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第六話 気配なしのロッソ

 スムーズな流れで一人になった。となればやることは決まっていた。ローズ家の調査だ。恋人との淡い恋を楽しみたいなら、資産はあったほうがいいが、なくてもどうにかなる。


 結婚となれば違う。金持ちだと思って結婚したが、実は貧しかったではいけない。最初の内は恋の熱量で上手くいっていた関係も時と共に冷めやがては破綻する。


 マリアのような図々しい女性であれば、直にモジリアニに質問もできる。人間には向き不向きがある。マリアの真似はリサにはできない。


 かといって、相手を信じ切る態度は取る人間も馬鹿である、少なくてもリサの故郷の人間にはいない。


「では、私も一仕事しますか」とリサは意気込んだ。


 辺りに人がいない状況をリサは確認する。リサは気持ちを引き締めた。


「やれることは、やれるうちにやれ」亡くなった愚痴が多い祖母の格言を実行に移す。信頼するから、裏を取らないのは人として問題ある。


 金持ちなら専門の人を使って調べるが、リサにはそんな金はない。だから、モジリアニにわからないようにこっそりやる。


「礼儀は銀。信用は金。真実は金銭には代えられずの言葉もあるわ」


 素人でもできる相手の家の経済事情を知る方法はある。知りたい家のゴミを調べればいい。ゴミは嘘を吐かない。客に出す料理は外から調達してごまかせる。


 だが、日々の台所から出るゴミは誤魔化せない。

「近所の噂好きのおばさんよりゴミは物を知っているわ」


 人目を気にしながらリサはローズ家のゴミ置き場に向かった。ローズ家の間取りは知らない。リサは生活苦のため物心がついた時にはすでに金持ちの家に下働きに出されていた。


 金持ちの家にはほぼ確実に後輩を虐める先輩がいる。意地悪な先輩は物事をきちんと教えてくれない。『ゴミを捨てろ』と命令してゴミ置き場を教えないくらいは普通にやる。


 だから、教えられなくてもわかる勘所がいる。要領の悪い娘はそれでいづらくなって辞める。

その点ではリサは残留組に入れた。とはいえ、そんな意地悪な先輩がいる場所の居心地は悪い。


 雇い主も金に渋く給金も少ない。


 ある日そんな偏屈先輩が自分の将来の姿だと思いゾッとした。リサはこのままここにいてはいけないと思い立った。弱い者虐めが好きな亡者になる。


 準備をして自然にフェードアウトするようにリサは下働きを辞めた。


 最初はこんな意地悪な先輩がいるのはこの屋敷だけだと思ったが、たいていどこの屋敷にも幅を利かす意地悪な先輩が量産品のようにおり、世の終末を見た気分になりクラッとした。


 それも昔の話だ。しなくて済むなら、したくない経験からリサは金持ちの家のゴミ捨て場の位置に目ぼしが付いていた。勘を頼りに進む。


 屋敷の裏に人が入れるくらいに大きい蓋つきの木箱があった。


 蓋を開けると生ゴミが捨ててあった。ゴミの臭いとかはそんなもの気にならない。結婚に失敗したら故郷に戻るしかない。故郷には野良犬も避けて通る悪臭を放つゴミ捨て場がある。


