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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
19/50

19話 守護の意志

 



【特務団】正式結成後、すぐに【特務団】みんなの予想の真偽を、風の君の協力のもと、こっそりと風の下級精霊たちに調べてもらった結果。


 ……予想通り、強い魔物が現れたことで、弱い小型の魔物たちが影響を受けているようだ、と言う情報が届けられた。


 一瞬だけ瞼を伏せたのち、素早く【特務団】の面々を見やり、告げる。


「――父上にご報告します」

「はっ!」


 そろった返答にうなずき、団長のロデルスと近衛騎士たちを連れて、さっそく父上の執務室へ。



 執務室に入ると、手短ながら確実に、父上と各自の執務机に腰かけた重臣たちに、【特務団】の初仕事である収集した情報の結果を報告する。


「なんと、そのようなことが……よし。

 すぐさま、冒険者ギルドへ調査の協力要請を。

 それとセルディス。【特務団】にも、調査に加わってもらいたいのだが……」

「はい、父上。

 元々の情報を集めたのは【特務団】ですから、お役に立てるかと」

「うむ」


 素早く指示を飛ばし、【特務団】の有効活用まで提案してくれる父上に、それならばと口を開く。


「父上。今回の一件を早急に解決するためにも、調査には私も」

「それは駄目だ」


 加わりたい、と告げる前に、心配と威厳を宿す声に遮られる。

 ――今世ではじめて、父上からキッパリとした、否定の言葉を聞いた。




 父上からの、まさかの却下に固まる私を、横に置いて。


 すぐさま冒険者ギルドと連携し、冒険者の中でも上から二番目の実力者、青銀級冒険者と【特務団】とで、本格的な調査がはじまり。


 ……私は、調査結果を待つばかりの身になってしまった。


「父上……」

「コホン。

 セルディス、冒険者ギルドのギルド長からの伝言にも、こう書かれている。

 [さすがに、まだ冒険者登録さえできないほど幼い王子殿下に、多大な危険がともなう今回の調査に関わるのは、ご遠慮願いたく]……だそうだ」

「……そうですか」


 父上だけではなく、当代のギルド長にまで、伝言で説得されていたらしい。

 自ら調査するつもりだったが、こうも心配をされてしまっては、大人しく断念せざるを得ないと言うもの。


 そうして、文字通り大人しく父上の執務室で、報告を待っていると――部屋の天井付近で、風が渦巻いた。


「我が君」

「――何かありましたか? 風の君」


 風の中から姿を現した風の君は、見慣れた微笑みではなく、真剣な表情をしている。

 私の問いかけに、ふわりと近くへと下りてきた風の君は、コクリとうなずいて口を開いた。


「我が君の子飼いたちが、強力な魔物と遭遇、ただいま交戦中です。

 すでに冒険者たちも戦闘には加わっていますが、深手を負った者が多数いるため、防戦になっているようです」

「ご報告感謝します、風の君」


 耳に入った情報に、半ば反射で感謝を伝え、椅子から立ち上がる。


 冷静に思考を巡らせることは出来る一方で、今はどうしても、普段は落ち着いている感情が騒ぐ。

 私が大切に思う者たちを、傷つけられたことに――確かな怒りを、感じた。


「セルディス、お前は」

「今この王国に、私より強い魔法使いはいません」


 私の行動を止めようとした父上に、事実を告げて。

 ――魂に封じていた魔力を取り出すための、特別な詠唱を口ずさむ。


「〈紫眼のワースに(こいねが)う――我に系譜の導きを〉」


 身体の奥底から、魔力が湧き立つ。

 ふわりと、伸びた青銀の髪が、浮き上がった。


「〈青銀の加護よ、在れ。

 紫眼の祝福よ、今ここに。

 系譜の導きよ、我が名はセルディス――青銀と紫眼にて、全ての魔を制する者なり!〉」


 次の瞬間、身体の内からあふれ出た魔力が、煌く青銀の粒となって周囲へと散り、鮮やかな光を部屋に灯す。


 これは前世で、始祖様直々に教えてもらった、始祖様の血と性質を継ぐ者が、自らの力を最大限発揮するためのおまじない。

 私にとっては、守護の意志、そのものでもあった。


 そっと左肩に寄りそう風の君の気遣いを感じながら、紫の光を宿した瞳で父上を見つめ、ほんの少しの焦りを言葉にする。


「急ぎましょう、父上」

「あ、あぁ。――近衛!」

「ハッ!!」


 短い言葉だけで、この後の展開を察してくれた父上は、呼び寄せた近衛騎士と共に、私のそばへと集まってくれた。


「それでは、転送します」


 再度短く告げ、転送魔法を発動する。

 目指すは、魔力感知ですぐさま探って見つけていた、【特務団】のみんなの近く。




 青銀の光に包まれ、次いでその光が消えた後、目の前には――。


 傷ついた【特務団】のみんなと、剣と魔法を振るう冒険者たちと。

 そして彼や彼女たち全員を、二足歩行で立ち上がり、赤色の炯眼で見下ろす、巨大な狼姿の魔物。


 その魔物が、不気味にニタリと、あざ笑う瞬間を見た――刹那。


「〈セイントール〉」


 反射的に、浄化と撃破をつかさどる白雷の魔法を、獣耳が立つ脳天に降り注がせていた。


 普段であれば。

 古代魔法に匹敵するほど強力なこの魔法は、威力を抑えて使っていただろう。

 ただ今回に限っては、まぎれもなく最高火力な一撃を、慈悲なく叩き込んだ。


 これほど強力な攻撃を受けて、消滅しない魔族など、もはや魔人くらいなもの。

 当然ながら、この威力の攻撃を受けて、強いとは言えただの魔物が耐えられるはずもなく。


 結果として、狼姿の魔物は尻尾の毛先さえ残さずに、消滅。


 加えて、近くに群れていた小型の魔物たちも、父上が氷の魔法で見事に氷漬けにして――またたく間に、戦闘は終了した。




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