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第二十七話 ベルコの目的

 夕食には女性陣四人と男性陣二人が参加した。お昼がバーベキューだったので、夜は胃に優しいリゾットと中心にメニューが組まれていた。


 リゾットは三種類。ベーコンとチーズのリゾット。アサリとネギのリゾット。茸と卵のリゾットが用意されていた。


 給仕がどの種類をどれだけ盛るか聞いてくる。リサはアサリとネギのリゾットと茸と卵のリゾットを頼む。


 アサリとネギのリゾットには生姜が使われていた。生姜の香りと成分が、リサの体を温めた。


 茸と卵のリゾットに使われていた卵は鶏卵より小さい。小鳥の卵と思われるが、なんの卵かわからない。美味しければよいかとリサが納得すると、マリアが教えてくれた。


「卵はウズラだね。ここら辺ではウズラは見ないけどどうやって入手したの?」


 ウズラはリサでも知っている。卵を見たのは初めてだった。ウズラの卵は街でも高く庶民には手が出ない。時折、いつ死んだのか怪しいウズラ肉が出回っているが買う気はしない。


 にこやかな顔でカインが説明する。

「ウズラは島で飼育しています。主に肉を使うのですが、今日は卵が多く手に入ったので使いました」


 レシアが卵をスプーンで掬って口に入れる。美味しいのかレシアはうっとりする。

「味が濃くて美味しいですね。生みたてのウズラの卵なんて贅沢な品ですわ」


 卵が『ウズラ』で美味しい理由もわかったが、ウズラの飼育小屋はまだ見つけていない。島もくまなく見たわけではないが、どこにあるか謎だった。


 ベルコはベーコンとチーズのリゾットとアサリのネギのリゾットを皿に盛っていた。茸と卵のリゾットはよそっていなかった。


 ベルコって好き嫌いはなさそうだと思ったけど、違うのかしら。

「卵や茸やお嫌いなんですか?」


「嫌いではないよ。ただ、卵や茸は当たると怖いから自粛している。誤解がないように付け加えると、ローズ家の料理人の腕を疑っているわけではない」


 素っ気なくマリアが感想を口にする。

「別に任務中ではないんだから、気張らずに楽しめばいいのに」


 当てつけだなと、リサは察した。ベルコにとってお見合いが任務の可能性がある。ベルコは仕事中だからこそ、食あたりに気を使う。


 火の通りが悪い卵。わからない茸はどちらも危険食材でもある。

 澄ましてベルコは答える。


「卵や茸で中毒を起こせば戦うどころではなくなる。自分で料理して喰った奴が死ぬのならまだしも、仲間を道連れにされたら困る。看病が必要なら目も当てられない」


 ベルコの意見にはレシアも同意した。


「我が家でも食べられる野草の見分け方や狩りの仕方を学びます。ですが、卵と茸の現地調達は避けるように教えられました」


 エランのスプーンが止まった。

「明日は茸狩りなどを予定しておりましたがどうしましょう?」


 レクリエーションをエランが提案してきたか、随分と積極的になったものだ。

「気が向いたらね」とマリアは素っ気なく返事をした。


「私は行くよ」「私も行きますよ」とベルコとレシアは合意した。これはなんだかんだ言っても全員が揃うわねとリサは予感した。皆で遊ぶのは楽しい。


「私もいきますよ」とリサは応じた。レクリエーションは順調にこなしておいたほうがカインにも受けが良い。愛想を振り撒きに来ているようなものなので当然の決断だった。


 そのまま和気藹々と食事会が終わると予想したら、マリアが質問を飛ばす。

「結婚したら指輪とかどうなるの? 家に伝わる伝統の逸品とか付けられるの?」


 リサはどきりとしたが、平常心を心掛ける。マリアはレイアの指輪について知っていても不思議ではない。だが、なぜこのタイミングで言い出したのかが不穏だった。


 柔和な笑みを崩さずカインが答える。

「知り合いに腕の良い彫金師がいます。彼に作ってもらおうかと思います」


「エランさんと結婚したら?」とマリアがエランにも問いかける。

「ジュエリーはよくわからないので、私もカインの知り合いにお願いしますよ」


 いたって普通の会話だが、リサには別の面が見えていた。レイアの指輪の存在をローズ家は隠している。


 マリアが指輪の件に触れたのは指輪の移動に気が付いた。ないしは、探せるところはほぼ探したがないので、マリアは積極策に出た。


