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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
21/50

21話 懐かしの冒険者登録

 



 また一年の時が流れ、八歳の誕生祝宴の、その翌日。



「……建物は、あまり変わっていませんね」


 馬車から降り、見上げた石造りの大きな建物の前で、小さく呟く。


 一年前の言葉通り――私は無事、冒険者ギルドへ登録に来ていた。



 今まさに、簡素な木製の扉の内側から、外へと出てきた荒くれ者の風体をした数名が、驚きからかこちらを二度見した後、素早く扉の前をあけてくれる。


 その気遣いに微笑みを返し、近衛騎士二人と、【第二王子付き特務魔法団】から連れて来た副団長のユシル・ギレムを伴って、さっそく冒険者ギルドへと踏み入った。


 刹那、賑やかさに満ちていた広い室内が、シン……と静まり返る。


 ただ、これは冒険者たちにとって、どのような人物がここへ来たのかを確認する儀式のようなものなので、特に気にせず奥のカウンターへと向かう。


 当然ながら前世とは異なり、貴族どころか王族であることを示す、紫色のマントをまとっている今、お使いに来たのか坊ちゃん、などとからかいの野次が飛んでくることもない。


 それでも、細い銀玉鎖の飾り紐を揺らし、銀縁眼鏡を指先でつと押し上げると、前世ではじめてこの場所をおとずれた日の事を思い出した。



 あの当時は……ちょうど八歳の誕生日の、その日。


 人工精霊の始祖様が宿る魔導書と、始祖様の遺品である、大きさを変えることができ、強力な守護の魔法がかけられた青銀のローブをまとい、ここへ足を運んだのだったか。


 その頃より前からかけていた、手作りの眼鏡には、瞳の色を紫ではなく藍色に近しい色に見えるよう、認識阻害魔法をかけて細工をする事で、血筋を隠していた。


 ……今となっては、そうして瞳の色を隠す必要もないのだと思うと、同じ八歳と言う年齢での登録にも、時代と立場の違いを感じる。



 懐かしさと、不思議な感慨を抱きながらカウンターへたどり着いた後は、すぐに奥の部屋へと通された。


 通例の時期には数年早いものの、この王国の王族はみんな冒険者登録をするため、特に問題なく、この別室でギルド長直々に登録作業をおこなうらしい。


 そう説明をしてくれた受付嬢が、緊張した面持ちで入れてきたお茶を、ソファに腰かけた私の眼前にある机の上に置くと同時に、扉が豪快にノックされた。

 入室の許可を出すと、すぐに扉が開き、一人の大男が部屋へと入ってくる。


「お待たせしました、第二王子殿下!

 冒険者ギルドのギルド長、ドレイクと申します。

 殿下のウワサは、冒険者ギルドにも色々と届いてますよ!」


 巨漢、強面、スキンヘッドと、三拍子そろえた彼こそが、当代のギルド長だったらしい。

 かなり気さくな雰囲気で、そう語りかけてくるギルド長に、こちらもやわらかな微笑みで応じる。


「初めまして、ギルド長ドレイク。

 第二王子、セルディス・マギロードです。

 冒険者ギルドには、良い噂が届いているはずですよ。

 例えば……第二王子は優秀な冒険者になる素質がある、とか」


 ――王族と言う立場に物怖じしない、優秀なギルド長へお茶目さを返すからには、このくらいの表現はした方がいいだろう。

 そう思いながら告げると、予想通りギルド長はパッと強面を笑みに崩した。


「ワッハッハ!! たしかにそのウワサは、聴いたことがありますな!!

 では早速、優秀な冒険者候補である殿下の、登録をはじめましょう!」

「はい。よろしくお願いします、ギルド長」

「お任せください!!」


 上機嫌にそう答えてくれたギルド長は、慣れた手つきで書類と魔力による登録作業をおこない、冒険者であることを示す登録カードを私へと差し出す。


 大人の掌に収まる、小さめの木製のカードには、私の名前と、魔法使いであることと、現在は見習い冒険者であることが記されている。


 この登録カードも、前世の頃と同じもので、見習い、銅、銀、金、青銀、天、と実力に応じて等級を上げることができ、その都度カードも素材を変えていくのだと続く、ギルド長からの説明にも懐かしさを感じた。


 次いで、仕事の依頼の受け方、依頼の出し方、報酬についてなどの説明がひと通り終わると、今度は私から切り出してみる。


「見習いから銅級へ、すぐに等級を上げるための試験は、今もありますか?」


 これは、前世でも登録後すぐにおこなった、見習いを飛ばして銅級冒険者になるための試験を、今世でもおこなっているかもしれないと閃いての問いかけ。

 私の問いに対し、ギルド長は驚いたように眉を上げて答えた。


「おおっと、これはお目が高い!

 もちろん、ありますが……今日この後、試験を受けるおつもりで?」

「冒険者ギルドの都合がよければ、ぜひに」

「――承知しました!!」


 かくして、とんとん拍子に試験内容まで教えてくれた、ギルド長いわく。


 試験内容は単純で、森の端にいる大きな兎型の魔物を三体、少し奥にいる狼型の魔物を二体倒し、証明部位である魔核と耳を切り取って持ち帰ること。


 それから、個人での戦闘能力が試される試験であるため、それぞれ個別に指定された森へ入ることと、協力しての討伐は不合格になる、との説明が続き。


 最後に、スライム型の魔物や小さな兎型の魔物は、見習い冒険者でも狩ることが出来ると認識されている、と言う補足説明まで伝えてくれたギルド長に、感謝の言葉を告げたのち。


 ほとんど前世の時と変わりのない試験内容を……やはり、とても懐かしく思った。




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