 ゴミを触らずに観察する。二点、気になることがった。一つ目は思ったよりゴミが少ない。奉公の経験から屋敷の部屋数から使用人の数は見当がつく。


 使用人と家人の人数が推測できれば、出るゴミがわかる。だが、ゴミ箱にはリサの予想した量の三割ていどしか入ってない。


 ローズ家がケチなのか、倹約家なのかは、知らないがそれにしては少ない。家の人間と使用人の食事を削れるまで削ってるならばローズ家の財政事情は厳しい。


 リサは自分の考えを素直に受け入れなかった。リサの故郷に盆暗はいない。いれば、たちまち他人の餌食だ。勘と同様に人を見抜けないと生きてはいけない環境だった。


 マリアと話すモジリアニの態度に偽りは見えなかった。

「モジリアニは生意気なマリア相手に見栄を張っていたようには見えないんだよね」


 ゴミの消えるケースは大きく二つある。回収業社が来る場合だ。生ゴミを回収して肥料にする人間はどこにでもいる。だが、孤島には業者が来そうにない。


 あとはゴミを埋めて処理する場合だったが、付近に埋められた場所はない。島は広いので、悪臭防止のために屋敷から離れた場所に捨てているケースも考えられる。


「ちょっと注意が必要かもしれないわね」


 気になった二つ目はゴミ捨て場には蝿がいなかった。蝿がいないなんてリサのいた故郷の街では信じられない。だが、いるはずの蝿がいない。


 ゴミを掻きまわせば、蟲がいるだろうがさすがにそこまではしたくない。


 ゴミ捨て場にたかる蝿がいない理由をリサは考えるが、思い浮かばない。考え事をしていると人の気配を感じた。


 屋敷の中からリサのいる場所に人が来る気配だった。さっとリサは木陰に隠れる。屋敷の裏口から中年のメイドが現れた。メイドは台車を押していた。台車の上には大きな縦長の袋が載っていた。


 嚢の中身は見えないが袋の大きさから言えば人が入れるほどに大きい。ゴミ捨て場から十m離れた場所に、小さな物置小屋があった。メイドは物置小屋に掛かっていた南京錠を外して中に入った。


 メイドが物置小屋から出てきた時には台車を押していたが、袋は消えていた。メイドは再び施錠すると屋敷の裏口から中に戻った。気になったので物置小屋を観察する。


 物置小屋にはあるべきはずの窓がない。


 換気用のためか穴はあるが覗けないように目の細かい網が張られていた。メイドは使わなかった土嚢を物置に戻しただけかもしれない。


 だが、袋は土嚢と呼ぶには形が長い。袋は土嚢というより、死体を入れる袋に見えた。

「まさか、よね」


 真相を知りたければ鍵を壊して中に入って袋の口を開ければよい。鍵を壊しているところを見つかれば当然に追及を受ける。頭のおかしな娘との評価になれば嫁には選ばれない。


 普段なら物置に死体が安置されていると想像しない。

「全てベルコが悪いのよ。死の臭いがどうのなんていうから」


 理性が半分、恐怖が半分の納得だった。

「お客様ですか?」


 急に背後から声がした。驚いて振り向くと一人の少年が立っていた。少年の肌は薄い褐色で黒髪だった。屋敷で働く使用人の子どもだろうか。リサが戸惑っていると少年から先に挨拶をしてきた。


「この家の三男のロッソ・ローズです」


 嫁を探しているのが二人だからといって、息子が二人だとは限らない。三男は長男や次男から年が離れている。嫁を迎えるのはまだ早いとモジリアニが判断した。


 エランやカインとは違う肌の色と髪の色がロッソだけ母親が違う事実を物語っていた。「何か事情がありそうね」と当然の如く察する。


 ローズ家に嫁入りするなら知っておかなければいけない事情だ。でも、現時点で下手に探ると嫁選びで減点になるかもしれないの。こういう微妙な問題は触れ方を間違えると火傷する。


 リサの考えを読んだのかロッソが苦笑いする。ただ、寂しそうな苦笑いに見えた。

「兄さんたちのお見合いに来た方ですよね。今日あたりに着くと聞いていました」


 ロッソが語らないなら、ロッソの生い立ちについてはスルーしたほうが良い。様子見から入ったほうが判断を誤らない。


 ロッソはリサより一つか二つ若いのだろうが態度は落ち着いている。何事も気付かなかったかのようにモジリアニにした時と同様の自己紹介をする。


 挨拶が終わると柔和な顔でロッソは質問してきた。

「それでリサさんはここで何をしているのですか?」


 他人の家のゴミ箱を覗く趣味がありまして、とは言えない。なんか、上手いことを言い逃れようと考える。先にロッソがやんわり命じた。


「ここは貴女が来るような場所ではありませんよ。お戻りなさい」


 丁寧な口ぶりだが、リサを思っての発言にはみえなかった。どこがどう冷たいとは指摘できないが、表情に不快感が滲んでいる。


「失礼しました」とリサが一礼して背を向けると、ロッソが命じる。

「振り返らずお聞きなさい。貴方の思っていることは正しいですよ」


「何が!」と聞き返したいが振り返るなと釘を刺されている。やはりこの家は何かがおかしいのではないかと感じた。


 リサは迷ったが思い切って振り返った。そこには誰もいなかった。隠れられる場所を確認するが、人はいない。裏口から屋敷の中に戻った可能性はある。裏口のドアに手を掛けると鍵がかかっていた。

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