34話 真なるダンジョン攻略
夜の闇におおわれた、森の中。
この闇を得意とする魔物たちを倒しながら、冒険者たちと共に少しずつ前進していた、その時。
「セルディス殿下、ただいま御前に」
よく通る低い男性の声――【特務団】の団長、ロデルス・スールッツの呼び声が、耳に届いた。
「団長! みんな!」
すぐそばで魔物を風魔法で倒した副団長のユシルが、ぱっと振り向き声音を弾ませる。
共に振り返った先には、【第二王子付き特務魔法団】のみんなが揃っていた。
さらに、【特務団】のみんなの後ろに続く、王城魔法使いの面々を見やり、微笑む。
この場はもう、冒険者たちと王城魔法使いのみんなに任せていいだろう。
素早くそう判断したのち、近衛騎士と【特務団】のみんなを連れて、青銀級冒険者たちが戦う前方まで歩み出る。
「【青天の風】のみなさん。
私たちは一足先にダンジョンを探し、見つけ次第攻略します。
――ここは、あなたたちに任せましたよ」
「わ、分かりました!
お気をつけて!!」
互いに武運を祈り、今度こそ本領発揮をするために、駆け出した。
木々の間を抜け、襲い来る魔物たちを倒しながら、森の中を駆け抜け――ようやく、魔物たちが集う場所へとたどり着く。
「ここが入り口かぁ?」
「そのようです」
始祖様との短いやり取りだけで、近衛騎士や【特務団】のみんなにも、この場所が地下ダンジョンの入り口であることが伝わったのだろう。
静かに剣をかまえ直し、杖をかかげた面々を見やり、凛と告げる。
「入り口付近の魔物たちを一掃し、ダンジョンを攻略します」
「はっ!!」
応じる声を合図に、こちらへと赤い炯眼を向けた魔物たちへと魔法を放つ。
実力をつけた魔法使いである【特務団】のみんなも、魔物目がけて魔法を飛ばし、風や水や氷の魔法が飛び交う。
こちらへと襲いかかる魔物たちには、容赦なく近衛騎士二人の剣が振るわれ、あっという間に入り口付近に集まっていた魔物たちを、一掃する。
さて、問題はここからだ。
以前【特務団】のみんなと、ダンジョンを探索した日の事を思い出し、気を引きしめる。
今回はこの未知の地下ダンジョンを、探索するだけではなく、徹底的に攻略する必要があるのだ。
始祖様もそばにいてくださっているから、問題ないとは思うが……。
ここは一つ、【特務団】がさらなる成長をしている事に期待して。
いざ、ダンジョン内へ。
暗闇を光魔法で照らし、地面から地下へと下る通路を進む間にさえ、押し寄せる魔物たちとの戦闘を重ねていく。
「ケガしたらすぐに言えよ~!
治癒してやるからな~!」
「はい!」
「助かりまっす!!」
私の周囲で、魔物たちをかいくぐりながら飛ぶ始祖様の言葉に、ミミリアとヨルが返事を返す。
とは言え、他のみんなは返事ではなく魔法の名を発しているあたり、やはり少々魔物の数が多すぎる。
そもそも魔物が溢れたダンジョンに潜る場合は本来、もっと大人数で行くものだ。
その通例に従わず、少数先鋭でダンジョン攻略と言う名の、溢れる魔物たちの討伐を優先したのは、他でもない。
森で戦う戦友たちを護るためには、いち早く鎮圧する必要があると思ったからだ。
「――ワース師匠」
「おう? おぉ……よし。
やれ!! セス!!」
早急に鎮圧をするため、サラリと始祖様に許可を貰う。
刹那――ダンジョン内に、浄化の白光が炸裂した。
かくして、早々にダンジョンを攻略し、魔物たちの暴走を鎮圧した後。
無事に戻ってきた冒険者ギルドの、ギルド長の執務室にて。
再び、水鏡の魔法で王城とこちらを繋ぎながら、ギルド長と父上が報告し合う様子に耳を傾けつつ、静かに会話がひと段落する時を見計らう。
今回の、地下ダンジョンから溢れた魔物たちによる暴走事件もまた。
――どうしても、あの灰色の悪意を、思い出さずにはいられなかったから。
報告と今後の対策案がまとまり、会話が落ち着いた頃、そっと二人に声をかける。
「父上、ギルド長。
魔族たちの動向には、今後も注意を続ける必要があります。
……魔人の悪意は、とても厄介ですから」
サッと表情を変えた二人を交互に見つめながら、思う。
いや、もはや半ば、確信していた。
あの灰色の魔人は、二百年の時を経て。
もう一度、私たちにその邪悪なはかりごとを向けてきている、と。
「今後も継続して、実力の底上げにつとめよう」
「俺も、冒険者たちの尻を叩いておきましょう!」
「――よろしくお願いします」
強い意志を宿した、父上とギルド長の言葉に、真剣な声音で願いを返す。
おそらく、まだあの魔人が表に出てくる事はないだろう。
アレはとても用心深く、用意周到に策を講じる魔人だから。
厄災に備える時間は、まだある。
その間――こちらも思う存分、強さを磨いて行こう。




