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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
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15話 突風の如き再会

 



「――やはり、我が君の魔法は美しいですね」


 突然上空で渦巻いた、銀色の風の中から……とても懐かしい、声がした。


「……風の、君?」

「お久しぶりです、我が君~~!」


 霧散した風の中から飛び出し、小さなこの身を抱きしめたのは。

 ――かつて契約した、偉大なる風の上級精霊。


 銀の長髪と瞳と翅を持つ、穏やかな美貌のその青年姿はたしかに、前世の時に見慣れた風の君の姿で、間違いない。


「私が……分かるのですか?」


 思わず、今世でも私のことが分かるのかと、疑問が先に立つ。

 周囲には当然ながら、驚愕し、警戒している近衛騎士や王城魔法使いのみんながいるというのに……それでも。


「もちろんでございます! 姿形が多少変われど、我が君は我が君ですから」


 そう答えて、にこりと微笑む風の君との再会に、胸の内から喜びが湧き上がる。


「そう、でしたか……。

 ご無沙汰しております、風の君。

 私としましては、数年ぶりの再会、と言う感覚ですが」

「えぇ、えぇ!

 なにせ、以前の我が君の終わりを見届けたのは、他ならぬこのわたしですからね!」


 前世から二百年は経過しているのだが、私の感覚では眠って起きると今世だったため、まさに言葉の通りの感覚だ。

 私の言葉を嬉しげに受け取った風の君は、しかし次いで哀しげな表情を浮かべる。


「まさか、百年も生きてくださらないなんて……!」

「いえ、人間にしては長生きしましたよ? 前世の私」


 この魔族と言う脅威があふれている世界で、八十年も生きたのだ。

 絶対に、長生きしている部類のはずなのだが。

 それでも、風の君はフルフルと首を横に振る。


「いいえ、あっという間でしたよ! またたきの間でした!」

「まるで、生まれて数日で儚くなってしまう虫か何かのように、言わないでいただきたく……」

「今回は、五百年くらい生きてくださいね、我が君!」

「いやいや、そんな無茶な。

 神話時代の始祖様ではないのですから……」

「あぁ、たしかに、当時の彼……いいえ、彼たち彼女たちは、色々とおかしかったですからね」


 だいぶ無茶な願いに、思わず神話時代の始祖様――寿命がなかったらしい時代の話を出すと、妙に嫌そうな表情をしてうなずく風の君。

 前世から分かっていたことではあるが、あいかわらず始祖様とは相性が悪いらしい。


 いつも喧嘩をしていたかつてを思い出し、サラリと話題を戻す。


「寿命に手を加える、などと言う芸当のために、いったいどのような古代魔法を使わなくてはならないのか……想像したくもありませんね」

「我が君~~! そうおっしゃらず、長生きしてください~~っ!」

「その……人間の範囲内で、今世でも長寿を目指してはみますね」


 ふわふわと浮いたまま、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる風の君に、若干生暖かい視線を送ってしまうのは、もはや前世からのクセのようなもの。


 当の風の君も、私の棒読みな返答を気にする様子はなく。

 ふいに、私と対峙していた模擬戦の参加者たちへ、その銀色の目を向けた。


「――ところで、我が君。

 そこの人間たちは、身のほど知らずにも、我が君に盾突いた者たち、でしょうか?」


 優しげな微笑みを浮かべたまま、唐突にそう問う風の君に、そう言えばこういう方だったと、かつてを思い出す。


 自然から生まれ、自然と共に生き、自然の力を操りさえする、人間とも魔族とも異なる種族、精霊。

 その超然とした、人ならざる者らしい存在性は、当然ながら思考にも反映されており。


 先の寿命の話を含め、必ずしも風の君の考え方に、人間らしい配慮を期待することは、危うい場合が多いのだった。


 今、目の前の者たちに向けられている、穏やかな銀の眼差しにはしかし、たしかな威圧感が宿っている。


「……いえ。

 私に、と言うよりは、かつての私や他の人たちの立場に対して、ですかね」

「それはそれは……。

 ただの人間など、わたしたちや絶対的な強者に、たまたま踏みつぶされなかったから生きているだけの存在でしょうに」

「――その言葉は、丸々私にも刺さりますよ、風の君」


 それはもう、クリティカルヒットと言うやつだ。

 前世の私とて、世界規模の自然災害に抗えたかと言われると、さすがに無理だと思う。


 しかし、パッと視線を私へと戻した風の君は、驚いた表情で言う。


「まさか! 我が君は踏みつぶす側の強者ではありませんか!」


 つい視線を一瞬、斜め上の快晴の空へと飛ばしてしまった。


「……一応、そうでしたね、と答えておきますね」

「えぇ!」


 にこりと笑顔を咲かせた風の君は、次いで流れるように、ため息を零す。


「それにしても残念です。

 今回はお生まれの気質上、やはり契約は難しいようで」

「――そうでしたか」


 前世とは、両親の生まれ持つ血筋が違うため、予想していたことではあったが。

 いざ再契約は出来ないと知る事は、少し残念に感じる。


「ですが! わたしは変わらず我が君が大好きなので、いつでも呼んでくださいね!

 それではまた~~!」


 ふわりと空へ浮き、返事も聞かずに風の中へ消えた風の君は、本当にかつてと変わらない。


 心の中で、今世もよろしくお願いいたします、と呟き。


 突然の風の君との再会で、若干うやむやになりかけたものの。

 一応――これで当分、お説教の必要はなくなったことだろう、と眼前へ視線を戻す。


 ……何やら新しい問題が、浮上したような気もするが。

 ひとまず、一件落着、と言うことにしておこう。




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