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第二十五話 フェアリーサークルと死神(上)

 海から帰ると海水をお風呂でさっと流す。部屋で外行きの服に着替えた。着替えが終わった時に雲は出ていたが、雨はすぐには降りそうになかった。


 島での行動は常にローズ家の人間が知っている。となれば、記憶が操作されていた当日のリサの行動をロッソは知っている可能性がある。


 カインも知っている可能性もあるが、カインはエランと仲が良い。エランの悪いようにはカインは言わないから、都合が悪ければ嘘を吐く。


 ロッソの家に行きドアをノックするが、ロッソは出てこない。


 窓から中を覗こうとしたが、厚いカーテンが掛かっていて中が見えない。昼間なのにこれはおかしい。ドアに耳を当てると、中から音はしない。


 普通なら留守かと諦めるが、ロッソは気配を消す達人である。居留守を使っている可能性もある。


リサは家の周りをウロウロすると鋸を見つけた。薪も見つけたので両方を持って家の前に戻る。嫌がらせに家の前で不規則に薪を鋸で引く。聞くだけで人を不快にする音が出せた。


 家のドアが少し開いた。駆け寄ってすかさず、ドアの隙間に足を挟む。リサのあまりに早い動きにロッソは対応しきれなかった。


 ドアを閉めそこなったロッソが露骨に嫌な顔をしてリサを見上げていた。


 気にせず、笑顔を心掛けて話し掛ける。

「ロッソさん、いいお天気ですね。ちょっとお話があります」


 曇り空を見上げてロッソは嫌味をぼやく。

「曇ってますけどね。足をどけてくれませんか? 今日はそっと寝ていたい気分です」


「またまたそんなことを言って、今日は二人でフェアリーサークルを探しに行きましょう。ロッソさんが困っているから助けに来たんですよ」


 恩着せがましく誘っているのは承知の上だ。ロッソは嫌々に首を横に軽く振る。


 諦めたのかロッソが家から出てきた。

「まあ、そういうことでしたら」と明らかに不承不承だった。


 フェアリーサークルを探すと言っても当てはない。適当にぶらぶらしたところで本題を切り出すつもりだった。だが、ロッソは行く当てがあるのかスタスタと道を進んで行く。

 

 疑問に思ったので質問した。

「フェアリーサークルのある場所って目星が付いているんですか?」


「まず見ていただきたいものがあるんですよ」


 マンサーナ島に名所があるとは思えないが従った。ロッソの家の裏を三分ほど進む。直径三m規模で環状に石が配置してある場所に出た。石はどこにでもありそうな灰色の石だった。


 石は兜ていどのずんぐりした形で、高さも六十㎝しかない。石は合計六個なのでみすぼらしい。


 昔からある遺跡であるとはマリアから聞いていた。でもこれでは遺跡かどうかは人間が見なければわからない。一般人が見たら誰かがたまたま置いただけ、として素通りしてもおかしくない。


「マリアさんが言っていた環状列石ですか? 思っていたのとだいぶ違いますね」


 ローズ家の人間であるロッソの前なので控えめに表現したが、「ちゃっちぃ」の一言がリサの本音だった。


 ロッソは渋い顔で教えてくれた。

「もう機能していませんからね。廃材同然ですよ。ありていに言えば昔は凄かった、ですかね」


 ロッソの言い方では昔は使えたとも取れる。ロッソはリサより若いなら、昔なんて知らないはずだ。ご先祖様の言い伝えとして信じているのだろうか。


 どこかの爺様のようにロッソが語った。

「ローズ家の先々代が無理やり召喚石を妖精界より取り出そうとした結果、壊れました」


 ローズ家の二代前の当主がいた頃なら八十年前くらいだろうか? とするなら、大きな戦争があった頃になる。


 先の大戦の勝敗の結果を決めたのがローズ家だったとは信じ難い。ロッソを疑うのは簡単だが、ロッソには協力してもらう必要があるので信じた振りをする。


「壊れたのなら新しいフェアリーサークルを作るわけにはいかないんですか?」


「先代は作ろうとしましたよ。だが、できなかった。理由はすでに近くに別のフェアリーサークルがあるからです」


 ロッソの説明は合点がいかない。なら、別のフェアリーサークルは誰が作ったのだろう?


 ロッソはリサの考えを読んだのか答えた。


「フェアリーサークルには自然発生する天然物があるんです。フェアリーサークルは性質上、近くに二つ存在できないんですよ」


 フェアリーサークルを作れなかったから、既にもう一個をあると先代は予想したのね。


 先代の頃から探しているのならそう簡単に見つかるはずがない。

 とはいっても、ロッソが見つけたいのならできる限り協力しなければ、こっちにも協力してくれない。


「では探しましょう。なんでもしますよ」


 ロッソは浮かない顔で尋ねる。

「本当にいいんですか? 死ぬかもしれませんよ」


 ここがローズ家の人間が住むマンサーナ島でなければ、「大袈裟な」と本気にしなかった。危険な香りがしたので前言を撤回する。


「やっぱり止めてもいいですか? 死んだら元も子もないですから」


 ロッソは目を瞑って首を軽く横に振った。

「残念ですが、もう遅いようです」


 背後から何か嫌なものが近づいて来る気配がした。リサは振り返ってはいけないと直感した。同時に逃げても振り切れる相手でないと感じた。


 ロッソが目を閉じたまま語る。


「振り向いてはいけません。後ろにいるのは死神です。死神から逃げるにはフェアリーサークルまで走るしかありません」


 リサの目の前に浮かぶ木製の燭台が現れる。燭台には一本の蝋燭が灯っていた。ロッソが強い口調で命令する。


「走りなさい。蝋燭が消えるまでは私が死神を足止めします」


 リサは何も言わずに走り出した。リサの前に浮かぶ燭台は従いてくる。蝋燭が消える前にフェアリーサークルを見つけないと死ぬのは確実だ。


 今まで見つからなかったフェアリーサークルをどうやって見つけよう。リサは焦った。怖くもあった。だが、諦める気はなかった。


 どこにフェアリーサークルがあるかなんてわからない。先日、めいっぱい森の中を探しても見つからなかった。闇雲に走り回っても時間切れで死神に追いつかれる。


 フェアリーサークルは魔法の類で隠されいると予想できる。


 魔術には詳しくないが、見つからないレイアの墓と同じ種類の魔術かもしれない。


「レイアさんの墓が見つかった時にあったものは……」と考えると白い鹿が思い出される。白い鹿はレイアの墓を見つけて以来、見ていない。鹿が現れた条件はと思い起こす。


「雨が降っていた」と気付き、リサは空を見上げた。空は曇り空だが降りそうにない。このままでは、死神が追ってくる。


 危機感を抱いた。燭台を見ると、蝋燭の長さは半分ほどになっていた。あまり、時間がない。だが、雨を降らせる方法なんて考えつかない。

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