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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
17/50

17話 祝福の音楽

 



 風の君との今世での再会、そして灰色の魔人の脅威に対する備えを開始してから、早くも一年近くが経った、今日。


 ――私は、七歳になった。



「セルディス――七歳の誕生日、おめでとう」

「「「おめでとう!!!」」」

「ありがとうございます」


 両親と兄姉、そして傍仕えたちのみで行う、家族限定の誕生祝宴にて。

 それぞれからかけられる祝福の言葉に、自然とやわらかな微笑みが浮かぶ。


 次々と紹介される祝いの品々に若干圧倒されつつ、美しく飾られ、豪華な食事が並ぶ広間を眺める。

 これをささやかな祝宴、と父上も母上も言うのだから、兄上が準成人となる十二歳の記念誕生祭は、どれほど盛大なのだろう。


 つい、前世の王族の誕生祭の光景を思い出しかけて、兄上の声に我に返った。



「今日は、お爺様とお婆様からも、お祝いの品が届いているよ、セルディス」

「お爺様とお婆様……と言いますと、たしか今は、西にある王家の森を守護していらっしゃる……」

「そうよ! お二人とも、と~~ってもお強いの!!」


 兄上の言葉に、思考を巡らせて呟くと、姉上が可愛らしい笑みで答えてくれる。


 記憶の中には、三歳の誕生祝宴で一度だけ顔を合わせた祖父母の、おぼろげな姿があった。


 大陸において、東西南北の内このマギロード王国自体が、魔族の領域に隣接する、西の端にある。

 姉上の言葉通り、とても強い魔法使いであるお二人は、最も深き魔族の領域に近い西の王家の森を、守護してくれているのだ。


 たしか他の地は、北の魔族の森、南の魔族の森、東の安全な国交の地、と言う立地になっており、二つの辺境伯家が、北と南の魔族の森の守護を担っているのだったか。


 勉学の時間で学んだ知識を思い出し、心の中で忙しく過ごしているだろう祖父母に感謝の念を送る。


 そうして穏やかに過ぎ行く誕生日の最中。

 ――突然、広間の天井近くで、魔力を宿す風が渦巻いた。


「我が君~~!」

「風の君?」

「我が君の、七度目となる誕生の祝福がおこなわれていると知り、このとおり駆けつけてまいりました!

 誕生より七年の生、おめでとうございます!」


 ハッと警戒する、近衛騎士や王城魔法使いの面々を気にすることもなく、天井に現れてすぐに私のそばへと下りてきた風の君が、そう祝福の言葉をかけてくれる。

 どうやら、お祝いに来てくれたらしい。


「ありがとうございます。

 父上、母上、それに兄上と姉上も。

 こちらが、かつての時に私と契約をしてくださっていた、風の君です」

「おぉ……その精霊殿が」


 風の君にお礼を告げ、ついでにと驚く父上たちに紹介すると、すぐそばから不満げな声が届く。


「わたし、我が君以外の人間には、あまり興味がないのですが……」

「そう言わないでください、風の君。

 今世の私の家族は、本当に素敵な人たちなのですから」

「我が君がそうおっしゃるのであれば、そうなのでしょうけれども……彼の子孫ですし」

「その点に関しては、私も丸々同じですね」

「――そう言えばそうでしたね?」


 ここで風の君か言うところの彼とはすなわち、我々王家の始祖様のことだ。

 つまりしっかり、私も含まれる。


「あぁ、でも我が君は我が君ですから、特別ですよ!

 今回も、こちらを披露させていただきますね」


 精霊らしい、超然とした理屈による言葉の後、広間の中にふわりふわりと、銀色の風が舞う。

 この光景には――おぼえがあった。


 刹那、優しく穏やかでいて、どこかほんのりと郷愁を思わす音色が、流れはじめる。


「……音楽?」


 ぽつりと呟いた姉上に、うなずきを返す。


「風の音を音楽に変えて、聴かせてくれているのです」

「えぇ!? すごいわステキ!!」


 一気に華やいだ広間の中で、ふと懐かしさに微笑む。

 これはかつて、始祖様にとっても懐かしいものだった音楽。

 前世ぶりに聴いた音色は、今回もまたとても美しく感じた。


 流れる音色に耳を傾けながら、それでも、と一つの魔法を静かに発動する。

 それは、魔力を通して、他の人たちには聞こえない形で言葉を届ける魔法。


『――風の君』

『いかがいたしました? 我が君』


 同じ方法で返事をくれる風の君に、今世で一度目の願いを紡ぐ。


『……一つ、お願いをしても?』

『えぇ、何なりと』

『――風の下級精霊たちを通して、あの宿敵……灰色の魔人の存在に気をつけながら、魔族の動きを探って欲しいのです』

『あぁ……たしかにアレはまだ、消えていないようですからね。

 承りました』


 綺麗な銀の風の舞と、ゆったりと流れる音楽の美しさを堪能しながら。

 ……これで、人間では難しい部分の情報も、入手することが出来るだろうと確信して、微笑んだ。




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