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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
20/50

20話 未来を見据えて

 



 またたく間に終結した、戦いの後。

 すぐさま、怪我をしていた【特務団】の面々の治癒に取りかかる。


「イッテテ……すみません、殿下。

 魔力感知で見つけた時、すぐ引き返せば良かったってのに、俺が直接見に行こうなんて言ったから……」


 一番深手を負いながらも、しっかりと応急処置をしていたヨルの言葉に、治癒魔法をかけながらいまだ紫の光が灯る瞳を向けて、言葉を返す。


「生きていてくれて、本当に良かったです。

 それはそれとして、貴重な学びはぜひ、次に活かすように。

 ……ヨルだけではなく、みんなもですよ」


 チラリと視線を周囲へ注ぐと、他の【特務団】の面々も、反省にうなだれた。


 戦闘に不向きゆえ、最後尾にいたナターシャ以外で、唯一たいした怪我をしていなかった団長のロデルスが、私へと頭を下げる。


「申し訳ありません、セルディス殿下」

「――いや、旦那の的確な指示があったからこそ、オレたちが来るまで持ちこたえて、お仲間もこうして全員生きてるんだぜ?

 そこは胸を張っても良いと思うが……」


 ロデルスの言葉を聞き、今回の調査に協力してくれていた、青銀級冒険者の一人が、そう補足をしてくれた。


「そうでしたか。

 ロデルスはさっそく私が見込んだ通り、戦闘時に活躍をしてくれたと言うことですね」

「恐れ入ります」


 深々と頭を垂れるロデルスの顔を上げさせ、素早く全員の治癒を終えると、あふれ出ていた魔力を内側へと戻し、改めて冒険者の面々に向き直った。


「この度は、調査への協力、並びに私の魔法使いたちへの助力に、感謝します」

「へっ――いやいやいや!?

 オレたちは仕事をしただけですから、気にしないでください殿下!

 それに、オレたちも殿下のあのとんでもない魔法に助けられた身です。

 こちらからも、感謝を!」


 私が伝えた感謝の言葉に、驚いた様子で冒険者たちからも口々に言葉が返される。


「マジで助かりました!!」

「強すぎてちょっとビビってたのは内緒にしてください!!」

「あ、そこはオレも」

「ちょっとアンタたち失礼でしょ!

 ごめんなさい、それから、本当にありがとうございました!!」


 少しだけお茶目さを含んだやり取りに、懐かしさを感じながら、やわらかに微笑む。


「私も、冒険者登録が可能な八歳になり、準備が整い次第、登録をしようと考えていますので、同業者になった時には、またよろしくお願いします」

「おぉ! 楽しみにお待ちしてます!!」


 前方では、笑顔を咲かせる冒険者たち。

 後方では、動揺で魔力を揺らす父上。


 王族が冒険者登録をすること自体は、通例のはずだが……やはり通例である十一歳よりも、登録時期が早いことが問題なのだろうか?


 周囲の近衛騎士や【特務団】の面々まで、そこはかとなく困惑した雰囲気の中。


 ――ひとまず今回の災いは、消し去ることが出来たと、小さく安堵の吐息をついた。




 何はともあれ、問題を解決して、再び城へと転送魔法で帰還したのち。


「ご協力、本当に助かりました、風の君」


【特務団】の危機的状況を知らせてくれた、風の君に改めてお礼を告げると、にこりと嬉しげな笑顔が返された。


「我が君のお役に立てたようで!」

「それはもう、とても」

「あぁ、我が君~~!! わたしも小さな子たちも、喜びに満ちています!」


 そうして、ひとしきり嬉しげに小さなこの身を抱きしめた後、また一瞬で姿を消し去った風の君を見送り。


 次いで、父上を見上げて口を開く。


「父上。この後、魔法団長や各騎士団長、それに重臣たちを集めていただけませんか?」

「あぁ、分かっている。

 私も状況を整理せねばと思っていたところだ。

 すぐに整えよう」

「ありがとうございます」


 私の言葉の意図を、すぐさま理解した父上は、あっという間に場を整えてくれた。


 玉座の間にそろったのは、いつかの日にも見た面々。

 王家と重臣たち、王城魔法使いたちと王城騎士たちだ。


 居並ぶ面々に、まずはと魔法団長の横に並んでいた【特務団】の団長ロデルスから、今回の一件のはじまりから終わりまでが語られる。


「やはり、危険な状況だったのですね」

「あぁ。特に最後の元凶の魔物との戦闘はな」


「セルディスのところのこたちが、無事で良かったわ!!」

「えぇ、本当に……」


 真剣な表情を浮かべる兄上の言葉に、厳しい表情でうなずいて答える父上と、【特務団】のみんなの身を案じてくれる姉上と母上に、集う他の者たちもそれぞれ視線を交わし合う。


 その様子を見つめ、今が頃合いだと、口を開いた。


「残念ながら、やはりこのような魔族たちの動きには、おぼえがあります」


 静かに、しかし危機感を宿して告げた私の言葉に、自然とこちらへ視線が集まる。

 ゆっくりと、注がれるみんなの視線に応えつつ、未来を見据えた重要な提案を言葉にした。


「あの魔人が、裏で糸を引いている可能性がある以上――やはり、全体的な戦力の底上げは、必須かと」


【特務団】のみならず、他の王城魔法使いも王城騎士も含め、もはや全体的な実力の基準を上げることを、目指す。


 実際は言葉で語るほど、決して簡単な内容ではないのだが、否定の言葉は誰からも出なかった。

 玉座の間に集まった者たちもまた、現状と未来に少なからず不穏さを感じたのだろう。


 結果として、私の提案はすぐさま、王城魔法使いや王城騎士たちの訓練や学びの中、果てはそれ以外の者たちの日々にまで組み込まれ――少しずつ、戦力を底上げする土台が、つくられはじめた。




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