恨み
美雨の母はたまに言う。
「親を恨んでいる」と。
母は祖父に小さい頃勉強が出来ないと殴られた。
だから、必死で勉強ばかりした人生だったと。
言い訳も一切許されなかった。
いつも怖くて怒られる事に怯えながら過ごしていた。
怒らせると殴るので、頭に血を流した母(美雨の祖母)に抱きしめられながら、林の中で怒りがおさまるまで身を隠していた事があった。
母は長女で女三姉妹だったので母が家を継いだ。
大人になってもいつも母は祖父に気を使っていた。
祖父はお酒を飲むので、他のみんなとは違う食事をしていた。
料理が苦手な祖母の代わりに、母は常にキッチンに立っていた。
祖父を怒らせない為に、子どもを早くお風呂に入れた。
祖父が入りたいタイミングでお風呂に入れるように。
「いつまで起きてるんだ!」と怒らせないように、早く子どもを寝かせた。
眉間のシワはいつも何かに追われていたからなのか。
それとも単に私が嫌いだからか。
母の笑った顔はいつも思い出せない。
母(祖母)にもトラブルがある度に、悪いのは母だと言われ続け、味方になってもらった記憶がなく、母は親を恨んでいると言う。
美雨には分からなかった。
だって確かに祖父母は怖い所はあるけれど、美雨には優しい所もいっぱいあったから。
ガタイが良く、サングラスをはめるとカッコいいおじいちゃん。
喫茶店に連れて行って自分の事を可愛い孫とお店の人に自慢するおばあちゃん。
ただ美雨はいつも思う事があった。
恨んでいると言う、何かに取り憑かれたような顔の母の方が怖い。
いつもその顔を見るとゾッとするのだった。