「本当に波乱が絶えないお見合いだわ」とリサは苦々しく思った。ただ、レシアは裏で何が起こっているのかわからずに、気にした様子がなく発言する。


「愛の証の指輪ならあまり華美にならなくても良いと思います」


「幸せな人だな」とリサは羨ましくもあった。レイアの指輪については切り出すタイミングを間違えると厄介だった。


 マリアやベルコの仕事が絡むなら手首を切断されかねない。それで残ったリサの体は海にドボンと投げ込まれる危険性も無視できない。


 かといって、指輪を捨てるなんてもったいないわよね。


 翌朝、食事を済ませて玄関に集合する。女性陣はマリアだけが不参加だった。昨日、行かないような態度を仄めかしていたので、表向きは誰も気にしていない。


 カインが茸を入れる麻袋を配って説明する。


「森には毒キノコもあります。食べれる茸かどうかは袋に入れる前にエラン兄さんか私に相談してください。ない、とは思いますが、茸は生で食べないでくださいね」


「子供じゃないんだから」と苦笑いだが、しおらしく聞いておく。茸狩りがスタートした。レシアはカインにべったりなので、カインには近付き難い。


 ベルコも同じ感情なのかカインから離れていた。結果、エラン、リサ、ベルコがグループになった。


 ベルコは茸を探しているようだが、熱心ではない。お見合いに来た手前、断るのも礼儀を欠くので同行しているといった感じが丸出しだった。


 エランは別にベルコに気遣いをせず、リサの傍にいる。リサは当たり障りのない話題を交えつつ、茸を探す。だが、中々見つからない。


 茸も見つからず共通の話題もないと無言になる。これは気まずいなと困っているとベルコが話題を振ってきた。


「戦争になった場合だが、ローズ家がどう振舞うか教えて欲しい」


 男女がデートでする話題ではない。ただ、ローズ家は国防にも関与している。ローズ家に嫁入りするなら知っておいていい話なので聞きやすかったとみえる。


 嫌がることなくエランは答えた。

「全ては当主である父の一存ですね。私たち兄弟は父に従います」


「場合によっては国に味方しないってことかい?」

 なんかお見合いの話題ではなく調略の様相が出てきた。


「今のローズ家は国王が封じた貴族ではありません。立場は商人に近い。であるなら、負ける側に付きたくはない」


 冷たい表情でベルコが確認する。


「私の父はこの国の下級貴族なんだ。ローズ家に嫁入りすると、実の父とも戦わなければいけない未来もあるんだな」


「もしこれから戦争に突入するのなら、避けて通れない話題だな」とリサは二人の話を聞いていた。


 リサなら勝つ方に味方する方針で問題ない。国王に親愛の情はない。大事なのは国家の大義より今日の食事だ。


 皮肉な笑顔をエランは浮かべる。


「どうでしょうね。ベルコさんの父親が国王に味方するとは限りませんよ。避けるべきは家の断絶と考えているかもしれません」


 ベルコが怒るかと思ったが、ベルコは冷静だった。


「堅物の父にあっては国王への裏切りはないよ。だが、父の兄弟、母、私たち兄妹はまた考え方が違う」


 ベルコの発言が真意ならお見合いの動機も見えた。ベルコの一族の滅亡回避に動いている。そのために、娘の婚姻で生きる筋道を残したい。けれども、表立ってやると忠義を疑われる。


 推理の裏を取るためにリサはベルコに尋ねた。

「ベルコさん、姓はなんていうんですか」


「勘当されたから、もう姓は名乗れないよ」とベルコはキッパリと発言した。


 父の顔を立てる手前、娘のベルコを勘当した。戦争で父が死んだら、勘当を解いてローズ家と繋がって家を残すのね。貴族も大変ねとリサは同情した。


 ベルコの言葉を続ける。

「敗戦ほど惨めなものはない。やるからには勝たねばねらない。だからこそ召喚石が必要なんだ」


 ベルコは目的を明らかにした。ベルコは結婚に愛を求めていない。でも、リサも同じ。リサとベルコは背負う物の重さこそ違えど、同じ種類の人間だと感じた。


「ベルコ、悪いけど私は譲る気はないわよ」とリサは心の中で語る。ベルコの背負う物は大きいのかもしれない。だからといって、大義に道を譲るほどリサは人格者になれなかった。

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