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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
二章 日常と冒険を謳歌する少年
33/50

33話 闇を断つ強者たち

 



 王城と冒険者ギルドとで共闘する事が決まった後の流れは、もはやお互いに手慣れたもの。


 冒険者ギルドでは、ギルド長によって素早く招集と説明がおこなわれ、金級以上の冒険者たちと私が、例の森の危険地帯へ行く事になった。


「青銀級冒険者パーティー【青天の風】。

 指揮は、お前たちに任せた!」

「ハイッ!」


 ギルド長ドレイクがそう告げ、森へ向かう冒険者一同の指揮を、小型魔物の凶暴化事件で顔見知りとなった、青銀級冒険者たちに託す。


 銀級以下の冒険者たちと共に、王都の守護に専念する事を決めたギルド長は、青銀級冒険者たちの返事にうなずいたのち、私へと視線を向けた。


「殿下と護衛のみなさんは、完全に独立して動いてもらってかまいません。

 王城からも、王城魔法使いのみなさんが来てくれるようですが、殿下のところのみなさんは、殿下と行動を共にするとのことです」

「――心得ました」


 つまり、私と【特務団】は自由行動をしていい、と言うことだろう。


 それならば……【特務団】のみんなと合流した後は、私たちが先陣を切って事態の正確な危険性を、確かめに行こうか。


 素早く思考を巡らせていると、軽く叩くように、右肩で人工精霊の始祖様が跳ねる。


「油断するなよ、セス」

「はい、ワース師匠」


 血筋の始祖としてではなく、魔法使いの師匠としての呼び方で答えたのち。


 青銀級冒険者たちの一団【青天の風】を筆頭に、森へと行く冒険者たちが動き出すのに合わせ――私たちも冒険者ギルドの外へと足を踏み出した。




 城下の街を出て、街道からそれた先の森へと入り込み、北側へと向かって歩むことしばし。


「……セルディス殿下」


 夕陽が落ち切り、暗闇に染まる森の中、ふと後ろをついて来ていた【特務団】副団長のユシルが、そう声をかけてきた。


 どうやら、ユシルも気づいたらしい。


「上出来です、ユシル。

 魔力感知が上手になりましたね」

「この距離で気づけるなら、まぁまぁってところだな」

「ありがとうございます。

 しかし……これは……」


 私と始祖様の称賛に、束の間声音をやわらげたユシルは、それでもすぐに真剣さと緊張を混ぜた呟きを零す。


 彼の緊張感は、自然と周囲で共に足並みを揃えていた金級冒険者たちにも伝わり、次いで先陣を切っていた青銀級冒険者たちが、足を止める。


 さきほど、私や始祖様やユシルが気づいた状況に、彼や彼女たちも気づいたようだ。


「各自、警戒態勢!

 どうやら、もう群れが出て来ているようだ!」


 素早くそう、指示が飛ぶ。


「群れって……」

「ったくよぉ。ただでさえこっちは、夜が得意な相手と戦わないといけねぇってのに」


 苦味をおびた声や、不服の声が漏れ聞こえるものの、それらすべてに一切の油断はない。


 金級冒険者ともなると、群れる魔物の襲撃程度では動じないところは、前世から変わっていないようだ。


 頼もしさに微笑むと、あちらこちらから飛び交う、仲間たちへ向けた声に耳を澄ます。


「後衛! 光魔法の準備を!」

「はいっ!!」


「気を抜かないでね!」

「そっちこそ!」


「やれやれ……無事に帰るためにも、気合いを入れましょうかねぇ」

「え、あなたに気合いを入れるって言う考えがあったのですか?」

「ひ、酷い言われようです……」


 ……若干、あやしげな雰囲気の者たちもいるが、それでも金級冒険者に違いはない。

 大丈夫だろう、きっと、たぶん。


「おい、セス。

 お前、魔物退治より、子守りで忙しくなるんじゃねぇか?」

「そのあたりは言わないお約束ですよ、始祖様」

「今、お前自身もそんな気がしてるって、暴露したようなもんだぞ??」

「……黙秘権を行使します」


 ――本当にそうなってしまう可能性が、まったくないとまでは言い切れないけれども。


「フハッ!

 まぁ、いざって時は、俺も動いてやるよ!」

「始祖様が動くと、余計大惨事になる気がしますね」

「なんだとぉ!」

「それに……さすがに金級以上の冒険者たちの守りは、必要ないと思いますよ」


 そう、呟いた直後。

 前方の茂みから、闇夜に紛れるようにして、黒を毛色としてまとう狼型の魔物たちが、いっせいに飛び出して来た。


 サッと満ちた緊迫感に、戦場らしい真剣さと高揚が、静かに満ちていく。


「――行くぞ!!」

「おうっ!!!」


 青銀級冒険者パーティー【青天の風】の一声に、他の冒険者たちが応じ――戦闘がはじまった。



 本来、夜の闇を好む魔物たちと、夜の時間に戦うことは、困難を極める。

 しかしそれでも、金級や青銀級の冒険者たち――強者たちの戦いは、実に鮮やかだった。


 暗い森を光魔法で照らし出し、こちらの舞台を整えた上で、確実に魔物たちを倒していく。


 前に出た近衛騎士の二人とユシルと共に、【特務団】のみんなと合流するまでは、と冒険者たちの手助けをしつつ、小さく微笑む。


 夜にこれほど動ける強者たちならば――安心して、この場を任せることが出来そうだ。




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