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第二十九話 帰還

 朝になると目が覚めた。頭痛がする。原因がわからないが、症状は二日酔いに似ていた。風邪とは違う。昨日の記憶を呼び戻し、ドアと窓をチェックするが、誰も侵入した形跡はない。


 糸が無事なので操られたとも思えなかった。ドアをノックする音がしたのでビクリとした。ドアの向こうからメイドの声がする。


「リサ様、お食事の用意ができました。食堂においでください」

「今、行きます」と答える。髪を梳かして食堂に行くと、モジリアニだけがいた。


 モジリアニはリサに詫びる。


「帰りが遅くなってすいませんでした。村でちょっとトラブルがありまして、解決に時間がかかりました」


「仕方がありませんわ。だって御当主様だもの」と適当に返事をする。朝食の席に着くがリサは居心地が悪かった。リサが席に座ると料理が運ばれてくる。


 気になったので、リサはモジリアニに尋ねた。

「他の方がまだいらしておりませんが」


 疲れた顔でモジリアニが説明する。


「マリアさんがホームシックに罹りました。かなり気が滅入ったご様子で、島を離れるといって今朝に旅立ちました。エランが送っています」


「嘘よね」と問い詰めたいが我慢する。マリアの性格からしてホームシックになんてなるわけがない。「旅立った」とは「あの世に」の意味ではないかとすら疑う。


 モジリアニはマンサーナ島の主だ。「こうだ」と言えば、証拠がない状況では「そうですね」と返事をするしかない。


 いや、証拠があっても「そうですね」と言わねばならないのかもしれない。


 愚痴ともつかないモジリアニの言葉が続く。


「嘆かわしいことですが、カインが部屋から出てきません。部屋にはどうもレシアさんもいるみたいなのですが、何をしているのやら」


 苦しい言い訳でだが、微妙だ。「レシアとカインが一緒に寝ていますので、そっとしておいてください」とは真実でもリサには教えられない。もっとも、「カインはレシアを殺して埋めているところです」でも同じくリサに教えられない。


「ベルコさんはどうしました?」


「ベルコさんはカインの態度に怒ってしまい先に部屋に帰りました。本当に私が家を留守にしている間に何がどうなったのやら」


「貴方は本当に知らなかったんですか? どこかで見ていたんじゃないの?」とは疑ったが、正直な話なんて聞けるわけがない。


「気苦労が絶えませんね」と誤魔化しておく。


 現状を分析する。マリアは脱落した。生きているか、死んでいるか、は考えない。だが、モジリアニはマリアを切った。カインとレシアもお見合いから退場した。


 真相は不明だが、カインはもうリサを選ぶことはない。また、レシアもエランを選ぶことはない。


 モジリアニがカインとレシアの関係をリサに仄めかしたのだから確実と見ていい。カインとレシアの関係が幸せなものかどうかわからないが、「お幸せに」と思っておく。


 リサとエランが結ばれれば、いずれわかる。エランに選ばれずに終わった場合はどうか。無事にマンサーナ島から出られたのなら、確かめる必要はない。


 後はマンサーナ島での出来事を忘れて生きていくしかないので振り返ってはいけない。


 リサはモジリアニに確認しておく。

「お見合いは実質、エランさんが私を選ぶかベルコさんを選ぶかというところですか?」


「そういうところでしょうか。まだお見合いの日程はありますが、早く決まれば終了します」


 カップル成立につきお見合いの終了は致し方なしだ。お見合いに消化日程はない。エランがマリアを送っていたのは嘘だ。だが、嘘を吐いたのには理由があるはず。


 エランは問題があってリサたちの前に出られなくなった。


 問題が解決したら、エランが花嫁を選ぶ。現状ではリサが選ばれて終了だが、そうなるとベルコは黙っていない。


「失礼します」と侍従長が食堂に入ってきた。食事中に入ってきたので火急の用件ないしは、モジリアニから事前に指示があったと思える。侍従長の顔は強張っていた。


 侍従長がごにょごにょとモジリアニと話をする。話はよく聞こえなかったが「開戦」の単語だけかろうじて聞き取れた。モジリアニの顔も険しくなる。


「わかったすぐ行く」とモジリアニは席を立つ。そのまま、モジリアニは退出するかと思ったが、入口で立ち止まった。モジリアニはにこっとした顔で振り返った。


「結婚が決まった暁には当家に代々伝わる指輪を贈ります。指輪を嵌めて誓いの言葉を唱えればリサさんはローズ家の一員です」


 モジリアニはどこまで知っているかわからない。単に、指輪の在処を知るために鎌をかけてきただけかもしれない。


「はあ」とだけリサは答えて惚けて見せた。動揺を隠すためにリサは食事をゆっくり摂る。視線を向けないが、後ろでリサの態度を給仕が観察している気がした。


 召喚石の指輪がこの島での成功と失敗を分ける鍵になる。お見合いもここが終盤、一手の間違いが破滅に繋がる。リサは意気込んだが、ふっとおかしくなった。


「なんか思っていたのと全然違うお見合いになったわね」


 もちろん口には出さない。だが、成功も失敗もすぐそこまできている。リサはベルコと組む可能性も考えて、ベルコに会いに行った。


 ベルコは部屋にいなかった。素人なりに部屋を調べると、部屋にいた痕跡がない。

「どうやら交渉はできなさそうね」


 ベルコは好意の持てる女性だった。それだけに別れは寂しい。ベルコには譲れないものがありリサにもある。


「悲しいけど、これも運命ね」


 ベルコは消去法でリサが召喚石の指輪を持っている事実に気が付いたかもしれない。なら、ベルコはリサを襲ってくる。襲撃はどこであるかわからないが、脱出は一箇所からしかできない。


「浜に近付くと危険ね」

 リサは最後の決断に必要なピースを得るために、ロッソの家に向かった。

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