25話 幕間 我が子と愛弟子
第二王子セルディスが、前世での自らの事――大魔法使いセルディス、当本人であることを開示した後。
彼を含めた当代の王子や姫が眠りについた頃、反して大人たちは、静かな会合を開いていた。
集まった面々は、当代王に王妃、そしてセルディスによって、再び現代に意思を目覚めさせた、人工精霊姿の初代王。
その集まりで出される話題は、当然ながら――当代国王夫妻の子であり、初代王の愛弟子である、セルディス・マギロードのことだった。
「――では、セルディスは前世で、大魔法使いであらせられた御身の後継者として魔法を極め、大魔法使いへ至った、と?」
「あぁ! まぁ、そこまでの事が出来たのは、あいつが前世でも【創世神の愛し子】だったからって部分も、おおいに関係してたけどな」
「あらまぁ! セルディスは、かつての時でも【創世神の愛し子】でしたのね……!!」
「おぉ。そのせいか、幼い頃はずいぶん可愛げのないガキだったぞ」
自らの始祖が語る、我が子の前世の姿に、両親は互いに顔を見合わせ、仲良く首をひねる。
「わたくしは、セルディスが可愛くて仕方がないのですけれど……」
「私も、あの子に可愛げがないと思ったことは、一度もありませんね」
頭上に疑問符を浮かべる夫婦を見やり、人工精霊姿の始祖はため息を零す。
「立派な親バカだな、お前ら。
つっても、そう言うトコも俺ゆずりなんだろうけどな」
やれやれ、と首を振るように、ゆらゆらと小さな身を揺らしながらそう語る声音には、呆れと慈しみが混ざっていた。
「始祖様も、子供たちの事を愛らしく思っているのですか?」
セルディスの呼び方を参考にして、初代陛下ではなく始祖様呼びをしつつ問いかけた当代王に、始祖はピカピカと紫の光をまたたかせる。
「あったり前だろぉ?
最高な俺の、可愛い自慢の子孫たちだぞ??
セスもアルヴェルもルフェリアも、それにお前も。
――全員、世界で一番可愛いって、生まれる前から決まってんだよ!」
自信たっぷりで、偽りようのない愛情を告げる始祖に、当代王が嬉しげに微笑む。
「ありがとうございます、始祖様。
我々子孫一同も、御身の偉大さと愛情の深さを、心底自慢に思っております」
「ハッハッハー!! そうだろそうだろ~~!!」
可愛い子孫の言葉に、上機嫌で笑い声を響かせる始祖。
嬉しげな初代王の様子を見つめ、国王夫妻はまた互いに微笑みを交し合う。
次いで、当代王は静かに自慢の初代王へと伝えた。
「……話は戻りますが、今のセルディスは、本当に周囲の者たちのことをよく気にかけ、必要であれば迷わず手を差し伸べる、心優しい子です」
「へぇ? まぁ、前からお人好しなところはあったが……いや、そうか」
今世のセルディスについて語る当代王の言葉に、ふと始祖が言葉を区切り、笑い声を零す。
「ハハッ! そう言うことか!
なるほどなぁ……セスも歳をとったってコトか。
調べた限りじゃ、あいつ前の時は大往生だったみたいだしなぁ」
再び疑問を顔に浮かべた国王夫妻に、始祖は楽しげに語る。
「前の時のセスは、落とし子って言う出自だとか、わずらわしい周りの反応だとかのせいで、まずはセス自身の身と心を護らないといけなかったんだがな?
それが今は、周りにいるやつらを護れるようになったんだ。
立場の違いもあるだろうが……俺から見れば、大成長ってやつだな!」
「なるほど……」
「セルディス……」
始祖の言葉に、感激を胸に灯して、当代王と王妃は――今のセルディスの父と母は、嬉しげに呟く。
二人の様子に、束の間沈黙した始祖は、今度は穏やかに語りはじめた。
「ただ、な。
人生まるまる八十年を前の時で過ごしていてもなお、セルディスって言う人間は、ようやく感情が顔に出るようになったばかりの、不器用で、繊細なやつなんだ」
つい数時間前、セルディスが寂しさに涙を零し、風の君と語り合った出来事を、魔法で調べて垣間見た始祖は、だからこそ、と言葉を続ける。
「だから――お前たちも遠慮なく、俺の愛弟子を我が子として、存分に可愛がってやれ!」
背中を押すような始祖の言葉に、国王夫妻は迷いなくうなずく。
たとえ、在りし日の記憶があろうとも。
たとえ、その幼い姿以上の内面があろうとも。
産声を上げたその日から、今も、これから先も。
二人にとって、セルディスは――大切な愛する、我が子だから。




