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第十三話 物置の秘密

 食べ終わった食器を下げる。自分の使った食器の他に使用人が使った食器も洗っておく。洗い物が終わる頃には女中は休憩に入っていたので、リサは台所で独りだった。


 リサも休憩に入ろうとするとジョセがやってくると、申し訳ないとばかりに謝罪する。


「とんだ迷惑を掛けてしまった。蛸のアヒージョもお昼に出せんかった。蛸は傷まないように塩茹でにした。酢に付け込んでいるから酢蛸になった」


 蛸のアヒージョが食べられなかったのは少々惜しいが、贅沢は言うまい。季節柄食材が傷みやすい季節だ。蛸は死んだら早めに処理したほうがよい。蛸は酢蛸でも充分に美味しい。


 酢蛸もまた庶民の食べ物で、酒飲みには愛好家が多い。

「まさか暴漢が上陸して来るなんて予想できないですからね」


 辺りをチラチラと見回してジョセは人がいない状況を確認する。

「実はこんな日が来ると予想はあった。だが。今日だとは思わんかった」


「おや?」ッとリサは思った。もしかして、マンサーナ島ってならず者を引き寄せる何かがあるのだろうか。リサが疑問に思うと、ジョセは沈んだ顔で教えてくれた。


「あいつらは海賊の残党じゃ。海賊退治にお館様が協力した。だからいつか海賊がお礼参りに来るのではないかと恐れておった」


 ローズ家の協力なくして海軍は海賊を倒せなかった。それで、海賊退治に協力したローズ家を海賊の残党が恨んでいたのね、悪党らしい。


 モジリアニの判断は間違っていない。リサにしても女性を攫って売買しようなんて輩は魚の餌になって当然だと思う。


 問題はモジリアニが不都合な事実を伏せていたことだ。海賊の襲来が予見される場所ならまともな嫁候補は躊躇う。


 ネガティブな情報は開示するのが誠意だが、今回の件についてリサは苦情を言うつもりはない。リサとて経歴詐称でモジリアニを騙している。


 いってみれば、似た者同士だ。お互いに罵り合うより、寛容という名の美徳のもとに処理したほうが徳だ。


「お互いに不都合な事実は飲み込みましょう」の言葉を言い換えて発言する。

「そうでしたのね、驚きですわ。でも。私はモジリアニ様の勇気を支持します」


 ホッとした顔でジョセは安堵した。


「勇敢な夫人候補で安心した。リサさんならエラン様、カイン様どちらと結婚してもローズ家の未来は明るい」


 支持者を一人獲得した。ジョセが後になって実はモジリアニの祖父で、お見合いに影響力を持っていた。なんて、展開はない。


 でも、決定権はないといっても支持者を増やしておいたほうがよい。


 努めて明るくリサは微笑み、申し出る。

「野菜の皮の生ゴミの始末をしたいのですが外のゴミ箱に捨てていいですか?」


「いや、野菜の皮は後で儂が海に捨ててくる。浅瀬には野菜の残りカスを喰う小魚や蟹がおる。この小魚や蟹は不味くて犬も喰わん。じゃが、大きな魚の餌や蛸や海老の餌になる」


 ローズ家のゴミが少ない理由がわかった。都会では豚に喰い残しを与える家もある。ローズ家では魚の餌にしているのか。わかってしまえば大したことのない秘密だった。


 残っている疑問もついでに解消しよう。

「では何か物置に収納する物があれば教えてください。私が片付けます」


 なぜかジョセが少し慌てた。

「いや、物置には近づかんでよい」


 リサは聞き流す体を装う。ジョセの言葉を心の中でリサは怪しんだ。『しまう物がない』ならわかる。なぜ、『近づくな』と答えるのか? 


