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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
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16話 見えざる邪悪への備え

 



 風の君が去ってから、すぐ後。


「セルディス! 何かあったの?」

「これは……セルディス殿下の魔法ですか」


 兄上と魔法団長が、別の場所でおこなっていた訓練から戻り、訓練場に咲く氷の花園に驚きをあらわにした。


「ちょっとしたお説教と、懐かしい再会があっただけですよ」

「え、お説教と、再会?」


 困惑する兄上に、しかし嘘は言っていないと澄まし顔で通す。

 ……かなり説明を省略したが、今はそれよりも尋ねたい事があった。


「それより兄上、それに魔法団長。

 記憶にある限りでかまわないので、一つ教えていただきたい事があります」


 そう伝えながら、頭に思い浮かぶのは、前世でのとある出来事。

 風の君と再会をしたことで、そのとても重要な事態を思い出す事が出来た。


 思えば――三年前にあった、コウモリ姿の魔物による襲撃事件も、もしかすると……。


 思考を巡らせつつ、問いかける。


「この二百年の間に、灰色の魔人は倒されていますか?」


 簡潔な私の問いに、しかし二人は首をかしげた。


「いや……私は、聞いたことがないかな」

「ふぅむ……申し訳ありません、セルディス殿下。

 私もそのような存在の事は、記憶にございません」

「――そう、ですか」


 ……であれば、調べる必要がある。


 そしてもし本当に、あの魔人を倒すことが出来ていないのであれば。

 ――のんきに三度目の人生を楽しんでいる場合ではない、と言うことになる。


 手早く氷の花園を砕き消し、兄上と魔法団長に挨拶をしたのち。

 近衛騎士に案内をお願いして、足早に書館へと向かう。




 書館にたどり着いた瞬間、情報収集の魔法を使い、一瞬でかの魔人について書かれた情報を調べる……が。


 前世から今世までの歴史の中で、あの魔人を倒せたという記録はついぞ、見つからなかった。


「――ありませんね。

 ならば……この件も、父上にお伝えしなくては」


 ぽつりと呟き、今度は父上の執務室へ、足を向ける。




「おぉ、セルディス。

 今から声をかけに行くつもりだったのだが、お前から来てくれたか」

「いらっしゃい、セルディス」

「失礼します、父上。母上も」


 入室した執務室には、父上と母上、それに魔法団長と重臣たちがそろっていた。

 魔法棟での出来事の後、魔法団長がすぐさま父上へと事態を伝えに来たのだろう。


 ソファに腰かけ、銀縁眼鏡を指先で押し上げた私に、父上が先んじて問いかけた。


「人間の姿をした風の精霊と、再会をしたそうだな?

 精霊とは、人間にも魔族にも干渉をしない、絶対中立の存在だと思っていたのだが……」

「基本的には、おっしゃる通りです。

 私の場合は例外でして、前世で契約をしていたのです」

「まぁ! 契約!」


 驚く母上と、ふむと考え込む父上に、風の君の事と、かつての思い出を語る。


「かの風の君は、初代王妃殿下と親交があり、契約までしていた古き風の上級精霊です。

 前世では縁あって、初代王妃殿下が七歳の頃におこなった、契約のための試練を、なぜか私も受けることになりまして……」

「その結果、試練を乗り越え、初代王妃と同じく契約に至ったのか」

「はい」

「あらまぁ……」


 それぞれの色の瞳で見つめ合い、互いに前世の私の不思議な縁に驚く父上と母上。

 チラリと確認してみると、魔法団長も重臣たちも、一様にとても驚いている様子だった。


 たしかに、精霊との契約は珍しい。

 初代王妃と契約していた精霊ともなれば、なおの事みんなが驚くのも、当然と言える。


 実際、前世の私も、後になって知った契約の希少さに、困惑した。

 ……困惑したついでに、あの流れに持って行った始祖様へ、しっかり文句を言ったことまで憶えている。


 つい、あの時の不服さを思い出しかけるが、今はそれどころではないので横に置く。


 続けて、今世では風の君と契約が出来ないこと。

 けれども前世と同じく大切に思ってくれているため、色々と協力はしてくれると思う、と言うことを伝えたのち。


 ――当代の国王である父上に、伝えたかった件を、切り出す。


「それと、父上。

 王としての父上に、お願いがあります」

「ふむ……聴こう」


 またたきの間に表情を変えた父上に、こちらも真剣な表情で、願いを告げる。


「私が調べた限り、かつてこの王国を襲った最悪の脅威は、いまだ倒される事なく……おそらくは、見えざる邪悪を今もこの地へと差し向けています」

「それは、一体?」


 緊迫感が満ちた部屋の中、父上の問いに、口を開く。

 ……在りし日の、自身の不甲斐なさを感じながら。


「かつてマギロード王国そのものを、亡国の危機に陥れた、元凶――灰色の魔人です」


 前世で、私が唯一倒し切ることが出来なかった、圧倒的なその脅威に対して。


「備えが必要です、父上。

 情報を収集し、対策を練りましょう」



 結果として、この話し合い以降、私の王城魔法使いの相談役と言う役割に、育成の要素が加わり。

 ――優秀な王城魔法使いを第二王子付きとして、本格的に育成していくことになった。




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