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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
序章 三度目の人生は第二王子
4/50

4話 こだわりとこっそり魔法使い

 



 魔物の襲撃から、一夜明け。


 家族と共に目覚め、穏やかな朝をすごしながら、かつての記憶とこれからのことに思考を巡らせる中で、ふと違和感を覚えた。


 どうにも、前世でかけつづけていた影響か。

 眼鏡がないと、落ち着かない……気がする。


 まさか、記憶が戻ったことで、眼鏡が恋しくなるとは。

 これもまた、【創世神の愛し子】ならではの悩みだろう。


 母上の部屋で、母上と姉上と共にすごしながら、つい気になってしまい、初老の執事がかけている眼鏡にじっと視線を注ぐ。


「いかがなさいましたか? セルディス殿下」


 執事の鑑らしく、すぐさまそばで膝をつき、何事かとたずねてくれる初老の彼の優しさに――かつてのじいやを思い出した。


 前世で、生物学上の父親に、幼くして貧民街へ捨てられる前。

 私を育ててくれていたのは、伯爵家に仕えるじいやとばあやだった。


 今でも大好きな恩人を思い出し、次いで今世の優しい家族ならば、ささやかなワガママを受け止めてくれるだろうと確信する。

 それならば……一つ、おねだりをしてみよう。


「めがね、わたしもほしいです」

「おや……」

「あら、まぁ」


 私の唐突な言葉に、困惑する初老の執事と、驚く母上を見上げ、さらに言葉をつけ加えてみる。


「みえかたがかわらない、めがね。ありませんか?」

「――まぁ! わたくしの子供たちは、どうしてどの子もこんなに賢いのかしら!?」


「おかあさまとおとうさまの子だからよ!」

「ははうえとちちうえのこだからですね」


 どうやら名案だったらしい私の言葉に、声を弾ませた母上への返答が、見事に姉上と重なった。



 ――結果、朝におねだりした眼鏡は、素晴らしい技術を持つ職人によって、完成品が昼食後には届けられ……。


「きゃ~~っ! セルディスがもっとかわいくなったわ!!」

「うんうん。眼鏡姿もにあっているよ」

「あぁ、よく似合っているな」

「ふふっ! とても軽いものが届いて、よかったわ」


 そう、私の大切な家族を、私よりも嬉しげな笑顔にしてくれた。


 母上の言う通り、とても軽い銀縁眼鏡には、繊細な銀色の玉鎖までつけられていて、うっかり落としてしまっても安全な仕様になっており。

 さっそくかけて、その素晴らしい出来栄えに満足さと感謝を感じながら、かつての記憶を振り返り微笑む。


 その銀縁眼鏡は――前世で私自身が手作りしていた物に、とてもよく似ていた。




 素敵な眼鏡をつくってもらった、その後。


 父上の仕事と兄上の勉学の休憩時間に、家族全員で庭園の散歩を楽しむ中で、足下に眼鏡のお礼になりそうな物を見つけ、拾い上げる。


「おぉ。綺麗な小石だな、セルディス」


 そう言って、優しく頭を撫でてくれる父上を見上げ、ひとまずうなずいておく。


 どうやら……優秀な魔法使いである父上でも、今拾い上げた水色の小石に見えるコレの正体には、気づいていないらしい。


 本来の色である、私の髪色と同じ、この世界における魔力の色を示す青銀色ならば、きっと父上も気づいたことだろう。


 色の薄い小石の正体を見抜くためには、私が前世で取った杵柄である、この魔力を視る技能が必要だったようだ。


 ――水色の小石の正体は、魔力を宿す魔力石。

 世界中で、魔法使いや魔道具の職人が宿る魔力を活用し、重宝する物だ。


 今回拾った魔力石は、宿す魔力量が少ないため色が淡く見えるものの、職人たちにとってはこの魔力石でも十分、活用できるだろう。


 何はともあれ、父上と母上には、眼鏡のお礼に職人へと渡してもらうように魔力石を託し、穏やかな散歩を終えて再び母上の部屋へと戻った。




 また母上と姉上のお二人と、共に部屋で過ごす中。


 ――こっそりと、若い侍女に治癒魔法をかける。


 おそらく、昨夜の魔物襲撃騒動の時に痛めたのだろう右の足首の怪我は、彼女の動きからすぐに気づくことが出来た。


 怪我を見抜く目は、前世で冒険者だった時に会得したもので、誰にも気づかれずにかける治癒魔法は、前世で大魔法使いへと至る過程で習得したもの。

 きっとどちらが欠けていても、今彼女の怪我を癒すことなど、出来なかっただろう。


 ……ただ、残念ながらこっそり癒しているため、短時間で完治させることは難しく。


「あっ!」


 完全に治癒する前に、重い花瓶を持ち上げてしまった彼女は、足が痛んだことでバランスを崩してしまったらしく、そのまま花瓶を割らないようにと抱えたまま転び、肩を強打してしまった。


 反射的に駆け寄ろうとしたこの身を、執事の一人にやんわりと抱き留められる。


「殿下。危険なので、ここでお待ちください」


「治癒士を」

「はっ!」


 すぐさま母上が告げた指示に従い、初老の王城治癒士が駆けつけて、若い侍女にさっそく治癒魔法をかけはじめた……が。


 途中、足首の怪我にも気づき、そこも癒していた王城治癒士は、痛めた足首の治りが早すぎると疑問を零した。


 若い侍女自身が首をかしげる中、こっそりと治癒魔法をかけていた事実を、黙して隠す。


 前世とは異なり、今世は王子と言う立場がある以上、元・大魔法使いだと告げることも、【創世神の愛し子】であると告げることも、余計な混乱を引き起こさないよう、慎重になったほうがいいはずだ。


 少なくとも――幼すぎる今は、告げるにふさわしい時ではないだろう。


 そう判断して、静かに治癒を見守ることにした。




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