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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
二章 日常と冒険を謳歌する少年
42/50

42話 婚約者候補……?

 



 たどり着いた食堂には、すでに家族がそろっていた。


「すみません、遅くなりました」

「いや、昼食の時間には間に合っているが……」

「いつも最初に座っているセルディスが、後から来るなんて珍しいね。

 何かあったのかい?」


 謝罪をしつつ席に着くと、不思議そうな表情をした父上の言葉を、兄上が引き継ぐ。


 率直な問いかけに、しかし私が口を開くよりも早く、始祖様が長いテーブルの上の空中へと飛び出した。


「朗報だぞ、お前たち!!

 ついに! セスに!

 気も魔力も合いそうな――お嬢さんが見つかった!!

 喜べ!!」


 ……始祖様ならば、何かしらは言い出すと、たしかに予想してはいたが。

 まさか本当に、このように言い出すとは……。


 父上たちのみならず、給仕の者たちまで一様に、ぽかんと呆けさせた始祖様の発言に、思わずため息が零れ落ちる。


「始祖様……。

 語弊しかない説明を、しないでください」

「あぁ? お前もついさっき、可愛いって言ってただろ!」


「その点は否定しません。

 そもそも、子供はみな可愛いものでしょう?」

「急にジジイ目線で話しを逸らそうとするなっての!!」


 ……どうやら、始祖様は本当にこの話題を続けたいらしい。


 もう一度深々とため息を吐き、銀縁眼鏡を指先で押し上げる。


 なんとなく、煌く視線がこちらへと注がれているような気がするが……叶うならば、気のせいだと思っていたい。


「まぁまぁ! セルディス、どちらのご令嬢とお会いしたのかしら?」

「ノルテッツ辺境伯家のご令嬢、フリア・ノルテッツ嬢です」


 母上の問いに、素直にさきほど言の葉を交わしたフリア嬢の名を伝えると、父上がふむと器用に眉を上げる。


「ノルテッツ辺境伯の娘?

 ……あぁ! それなら、この時期に開かれている貴族会議のために登城した、辺境伯について来たのだろう」

「ふふっ。王城の庭園は、花を愛でる者にとっての楽園ですものね」

「あぁ、そうだな」


 ――なるほど。

 どうして令嬢が一人で庭園を見て回っていたのか、少し疑問を抱いていたが……父君である辺境伯の仕事が終わるまで、美しい王城の庭園を見学して過ごしていたのか。


 一人で納得していると、今度は姉上が空中に浮かぶ始祖様を、ぱっと見上げた。

 その紫の瞳を、キラキラと煌かせて。


「始祖様!

 わたくしのとっても可愛くて強くて頼りになる自慢の弟は、その令嬢と婚約すると言うことですの!?」


 ……褒めるか突き落とすか、どちらかにしてください、姉上。

 一度に詰め込まれると、不出来な私の情緒が追いつきません。


 思わず、そう脳内でツッコミを入れつつ、もはや半ば諦めの境地で瞼を伏せる。

 後はもう、激流のごとく止めようのない会話の流れに、身を任せる他はないかもしれない。


「そりゃ、セス次第だな!」

「まぁっ!!」

「へぇ!」


「始祖様の勧めもあることだ。

 一応、密やかな婚約者候補とでも、こちらは思っておこうか」

「そうですわね!」


 ――ほら見たことか。

 案の定な展開だ。


 始祖様の返答に、興味津々な姉上と兄上はともかくとして。

 にっこりと嬉しそうな父上と母上には、早々に密やかながら婚約者候補と認識されてしまった。


「……前世と違い、今世では王族と言う立場上、婚約や結婚などは避けて通れないものだろうと、一応考えてはいましたが……」


 早すぎる展開に、つい愚痴のように零すと、ヒュンッと目の前に始祖様が飛んで来る。


「なに言ってんだセス!

 俺の子孫たちは恋愛結婚が大前提なんだから、別にお前が気に入らねぇなら、独身でも問題はねぇよ!

 ……まぁ、さすがにセスとアルヴェルとルフェリアの誰かには、新しい俺の自慢の子孫を残してもらいたいとは思ってるが……」


 後半は小声で呟いて濁した始祖様の、前半の方の言葉に、はたとあることを思い出す。


「――そう言えば始祖様は、恋愛結婚推奨どころか、絶対くらいの勢いでしたね」

「おうよ!! 愛のない婚約だの結婚だのは、中央の平和な他所の国のやつらにでも、任せておけばいーんだよ!」

「いえ、どの国にも、別に政略結婚は任せなくていいと思いますが……」


 始祖様らしい表現に、つい苦笑を浮かべながら、胸の内で思案する。



 どうしても、この手の話題に煮え切らない態度をとってしまうのは……前世の記憶ゆえだろうか。

 それとも――それよりも前の人生から続く何かが、あるのだろうか?


 家族愛も、友愛も、見知らぬ者たちの幸福を願う愛も、確かに分かるのに。

 今一つ、そのような状態に至ったことがないためか、運命の乙女への愛はよく分からない。


 きっと、本質的なものは、他の愛と何も違いはないのだろう。

 だから、私がまだ誰も選ぼうと思わないのは――ただ、覚悟がないだけなのだろうとは、推測できるのだが。



「愛することに、臆病になんてならなくていいんだぞ、セス」


 始祖様は時折、本当に優しい声で、私の名を呼ぶ。


「……今一度、考えては……みます」

「おう! それでこそ、俺の自慢の可愛い子孫だ!!」


 まるでそっと――背中を押すように。




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