 やはり物置にはなにか隠してある。直球で聞くのは危険だ。『余計なことに気付いた娘』とみられればどこでどうマイナスに働くかわからない。


「勝手がわからない人に整理されると、いつも使っている人が困りますものね」

「そ、そうじゃ、そうじゃよ」とジョセは挙動不審な態度で答えた。


 これは調べておいたほうが良さそうね。いまなら、ローズ家は手薄だ。行動を起こすのには最善だ。フェアリーサークルの件は後回しだ。


「私も休憩に入ります。もし、何か手伝えることがあったら言ってくださいね」


 リサはしおらしい態度を取って、台所をあとにした。玄関から外に出てぐるっと回って物置に行く。物置の周りには人気がないのを確認する。


 物置の南京錠は施錠されている。南京錠にぶら下がるように体重をかけた。南京錠が下がっていた留め金が壊れた。リサが壊した南京錠だが、いまなら暴漢の仕業に転嫁できる。


 南京錠を地面に置いて中に入る。物置には窓がないが暗くはない。理由は天井に魔法の水晶玉が設置されていたからだ。人が入ったら点灯した。


 物置の広さは縦横五m。農具が入っていたがごちゃごちゃとは置かれていない。きちんと整理されていた。


 部屋の隅には以前に見た人が入れるほど大きな袋が二組あり、二段になって置かれていた。袋の上端は紐で縛られたていた。


 手早く紐をほどいて中を確認する。中に人の死体は入っていない。植物の灰色の種が入っていた。軽く掴んで臭いを嗅ぐとほんのり土の臭いがする。


 顔を近づけてみるが、なんの種かはわからないが胡麻に似ている。拍子抜けだった。

「なんだ、心配したけど中身は農作物用の種か」


 他に室内を見渡すが、怪しい物や危険な物もない。どうしてもこんな物を隠しておこうと思ったのか不思議であった。


 考えられるのは種がとても高価な輸入品なので盗まれないように気を付けることぐらいだろうか。

「死霊術に使う品や、染料の原料なのかしら」


 一般人にはタダの種でもその道の専門家が見れば貴重品だった、は有り得る。貴重な植物の種だったとしても、リサが持ち出しても意味がない。


 外に持って行ってもリサには換金する手段がないので、ただの花の種と変わりがない。

「見なかったことにしても問題ないわね」


 嚢をさっさと閉じてリサは物置から出る。物置から出る時に人がいないのを確認して扉を閉めた。立ち去ろうと振り返るとロッソが後ろに立っていた。


 ロッソはとても渋い顔でリサを問い詰める。

「物置の中で何をしていたのですか?」


 外に出る時に辺りを確認した時にロッソはいなかった。また、振り向くまでロッソに気付かなかった。ロッソは気配を消す達人だなと心の中でリサは舌を巻いた。


「物置の前を通ったら南京錠が外れていたんです。もしかして、暴漢の仲間が隠れていないかと不安になり中を覗きました」


 見つかった時に用意していた言い訳をした。ロッソは眉をひそめて怪しいとばかりにし視線を送ってきた。それ以上に言い訳をしないと、ロッソは目を閉じて、がっくりとした。


「貴女って人は本当に悪い意味で行動力がある女性ですね。いいですか、今回だけは助けてあげます。貴女は屋敷の人に物置に入ったかと、必ず質問されます」


 ロッソ以外に物置に入った事実を知る人間はいないはず。誰が質問してくるのかが気になった。ロッソは仕方ないの顔で続ける。


「質問には正直に入りました、と認めなさい。なぜ入ったのか、と尋ねられたらロッソに農具を運び出すように頼まれた、と答えるんです。それ以上余計なことは言ってはいけません」


 物置に勝手に入ったのではなく、家の人の許可があったのなら問題ない。許可した人物がローズ家の三男ならば、文句も言いにくい。助かるが疑問も湧く。


「なぜ私を助けてくれるのですか?」


 レディに優しいからと考えるのは安易すぎる。人は利益がなければ動かない。ロッソは嫌々答えた。


「貴女はマンサーナ島のフェアリーサークルを発見するかもしれない。発見できた時に今度は僕が頼み事をする番になるからですよ」


 ロッソにとって私を助けるのは先行投資の意味があるのね。でも、私がフェアリーサークルを見にいかない可能性だって充分ある。マンサーナ島の森は広く十ヘクタールはあるわ。


 先に助けてやるから、後から困ったら助けろ、は別にいい。もし、誰からも物置に入ったことを咎められなければ、借りは発生しない。


 また、フェアリーサークルを見つけなければなにも起きないならリサにとって有利な提案だ。

「いいですよ。助け合いは生きていくうえで大事ですから」


「わかっているならいいです。おいきなさい」

 ロッソから解放されたのでリサは場所を離れた。

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