冒険者たちが目を見開いて仰天した。
「へ――えぇ!?!?」
「あ、あれっ? なんで殿下がたがおそろいで……??」
「今日、なんかあったか?」
「いや、何も無かっただろ」
「わぁ……お揃いになると、本当に眼福ですよねぇ!」
「分かるわぁ~~!」
……若干、想定外の会話も混ざっていた気がするが、それは横に置いておこう。
「驚かせたようで、すまないな。
今日はたまたま、可愛い妹と弟も同じ時間にここへ来ることが出来るようだったから、共に来たのだ。
何か問題があったわけではないから、安心してくれ」
「そうそう! 可愛い俺の自慢の子孫たちが、一緒に冒険するってだけだから、気にすんな~!」
十四歳と言う若さながら、すでに威厳を宿した雰囲気を放ち、冒険者たちへと告げる兄上。
その兄上の言葉に続き、私の右肩から始祖様もいつものように声をかけると、ようやく部屋の中のざわつきは収まった。
さすがは兄上と始祖様だと、ちらりと視線を交わした姉上と共に微笑み合う。
「殿下がた~! イイ感じの魔物の討伐依頼、ありましたよ~!」
いつの間にか、一人壁側へと移動していた【特務団】の団員ヨルが上げた声に、キラリと姉上の瞳が煌いた。
「見せてちょうだい!」
ぱっと華麗に駆け出す姉上に、今度は兄上と視線を交わして苦笑を零す。
「今回は危険度が高い依頼は駄目だよ、ルフェリア」
「討伐依頼は慎重に選びましょうね、姉上」
ゆったりと歩み寄りながら、そう姉上へ伝える兄上と私に対し、可愛らしい頬がぷくっと膨らむ。
「もう! お兄様もセルディスも!
わたくしだって一人の冒険者なのですから、それくらいは分かっていますのよ!!」
次いで、まだまだおぼつかない子どもが意地を張るように、そう不服を告げた姉上に対して、どっと冒険者たちから笑い声が上がった。
……どうやら、予想通りの展開の面白さには、いつの時代の冒険者たちも、腹筋を試されるものらしい。
また一つ、前世と同じ部分を見つけて、ふっと笑む。
何はともあれ――いよいよ、兄上と姉上との小冒険、開始だ。
依頼を決めて、さっそく踏み入った森の中。
後方に控える護衛たちが、手を出すまでもなく――兄上と姉上は、実に鮮やかな魔法戦を、私に披露してくれた。
今回引き受けた討伐依頼の対象である、狼姿の魔物の群れを相手に、風の刃を飛ばして確実に仕留める兄上。
その補助として、安定化に成功した複数本の水の槍を飛ばす魔法を、見事に操る姉上。
行動の仕方や群れの作り方、能力の違いなど、種類によってかなり差がある狼姿の魔物たちを相手に、この歳でこれほど的確に戦えるのは、さすがとしか言いようがない。
これならば、怪我なく戦闘を続ける事が出来るだろう。
はじまったばかりの小冒険の順調さに、つい楽しさからの笑みが零れた。




