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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
二章 日常と冒険を謳歌する少年
27/50

27話 冒険者としての冒険

 



 王子としての日常を、昼まで過ごした後――昼食後からは、冒険者としての時間がはじまる。



 今日は【第二王子付き特務魔法団】の団員、貧民街育ちの平民の青年ヨルと、冒険者を兼業している伯爵家の三女の女性ミミリア・リケー、そして近衛騎士の二人と一緒に、馬車で冒険者ギルドへと向かう。


「今日はどんな面白い依頼がありますかね?」

「面白いって……遊びじゃないのよ、ヨル」


「俺は面白い依頼をセスがうけるの、見てみたいがなぁ」

「相変わらず趣味が悪いですよ、始祖様」

「ハッハッハ!! 褒め言葉だな!!」


 馬車の中で、ヨルとミミリア、そして始祖様と私が交わす言葉を聞き、近衛騎士の二人が苦笑するまでが、最近のパターンだ。



 心配性の父上との話し合いの結果、護衛をつけるのは当然として。


 冒険者としての活動時には、人工精霊の始祖様が宿る魔導書を、左腰に装着したホルダーに入れて持って行くことになっており。


 加えて、前世でも身に着けていた、始祖様の遺品であり私への贈り物でもある、様々な魔法がかけられた防具、青銀色のローブもまとうことになったため、必然的に前世と近しい安全性を確保できていた。


 ……私としては、懐かしいやら、過保護やら、と言う状態だが、第二王子と言う立場を考えると、むしろ妥当ではあるだろう。



 そうして、馬車に揺られて間もなく。

 石造りの大きな建物――冒険者ギルドへと到着した。


 簡素な木製の扉から、建物の中へと入ると、ここ数日で聞き慣れた声たちが耳へ届く。


「お! 第二王子殿下!」

「いらっしゃいませ、殿下~!」


「おぉ? あの子がウワサの?」

「あぁ、第二王子セルディス殿下だ」


「【創世神の愛し子】なんだよな?」

「おう、そうらしいな」


 飛び交う声の中、挨拶へは微笑みを返しつつ、左右の壁に貼られている仕事の依頼が書かれた紙を、ゆっくりと眺めながら移動する。


 ――もちろん、その間に冒険者のみんなと交流することも、忘れずに。


「今日は、魔族の様子に変化はありませんか?」

「おう! みんな張り合いがねぇって嘆いてるくらいですぜ」


「ハハッ! そりゃ平和でいいな!」

「いやいや、平和すぎるのも問題ってなもんですぜぇ? 始祖の旦那!」

「分かってるって!

 多少の暴れがいは、必要だよなぁ?

 なぁ、セス?」


「はい。特に、冒険者には必要かと」

「ダッハッハ!! さっすが旦那に殿下! よぉく分かってらっしゃる!!」


 そう、近状をこちらから尋ねつつ、始祖様も加わり会話に華を咲かせていると、他の冒険者たちからも声が飛んでくる。


「今日はどんな依頼をうけるんですか? セルディス殿下!」

「そうですね……。

 緊急性の高いものや、長く解決していないものがあれば、そちらにしようかと。

 それらの依頼がなければ、魔物の討伐依頼をうけますよ」


「護衛の皆さんもいるでしょうけど、気をつけてくださいね!」

「はい。ご心配、ありがとうございます。

 あなたたちも、気をつけて」

「「はい!!」」


 興味と身を案じる声に応えると、反対側からはお馴染みの言葉が飛んで来た。


「ハン! 王子だ、【創世神の愛し子】だ、つってもよぉ。

 今はただの銅級冒険者のガキだろぉ?」


 ――自信家の冒険者にとっては、もはやお約束的な考え方と言える。

 小さくため息を零し、とりあえずと私が口を開く……より先に、始祖様の言葉が飛んだ。


「あ? ケンカ売ってんなら俺が買ってやるぞ?」

「いえ、なぜ私に売られている喧嘩を始祖様が買うのですか」

「俺が気に入らねぇから」

「即答ですか。

 私が買うので引っ込んでいてください」

「おまっ! 本当に俺にはザツぅ!!」


 紫色の光を明滅させて、ほとんど見せかけだけの怒りをあらわにする始祖様は、そっと横に置き。

 お馴染みの言葉を告げた冒険者を見上げて、サラリと告げる。


「でも、いいんですか?

 私一応、前世では――天級冒険者でしたけど」

「……へっ?」


 天級――すなわち、魔族の中で最強の存在たる魔人さえも倒す力を持つ、最強の冒険者。

 かつての時はそのような存在だった、と伝えた後は、必ずギルド内がしんと静まり返る。


 懐かしの冒険者生活を再開して、はや数日。

 冒険者ギルドの建物内でのやり取りは、もはやここまでが一連のパターンと化していた。



 元・天級冒険者だと暴露したとたんに、あちらこちらから注がれる尊敬の眼差しを気にせず流し、今日は普通に魔物の討伐依頼をうける。


 見習いから銅級冒険者へと、昇級するためにうけた試験とは異なり、仕事の際は護衛などの戦力も借りることが出来るため、討伐依頼は【特務団】のみんなにとっても、いい実戦体験の場になっていた。


 狼型の魔物たちを相手に、上手く連携して戦うヨルとミミリアを見守りながら、こちらはこちらで、始祖様に見守られて依頼の討伐をおこなっていく。


 ――小さな冒険を積み重ね、やがて一冊の本を彩るような人生と言う名の物語を創り上げる。

 冒険者には、今世でもそのようなロマンがあるのだと、しみじみと感じ入る昼下がり。


 私もまた――この冒険の日々を歩んで行こう。

 そう、密やかに思った。




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