27話 冒険者としての冒険
王子としての日常を、昼まで過ごした後――昼食後からは、冒険者としての時間がはじまる。
今日は【第二王子付き特務魔法団】の団員、貧民街育ちの平民の青年ヨルと、冒険者を兼業している伯爵家の三女の女性ミミリア・リケー、そして近衛騎士の二人と一緒に、馬車で冒険者ギルドへと向かう。
「今日はどんな面白い依頼がありますかね?」
「面白いって……遊びじゃないのよ、ヨル」
「俺は面白い依頼をセスがうけるの、見てみたいがなぁ」
「相変わらず趣味が悪いですよ、始祖様」
「ハッハッハ!! 褒め言葉だな!!」
馬車の中で、ヨルとミミリア、そして始祖様と私が交わす言葉を聞き、近衛騎士の二人が苦笑するまでが、最近のパターンだ。
心配性の父上との話し合いの結果、護衛をつけるのは当然として。
冒険者としての活動時には、人工精霊の始祖様が宿る魔導書を、左腰に装着したホルダーに入れて持って行くことになっており。
加えて、前世でも身に着けていた、始祖様の遺品であり私への贈り物でもある、様々な魔法がかけられた防具、青銀色のローブもまとうことになったため、必然的に前世と近しい安全性を確保できていた。
……私としては、懐かしいやら、過保護やら、と言う状態だが、第二王子と言う立場を考えると、むしろ妥当ではあるだろう。
そうして、馬車に揺られて間もなく。
石造りの大きな建物――冒険者ギルドへと到着した。
簡素な木製の扉から、建物の中へと入ると、ここ数日で聞き慣れた声たちが耳へ届く。
「お! 第二王子殿下!」
「いらっしゃいませ、殿下~!」
「おぉ? あの子がウワサの?」
「あぁ、第二王子セルディス殿下だ」
「【創世神の愛し子】なんだよな?」
「おう、そうらしいな」
飛び交う声の中、挨拶へは微笑みを返しつつ、左右の壁に貼られている仕事の依頼が書かれた紙を、ゆっくりと眺めながら移動する。
――もちろん、その間に冒険者のみんなと交流することも、忘れずに。
「今日は、魔族の様子に変化はありませんか?」
「おう! みんな張り合いがねぇって嘆いてるくらいですぜ」
「ハハッ! そりゃ平和でいいな!」
「いやいや、平和すぎるのも問題ってなもんですぜぇ? 始祖の旦那!」
「分かってるって!
多少の暴れがいは、必要だよなぁ?
なぁ、セス?」
「はい。特に、冒険者には必要かと」
「ダッハッハ!! さっすが旦那に殿下! よぉく分かってらっしゃる!!」
そう、近状をこちらから尋ねつつ、始祖様も加わり会話に華を咲かせていると、他の冒険者たちからも声が飛んでくる。
「今日はどんな依頼をうけるんですか? セルディス殿下!」
「そうですね……。
緊急性の高いものや、長く解決していないものがあれば、そちらにしようかと。
それらの依頼がなければ、魔物の討伐依頼をうけますよ」
「護衛の皆さんもいるでしょうけど、気をつけてくださいね!」
「はい。ご心配、ありがとうございます。
あなたたちも、気をつけて」
「「はい!!」」
興味と身を案じる声に応えると、反対側からはお馴染みの言葉が飛んで来た。
「ハン! 王子だ、【創世神の愛し子】だ、つってもよぉ。
今はただの銅級冒険者のガキだろぉ?」
――自信家の冒険者にとっては、もはやお約束的な考え方と言える。
小さくため息を零し、とりあえずと私が口を開く……より先に、始祖様の言葉が飛んだ。
「あ? ケンカ売ってんなら俺が買ってやるぞ?」
「いえ、なぜ私に売られている喧嘩を始祖様が買うのですか」
「俺が気に入らねぇから」
「即答ですか。
私が買うので引っ込んでいてください」
「おまっ! 本当に俺にはザツぅ!!」
紫色の光を明滅させて、ほとんど見せかけだけの怒りをあらわにする始祖様は、そっと横に置き。
お馴染みの言葉を告げた冒険者を見上げて、サラリと告げる。
「でも、いいんですか?
私一応、前世では――天級冒険者でしたけど」
「……へっ?」
天級――すなわち、魔族の中で最強の存在たる魔人さえも倒す力を持つ、最強の冒険者。
かつての時はそのような存在だった、と伝えた後は、必ずギルド内がしんと静まり返る。
懐かしの冒険者生活を再開して、はや数日。
冒険者ギルドの建物内でのやり取りは、もはやここまでが一連のパターンと化していた。
元・天級冒険者だと暴露したとたんに、あちらこちらから注がれる尊敬の眼差しを気にせず流し、今日は普通に魔物の討伐依頼をうける。
見習いから銅級冒険者へと、昇級するためにうけた試験とは異なり、仕事の際は護衛などの戦力も借りることが出来るため、討伐依頼は【特務団】のみんなにとっても、いい実戦体験の場になっていた。
狼型の魔物たちを相手に、上手く連携して戦うヨルとミミリアを見守りながら、こちらはこちらで、始祖様に見守られて依頼の討伐をおこなっていく。
――小さな冒険を積み重ね、やがて一冊の本を彩るような人生と言う名の物語を創り上げる。
冒険者には、今世でもそのようなロマンがあるのだと、しみじみと感じ入る昼下がり。
私もまた――この冒険の日々を歩んで行こう。
そう、密やかに思った。




