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紫眼のセルディスは平穏を望む  作者: 明星ユウ
一章 かつてを今にも持つ先人
13/50

13話 悪意へのお説教

 



「なるほど……このように魔力を操作することで」

「これが出来んのか! すげぇですね!」


 穏やかな侯爵家の落とし子の青年が、感動を宿して言いかけた言葉を、飄々とした貧民街育ちの、平民の青年が引き継ぐ。


「えっとえっと、こちらはどのようにすれば!?」

「あぁ、これは――」


 次の質問をした、冒険者も兼業しているらしい、元気で時折口が悪くなる伯爵家三女の女性の問いに、丁寧に答えていくと、周囲からも感嘆の声が上がった。


 彼や彼女はみんな、私の前世の生き方を最初は半信半疑に思い、警戒をしていた者たち。


 不遇の立場に置かれた者たちの心を、相談役として、魔法の勉学の代わりに日々魔法棟へとおとずれる中で、ようやく解きほぐすことが出来た。



「セルディス殿下に学ぶ機会をいただけたこと、本当に光栄に思います。

 ……僕に、これほど貴重な時間を手にする幸運が、おとずれるなんて……」


 少しだけ声を震わせながら、そう伝える侯爵家の落とし子の青年ユシルに、やわらかな微笑みを返すと、兼業冒険者の女性ミミリアが続く。


「わたしも、冒険者としての助言までいただけて……本当にうれしいです!

 セルディス殿下が、相談役としてここへ来てくださるようになってから、毎日がすっごく楽しいです!!」


 ぱっと笑顔を咲かせたミミリアの言葉に、隣でうんうんとうなずいた貧民街育ちの平民の青年ヨルが、楽しげに片手を上げる。


「俺も俺も! 相談役が殿下で、ホント良かったと思いますよ~!

 最初は、前の人生って言っても、殿下が平民だの貧民街育ちだののことなんて、わかるわけねぇだろって思ってたんですけど。

 貧民がまっさきにおぼえたい魔法を当てて、おまけに前はどう使ってたか、なんて話されたら、信じないわけにもいかないってやつですよ~!」

「信じてもらえて、何よりです」


 一番警戒を続けていたヨルの、その警戒がとけたのは、ほんの二日前。

 今では他の二人と同じく、とても素直に私へと質問をしてくれるようになったのだから、根気よく関わったかいもあると言うものだ。


 ――とは言え、彼や彼女の警戒とは真逆の問題も、出てきてしまったのだが。



「まったく……セルディス殿下も困ったお方だ。

 あのような者たちと、親しくするなど」

「かつてに囚われてしまっておられるのでしょう」

「なにせ、かつての立場が立場ですからな」


 広い部屋の端で、そう呟く声が聞こえる。


 正直なところ、まさか今世の第二王子と言う立場があってなお、この手の会話が耳に届くとは思っていなかった。

 それこそ……前世ならまだしも。


「【創世神の愛し子】ってだけで、殿下は殿下だろ。マジであいつらの頭どうなってんだ?」

「いけないよ、ヨル」

「同感だけどね」

「ミミリア嬢まで……」


 小声ながらも、そう反論を呟くヨルを、たしなめるユシル……と、同感するミミリア。

 内心だけでヨルの言に同意しながら、静かに部屋の端から届く言葉に耳をかたむける。


「フン。嘆かわしいことだ。

 ……そうだな。やはり一度、お伝えしておかねばなるまい」

「えぇ、えぇ」

「仰る通りかと」


 そう告げた声を聞き、落とし子であっても侯爵家の者として、彼らと関わりのあるユシルが、身を固くした。


 真面目に研究や訓練に集中している、他の者たちの横を通りすぎてこちらへとやってきた数名に、銀縁眼鏡を指先で押し上げてから、向きなおる。


「殿下。かつてのお立場のこともあるとは言え、やはりその者たちと関わるのは問題があるかと」

「問題とは?」


 切り返すと、彼らはそろってあざ笑うような表情を浮かべた。


「その者たちと、我ら貴族とでは、立場が違うのです」


 そう告げた伯爵家次男の青年に、無言で紫の瞳を向ける。


 前世と同じく、怒りではなく、呆れを感じながら。

 そちらがその気ならばと、口を開く。


「根本的な話をしましょうか」


 ――悪意へのお説教、開始だ。



「そもそも、この国の王侯貴族とは、民を護るために力ある魔族狩りたちが、その地位についたことがはじまり。

 すなわち、このマギロード王国の貴族とは、民である限り貴族も平民も等しくすべて、守護する役割を持つ存在だと、歴史が証明しています」

「なっ!」


 目を見開く彼らに、すっかり静まり返った室内で、言葉を続ける。


「王城魔法使いの役割もまた、この国を護り、この国の民を護る存在のはずですが。

 ――なぜあなたたちは、自身が護るべき者を、傷つけようとするのでしょうか?」


 前世から、貴族の者たちと関わるたびに思っていた、素朴な疑問を今また、貴族の彼らへと問いかけてはみたが……。


「それは古き歴史の話でしょう!?

 今の時代は、貴族は皆、上位者として存在しているのです!

 それは、王城魔法使いも同じこと!」


 ありふれた反論に、うっかりため息が零れた。


「……だとしても。

 上位者だから、誰かを傷つけていい、と言うことにはなりません。

 最も上位者である王家が、権威や魔法を民に振りかざした歴史がありましたか?」

「そ、それは……!」

「ただ力を誇示したいだけならば、冒険者として魔族を倒すほうが、よほどこの国と民のためになります。

 本当に、力を持つ者の役割が、分からないのですか?」


 口ごもる彼らに、それならば、と告げる。


「模擬戦をしましょう」


 分からないのであれば、示せばいい。

 力とは――何のために使うものなのかを。




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