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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
二章 日常と冒険を謳歌する少年
43/50

43話 庭園での語り合い

 



 翌日の昼前。


 今日も貴族会議がある、と言う父上の言葉で、もしやと思い訪れた庭園で――あっさり、フリア・ノルテッツ辺境伯令嬢と再会した。



「ごきげんよう、フリア嬢」

「あっ! 殿下!

 ごきげん麗しく……!」


 丁寧に令嬢としての一礼をするフリア嬢に、微笑みを返していると、近衛騎士の二人がそれとなく後ろへ下がり、私と距離をあける動きを魔力で感知する。


 これは……私とフリア嬢が会話をしやすいようにと、気を遣ってくれているのだろう。


 王族としての立場上、今もまだ近衛騎士に護って貰っているものの、私個人の実力としては、王でありこの王国で私に次ぐ魔法使いである父上同様、護衛が必要ないほどに強いのだ。


 こうして少し距離をあけるくらいでは、職務怠慢とみなされる事もない。


 ――と言うよりむしろ、昨日の内に近衛騎士たちに父上や母上から、何かしらの通達があった可能性が高いのでは……?


 不穏な想像に一瞬気が逸れかけ、小さく一呼吸をして意識を目の前に戻す。


 庭園の中、薄緑の長髪を風に揺らすフリア嬢は、そのつぶらな水色の瞳をぱちりとまたたき、かすかに小首をかしげた。


「いかがなさいましたか? 殿下」

「いえ……そう言えば、フリア嬢。

 こちらへは、ノルテッツ辺境伯と一緒に?」


 それとなく気が逸れかけたことを濁し、逆にこちらから問いかけると、フリア嬢はコクリとうなずく。


「はい。

 お父さまがお仕事をしている間に、こちらの庭園を見てよいと、お城のかたにご許可をいただきまして」

「そうでしたか。

 辺境伯の仕事は、貴族会議への参加ですよね?

 そうなりますと、もしや王都での滞在は、後数日ほどでしょうか?」


 私の素朴な疑問に、フリア嬢は少しだけ返答に悩む素振りを見せた。


「えぇっと……。

 お父さまは、お仕事が終わったあと、すぐに領地へ帰ることになっています。

 けれど、お母さまとわたくしは、一月ほど王都の屋敷ですごしてから、帰る予定です」

「なるほど」


 つまり、貴族会議後からは夫人と令嬢は、辺境伯とは別行動だと。

 ――そう言うことならば。


「では、一月の間はいつでも、庭園を見る事が出来るように、手配しておきますね」

「よ、よろしいのでしょうかっ?」

「もちろんです。

 花に癒しの魔法をかけてくれる方の訪れならば、個人的にはむしろ歓迎したいほどですよ」


 辺境伯などの、地方を守護する者たちへの都合上、数日間だけ開かれる貴族会議。

 その間のみ、庭園での花の観賞をするのでは、いささか楽しむ期間が短すぎる。


 より長く楽しんで貰えるように、と思っての提案は、フリア嬢の水色の瞳を束の間煌かせ――次いで、ふと表情が陰った。


「あ……わたくし、癒しの魔法だけは、得意なので……」

「素晴らしい事だと思いますが、何か悩みでも?」


 どこか居心地が悪そうに返された言葉が気になり、思わず問いかける。

 すると、フリア嬢はおずおずと口を開いてくれた。


「その……わたくしは、攻撃の魔法が使えない、のです。

 ――辺境伯家の、者なのに」


 そう、哀しげに告げたフリア嬢は、ぽつりぽつりと事情を話してくれる。


 いわく、癒しの水魔法と、魔族への攻撃に不向きな土魔法の派生である緑魔法しか、使えないのだ、と。


「なるほど、そのような悩みが……。

 しかし、フリア嬢。

 そういう事でしたら、案外とても身近なところに、解決策が隠れているかもしれませんよ」

「みじかなところに、ですか……?」


 小首をかしげるフリア嬢に、ふわりと浮かんだ微笑みをそのままに、深くうなずきを返して言葉を続ける。


「はい。

 そもそも、どのような魔法も、実際は使い方一つで、強力な武器になるものですから」


 例えば、癒しの水魔法を地面にかけておくと、その近くは魔物避けの効果を持つこと。

 例えば、緑魔法で操る蔓は特に頑丈で、大型の魔物さえ拘束することが可能であること。


 それらを丁寧に説明していくと、とたんにフリア嬢はキラキラと水色の瞳を煌かせ、可愛らしい顔を明るく輝かせた。


「そのような使いかたがあるなんて……わたくし、知りませんでしたっ!

 殿下はとても偉大な魔法使いなのだと、お父さまやお兄さまたちからきいていましたが、本当にとってもすごいです!!

 たくさん教えていただき、感謝もうしあげますっ!」

「私の知識が役に立ったようで、何よりです」


 晴れやかに笑むフリア嬢に、こちらもやわらかな微笑みが浮かぶ。


「あの、もし、よろしければ……庭園をお散歩しながら、もう少し魔法について教えていただけませんかっ?」


 遠慮がちながらも、強い意志の灯る瞳を向けて願われた言葉に――応えないと言う選択肢は、思い浮かばなかった。



 昼食までのひと時。

 庭園の草花を愛でつつ、フリア嬢と語り合う時間は、とても穏やかなもので。


 つい昼食時にその事を語り、流れで三日後に王家と辺境伯家が支援している、王都の神殿系列の孤児院に行くらしい、と聴いた話を伝えた結果。


 上機嫌になった母上の提案により――なぜか私まで、一緒に孤児院へ行く事が決定した。




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