表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
二章 日常と冒険を謳歌する少年
37/50

37話 複数展開型魔法の安定化研究会

 



 悩ましい問題を解決するため、さっそく研究がはじまった。


 研究と言っても、最初から解決策がすぐさま飛び出すわけではない。

 魔法の安定化と言う難題について考えるためには、そもそも魔法と言うものについて、振り返る必要があったから。


「原始的に語るのであれば、魔法は魔力と想像力により引き起こす、奇跡的な力であると、こちらの書物に記されています」


 研究会に参加する事になった【第二王子付き特務魔法団】のみんなの中でも、特に博識なナターシャが、集まった面々にそう説明をはじめる。


 私の頭の中にも、自然と前世で始祖様から教わった知識が、浮かび上がって来た。



 たしか……その奇跡的な力を、一種の技や学問に落とし込むことに成功したのが、いわゆる六大古国だったはず。


 始祖様たちの神がかり的な力を、人間に使えるような知識、技術として整えた結果――前世や今世で世界中の魔法使いたちが使う、今の魔法形態が出来上がったのだとか。


 とは言え、魔法は日々進化しているようなもので、今回の安定化の研究もまた、その進化の一つと言えるだろう。


 もっとも、今回私がサラリと答えを教えるわけにはいかない点こそが、いまだに色濃く残る、魔法の神秘性のあらわれとも言えるのだが……。



「魔力と想像力から生じる、奇跡的な力、ですか……」


 ナターシャの言葉に、副団長のユシルが悩ましく眉根を寄せる。


 他の王城魔法使いたちも、それぞれに思考を巡らせる中、ぱっと現れた始祖様が、ふわりと私の右肩に乗った。


「なんかまた面白いコトをはじめたんだって?」

「いえ、至極真面目な研究ですよ。

 複数展開型魔法の安定化を目指す研究です」

「ほう?」


 あ、始祖様、今絶対に面白い遊びを見つけたと思っていらっしゃる。


「まぁ確かに、魔法はなんだかんだ個人差があるからな~」

「そうなのですよね……」


 実に愉快気な声音で語る始祖様に、しかし全面的に同意してうなずく。


 残念ながら、魔法に関しては本当に、大きな個人差があるのだ。

 そう――主に、想像力と言う名の、個人差が。



「――そうか。

 想像力が、魔法の不安定さを引き起こしているのか!」


 ふいに団長のロデルスが、珍しく常の真剣で落ち着いた表情を崩して、ハッと目を見開き、思わずと言った風に言葉を零す。


 さすがは、【特務団】の団長であり、魔族の森と対峙する辺境伯家の者。

 まさにその点こそが、今回の難題を引き起こしている原因だと、気づいたらしい。



 仮に、同じ文言を詠唱として唱え、同じ魔法の名を宣言したとして。

 それでも、まったく異なる魔法が飛び出てくることさえ、あり得る。


 それこそが、魔法の可能性であり、一律に揃えたい場合における、厄介な部分でもあった。


 では、どうやって安定化を図るのか?

 それこそが、今回の研究の主題だ。



 団長ロデルスの気付きに、他の王城魔法使いたちだけではなく、【特務団】のみんなもいっそう思考に没頭していく。


「魔法の形を同じにするだけなら、その魔法の形を見せるだけで、たいがい同じ形になるんだけどなぁ?」

「今回の議題は、さらにその一歩奥の難題になりますね」

「む、難しい~~!」


 そう呟くヨルの言葉に、ナターシャが上品に微笑みながら返し、それにミミリアが頭を抱える。


 部屋の中にいる多くの者たちが頭を抱える様子を見やり、次いで楽しげに空中を旋回する始祖様の姿を視線で追う。


「おぉ! 悩め悩めガキども~~!!」

「楽しまないでください、ワース師匠」

「ゲ! セスに師匠呼びで怒られた……これはマジなやつだ!」


 不穏な楽しみ方をする師匠の愚行を止めるのは、いつだって弟子の役割だ。

 はぁ、と一つため息を落として、始祖様に半眼を向ける。


「おっしゃる通りマジなやつですので、悩める後輩たちを静かに見守って差し上げてください」

「分かった、大人しくするって!」


 慌ててこちらへと戻ってくる困った師匠の事は、さておき。

 各々実際に魔法を発動して試している、【特務団】のみんなへと視線を戻す。


「やはり複数展開型となると、慣れ親しんだもの以外は、不揃いになるな……」


 小さな風の球体を数個空中に浮かべ、そう呟く団長ロデルスの言葉に、今までずっと何か考え事をしていた最年少のローランが、ようやく口を開いた。


「え~っと~。

 ぼく、あまり不揃いになったりは、しないのですが~」

「――えっ?」


 彼の近くで、みんなの話を聴いていた姉上が、ぱっと顔を上げて疑問を零す。


 とたんに、部屋中から一気にローランへと視線が集まった。


 普段は見せない気まずそうな表情をする彼へ、助け舟を出す。


「……ちなみに、私も前世で魔法を使いはじめた当初から、複数でも均一な展開が出来ていました」

「えぇ!?」


「想像力ってか、認識の違いってやつだな~!」

「え~~!?!?」


 トドメの一撃のような始祖様の言葉に、姉上とみんなの叫び声が重なった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