11話 姉王女の相談事
私が前世の記憶を持つ【創世神の愛し子】であることを開示し、精神干渉系の闇魔法の一件が、大規模浄化魔法の発動によって解決した日から、さらに数日が経った。
あっという間に、王城内どころか国中に広まった、私が【創世神の愛し子】であるという真実に対し、少なくとも周囲の身近な人々は、驚きながらも敬愛を表してくれている。
疑われ続けることも、けなされ続けることも、正直なところ前世の分だけでお腹いっぱいだったこちらとしては、とてもありがたい現状だ。
まぁ……たまたま、今の私の周囲には、第二王子にそのような無礼をする不届き者が、いないというだけな気もするが。
――そんなことは、さておき。
自らの現状より、嬉しいこともあった。
それは、今回の件のきっかけとなった、私が兄上よりも賢いと、兄上が勘違いをした件。
あの件も、結局のところ私が【創世神の愛し子】であると告げ、他ならぬ私自身が根本的に自身の賢さを否定した結果――賢いか賢くないかの事実はさておき、兄上は気持ちの整理ができたようで、いっそう勉学や魔法の訓練にはげんでいるらしく。
次期国王である兄上が、自らの道を見失うようなことにならず、本当に良かったと、密やかに安堵の吐息を零した。
そうして、早寝早起き以外、子供らしく振る舞うことをやめ、教師陣と勉学の内容の調整をしながら、改めて今の時代の学びを深めていた日。
いつもいろいろな情報を、私に話して聞かせてくれる姉上が、今日も勉学の時間の終わりに、私の部屋へとおとずれた。
「セルディス~~!! ねぇねぇ! セルディスって、かつての時? は、魔法使いだったの?」
「はい。……魔法使いでは、ありましたね」
いつもの唐突な会話のはじまりに、胸の内で正確には大魔法使いでしたが、とつけ加えつつ、紫の瞳を煌かせた可愛らしい姉上の、次の言葉を大人しく待つ。
「あのね! 魔法使いのセルディスに、相談があるの!」
「ご相談、ですか?」
「えぇ!!」
勢いよく告げられた言葉に、銀縁眼鏡の奥の紫の瞳をまたたきながら問いを返すと、全力のうなずきが返された。
次いで、急に笑顔を真剣な表情に変えて、姉上は語る。
「わたくし、魔力は今のわたくしくらいのころのお兄様とおなじなのに、上手に動かせなくて、まだ魔法が使えないの。
どうすれば、魔力を動かせるようになるのかしら?
おしえてセルディス!!」
――なるほど。
このような相談事の解決は、さいわいにも私の得意分野だ。
なにせ、元・大魔法使いなので。
「分かりました。
ではまず、姉上の魔力の流れを確認させていただいても?」
「流れ? えぇっと、よくわからないけれど、いいわ!!」
「よく分からないことは良くないので、先にご説明しますね」
少々思い切りの良すぎる姉上に、体内にある魔力の簡単な説明からはじめる。
「この世界の生き物は、身体の中に魔力を宿して生まれますが、実はこの魔力は私たちが何もしなくとも、自然に身体の中を流れているのです」
「まぁ!? そうだったのね!!」
私の説明に、再び紫の瞳を煌かせた姉上へとうなずき、微笑みながら説明を続けていく。
「しかし、単純に身体の中を流れている、と言いましても、やはり流れ方には種族差や個人差があるものです」
「う~ん……川のように、流れがはやかったり、おそかったり?」
「はい。まさしくその通りです。
さらにつけ加えるのであれば、流れそのものが、上手く流れないような状態になってしまっている、という場合もありますね」
「――あっ! もしかして、わたくしの魔力も、上手に流れていないかもしれないのね?」
さすがは、可愛くて賢い姉上だ。
私がつけ加えた説明を聴き、ご自身の体内の魔力が上手く流れていない可能性に、もう思い至ったらしい。
つい、優秀な弟子にするように、やわらかな微笑みを浮かべながらうなずき、正解であることを示す。
「今回の姉上のご相談内容は、魔力を動かせるようになること。
この問題を解決するためには、姉上の魔力をあやつる技術の前に、体内の魔力の流れを確認することが大切な理由を、分かっていただけましたか?」
「とってもよくわかったわ!!」
私の問いに、満面の笑みを咲かせた姉上には、たいへん良く出来ました、と頭を撫でて差し上げたいくらいだ。
……もっとも、弟の頭を撫でることのほうを好む姉上には、そのようなことはしないが。
「それでは、魔力の流れを確認してみますね」
「えぇ、おねがい!」
「はい、お任せください、姉上」
そうして、サラリと確認した姉上の魔力の流れは、やはり所々流れる魔力の少なさゆえ、流れがとどこおっている部分があり。
この問題を解決するため、ゆっくりと私の魔力を流して導き、魔法を使える状態へと正す、魔力治癒をおこなった結果……。
「セルディス!! あなた、ただの魔法使いじゃなくて、大魔法使いだったの!?」
翌日、そう驚きに声を弾ませながら、私の部屋へと飛び込んできた姉上の後ろに、父上と母上と兄上、それに魔法団長までもがそろっていたことで、即座に察した。
――どうやらまた何か、問題が起こっているようだ、と。




