33話 闇を断つ強者たち
王城と冒険者ギルドとで共闘する事が決まった後の流れは、もはやお互いに手慣れたもの。
冒険者ギルドでは、ギルド長によって素早く招集と説明がおこなわれ、金級以上の冒険者たちと私が、例の森の危険地帯へ行く事になった。
「青銀級冒険者パーティー【青天の風】。
指揮は、お前たちに任せた!」
「ハイッ!」
ギルド長ドレイクがそう告げ、森へ向かう冒険者一同の指揮を、小型魔物の凶暴化事件で顔見知りとなった、青銀級冒険者たちに託す。
銀級以下の冒険者たちと共に、王都の守護に専念する事を決めたギルド長は、青銀級冒険者たちの返事にうなずいたのち、私へと視線を向けた。
「殿下と護衛のみなさんは、完全に独立して動いてもらってかまいません。
王城からも、王城魔法使いのみなさんが来てくれるようですが、殿下のところのみなさんは、殿下と行動を共にするとのことです」
「――心得ました」
つまり、私と【特務団】は自由行動をしていい、と言うことだろう。
それならば……【特務団】のみんなと合流した後は、私たちが先陣を切って事態の正確な危険性を、確かめに行こうか。
素早く思考を巡らせていると、軽く叩くように、右肩で人工精霊の始祖様が跳ねる。
「油断するなよ、セス」
「はい、ワース師匠」
血筋の始祖としてではなく、魔法使いの師匠としての呼び方で答えたのち。
青銀級冒険者たちの一団【青天の風】を筆頭に、森へと行く冒険者たちが動き出すのに合わせ――私たちも冒険者ギルドの外へと足を踏み出した。
城下の街を出て、街道からそれた先の森へと入り込み、北側へと向かって歩むことしばし。
「……セルディス殿下」
夕陽が落ち切り、暗闇に染まる森の中、ふと後ろをついて来ていた【特務団】副団長のユシルが、そう声をかけてきた。
どうやら、ユシルも気づいたらしい。
「上出来です、ユシル。
魔力感知が上手になりましたね」
「この距離で気づけるなら、まぁまぁってところだな」
「ありがとうございます。
しかし……これは……」
私と始祖様の称賛に、束の間声音をやわらげたユシルは、それでもすぐに真剣さと緊張を混ぜた呟きを零す。
彼の緊張感は、自然と周囲で共に足並みを揃えていた金級冒険者たちにも伝わり、次いで先陣を切っていた青銀級冒険者たちが、足を止める。
さきほど、私や始祖様やユシルが気づいた状況に、彼や彼女たちも気づいたようだ。
「各自、警戒態勢!
どうやら、もう群れが出て来ているようだ!」
素早くそう、指示が飛ぶ。
「群れって……」
「ったくよぉ。ただでさえこっちは、夜が得意な相手と戦わないといけねぇってのに」
苦味をおびた声や、不服の声が漏れ聞こえるものの、それらすべてに一切の油断はない。
金級冒険者ともなると、群れる魔物の襲撃程度では動じないところは、前世から変わっていないようだ。
頼もしさに微笑むと、あちらこちらから飛び交う、仲間たちへ向けた声に耳を澄ます。
「後衛! 光魔法の準備を!」
「はいっ!!」
「気を抜かないでね!」
「そっちこそ!」
「やれやれ……無事に帰るためにも、気合いを入れましょうかねぇ」
「え、あなたに気合いを入れるって言う考えがあったのですか?」
「ひ、酷い言われようです……」
……若干、あやしげな雰囲気の者たちもいるが、それでも金級冒険者に違いはない。
大丈夫だろう、きっと、たぶん。
「おい、セス。
お前、魔物退治より、子守りで忙しくなるんじゃねぇか?」
「そのあたりは言わないお約束ですよ、始祖様」
「今、お前自身もそんな気がしてるって、暴露したようなもんだぞ??」
「……黙秘権を行使します」
――本当にそうなってしまう可能性が、まったくないとまでは言い切れないけれども。
「フハッ!
まぁ、いざって時は、俺も動いてやるよ!」
「始祖様が動くと、余計大惨事になる気がしますね」
「なんだとぉ!」
「それに……さすがに金級以上の冒険者たちの守りは、必要ないと思いますよ」
そう、呟いた直後。
前方の茂みから、闇夜に紛れるようにして、黒を毛色としてまとう狼型の魔物たちが、いっせいに飛び出して来た。
サッと満ちた緊迫感に、戦場らしい真剣さと高揚が、静かに満ちていく。
「――行くぞ!!」
「おうっ!!!」
青銀級冒険者パーティー【青天の風】の一声に、他の冒険者たちが応じ――戦闘がはじまった。
本来、夜の闇を好む魔物たちと、夜の時間に戦うことは、困難を極める。
しかしそれでも、金級や青銀級の冒険者たち――強者たちの戦いは、実に鮮やかだった。
暗い森を光魔法で照らし出し、こちらの舞台を整えた上で、確実に魔物たちを倒していく。
前に出た近衛騎士の二人とユシルと共に、【特務団】のみんなと合流するまでは、と冒険者たちの手助けをしつつ、小さく微笑む。
夜にこれほど動ける強者たちならば――安心して、この場を任せることが出来そうだ。




