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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
22/50

22話 銅級冒険者へ至る試験

 



 試験の説明を聴いた後は、そのまま試験に挑むことになった。


 王族と言う立場ゆえか、ギルド長が直々に試験の場となる、王都の外に広がる森へと案内してくれるとのことで、一緒に馬車に乗り街から外へと出る。


 そう時間をかけずにたどり着いた森の手前で馬車から降りると、私が尋ねる前にギルド長が口を開いた。


「俺は、安全と試験内容の確認のために、後ろから距離をあけて殿下に付いていきますが、手助けはしませんので、気をつけて進んでください」

「はい。心得ています」


 二ッと笑うギルド長に、しっかりとうなずきを返し――試験、開始。



「みんなもついてくるだけで、手は出さないように」

「ハッ!!」


 近衛騎士の二人と、【特務団】副団長のユシルにも、念のため方針を告げてから、森の中へと踏み入る。


 一応、今回のような試験では、風の君や風の下級精霊たちの力も、借りない予定だ。

 試験的には、精霊の助力は個人の才による力に含まれているため、本当は使ってもいいのだけれど……前世の時と同じく、やはりここは自身だけで戦える事を、証明しておきたい。


 まぁ、ギルド長以外の面々には、証明するまでもなく知れ渡っている事ではあるのだが。


 前世では、始祖様と風の君と言う保護者の力を借りず、本当に私一人で戦えるかの確認だったな、と懐かしく思いながらも、魔力を薄く広げて魔力感知をおこない、この浅い場所には必ずいる、兎型の魔物を探していく。


 小型のものははぶき、大型のものが一、二……三体。

 ついでに四、五体と、一つの群れとして同じ場所にいるようだが、問題はない。


 討伐の証明部位である、魔核と耳さえ残れば――どのように戦っても、かまわないのだから。



 時折、小型の魔物たちを氷の魔法で氷漬けにしつつ、サクサクと浅い森の中を進み、ようやく一つ目の目的地へと到着する。


 眼前には、茶色の毛並みを持つ大型の兎姿の魔物が五体。

 下草を食むフリをして、こちらへと飛びかかる機会をうかがっている。


 この単純な魔物たちの相手は、そう難しいものではない。

 狙っているのはこちらも同じなのだと、ただそう示し――逃がす前に、倒せばいいだけだ。


 後方で、近衛騎士たちとユシルが、緊張感に魔力を張り詰める中。


 そっと魔物たちへ向けた右の掌、その少し前方の空中から、氷の槍を射出して、まずは一体。

 とたんに、まさしく脱兎のごとく逃げ出した残り四体へも、次々と創り出した氷の槍を飛ばして、氷漬けにした。


「さすがはセルディス殿下!!

 なんと無駄のない発動でしょう!!」

「ユシルも、これくらいはもう出来るでしょう?」

「いいえ! 僕など、まだまだです!」


【特務団】の副団長であるユシルからの称賛に、彼が更なる強さを求めようと励んでいることを察し、努力家の弟子にやわらかな微笑みを送る。


 この一年で、【特務団】のみんなは、本当に驚くほど強くなった。

 文字通り、実力の底上げをすることが出来た現状に、しかし当の本人たちはまだ満足をしていないらしい。


 その向上心こそが、魔法を極めていく原動力となる事を知っている身としては、喜ばしい限りだ。


 短い会話と思考の合間に、氷漬けになった耳をパキリと折り、黒い石のような見た目をした魔核を体内から取り出し、二種類の証明部位を渡された袋に入れて――次の獲物を探る。


 一応、ギルド長の魔力も探り、しっかり後ろから見てくれていることを確認したのち、今度は森の少し奥へと進んで行く。



 次に倒す相手は、狼型の魔物。

 あの魔物たちは群れではなく、いわゆる一匹狼として森の中を駆け回っているため、一体ずつ見つけて討伐する予定……だったのだが。


「獲物の取り合い中、でしたか」


 魔力感知で探っていた時、なぜか同じ大きさの狼姿の魔物が、三体も集まっている場所があり、気になって来てみた結果。

 三体の内の一体が狩ったのだろう、普通の動物であるイノシシを中心に、魔物たちが互いを威嚇しあっていた。


 その赤い炯眼が、こちらを向き。

 誰かが息をつめた瞬間――三体共が、ザッと土を蹴ってこちらへ駆け出した。


 もはや反射的に結界魔法を展開できるユシルが、結界を展開するその前に、私が先に無色透明な結界を展開。


 加えて、狼姿の魔物たちの牙や爪が、展開した結界に届く直前に、別の魔法を放った。


「――伏せ」


 その言葉と共に魔力の重さを変えて、魔物たちを地面に縫いつける。

 土煙を上げて動きを止めた魔物たちは、次いでまたたきの間に氷像と化した。


 ほっと後方から安堵の吐息が零れるのを聞きながらも、つい呟きを零してしまう。


「イノシシ肉は、濃い味の調味料で煮込むと、美味しいのですよね……」

「えっ」


 ――今、後方に控える三人以外の声がしましたね?


 ふっと微笑み、くるりと後ろを振り向いて、笑顔のまま声を飛ばした。


「ギルド長! お土産ができました!」


 やや、間をあけて。


「ワッハッハ!!

 まさか土産までついてくるとは!

 文句なしの合格ですぞ、殿下!!」


 茂みの奥から現れたギルド長は、そう合格を宣言してくれた。

 ……満面の笑みで、横たわるイノシシを見ながら。


 どうやらよほど、私のお土産を気に入ってくれたらしい。


 反射的に護衛の三人と視線を交わし、うっかり笑みを零してしまった。




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