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第一話 疑惑の島

2024.1.9 打ち切りはエンドは止めました。本作品はきちんと終わる予定です。

2024.1.10 迷走中に付き、タイトルがたびたび変わっています。

 海を渡る小さな漁船がある。漁船は新式の魔法動力船であり帆はない。船の生簀の蓋は閉じられており、上に二人の女性が乗っている。


 一人は金髪の女性。肌は白く小顔である。服装は新しい旅用の服を着ている。名前はリサで、年齢はもうすぐ十五である。


 漁船は海に浮かぶマンサーナ島にむかっていた。マンサーナ島は金持ち所有の個人島である。リサはマンサーナ島の金持ちの花嫁候補として見合いに行くところだった。


 リサの隣には一人の女性が横たわっている。銀髪の女性で、体格は男にも負けないほど立派。その気になれば、リサの首など数秒で折れそうなほど腕は太い。顔には傷がある。


 傭兵上がりか、海賊かとも見える。名前はベルコ。ベルコもまた、花嫁候補の一人である。


 天気はよく、波はおだやか、風はない。乗船前の漁師の話では、年に七回ほど海が異常なほど静かな日がある。それが今日だ。


 村を出て九十分ほどで島が見えてきた。島は三方を切り立った高い崖で囲まれている。船で入るには南の岩に囲まれた入江から入る。空を見上げると、海鳥は見えないのが、少し変に思えた。


 船の一段階高い場所に風防付きの操舵室がある。舵を握る初老の漁師が声を上げる。

「もうすぐ島に付くぞ、下りる準備をしてくれ」


 漁師の声が聞こえたのかベルコが起き上がった。ベルコは島をジロリと見て声を出す。

「まるで監獄か要塞だな。船で近づける場所が一箇所しかない。船着き場を閉ざせば少数の兵で籠城できる」


 指摘は当たっているが、発想が軍事脳だなとリサは呆れた。

「結婚が決まれば、マンサーナ島での生活が日常になるのよ。あまり陰気な話はしないほうがいいわ」


 フンと鼻を鳴らすとベルコは不機嫌に言い返した。

「島にいる長男と次男がどんな人物かは知らない。だが、どうせ私は嫁に選ばれはしない」


 ベルコが嫁として選ばれる確率が低いのはリサにもわかっていた。どこかの蛮族の嫁ならいざしらず、島の金持ちは元貴族の家柄である。ベルコのような女性には不釣り合いだ。


 だからこそ、リサはベルコと親しくしておきたかった。競争相手にならないのなら敵ではない。

「私は恋愛をしにきたわけじゃない。結婚をしにきたんだ」とリサは決意を胸に秘めていた。


 ベルコが目を瞑り潮風の臭いを嗅ぐ。ベルコが怪訝な顔をした。

「風がおかしい。戦の匂いがする。風が遠くから血の匂いを運んできている」


 リサは鼻がよいほうではないが、血の匂いなんてしない。でも、気になる言葉ではある。マンサーナ島を所有するローズ家には二つの顔がある。一つは金持ち、もう一つは悪魔使いである。もっとも、悪魔使いは噂で真相はわからない。


 笑って漁師が教えてくれた。

「海賊が出たが三年前に潰れた。血の臭いはマグロのものじゃ。ここらへんでは獲れたマグロは船上で血抜きするからのう」


 ベルコの勘違いだと知りほっとした。ローズ家が曰く付きの金持ちだと理解してマンサーナ島にきた。多少のことには目を瞑っても、良い暮らしがしたい。


 男に頼るなんてと、都会の恵まれた才女たちはリサのような下層民を馬鹿にする。


 私には血筋、金、学歴、特殊な才能はない。あるのは母由来の白い肌と金色の髪だけ。あとは野心しかない。それでも、このままでは終わりたくはない。


 奪われ、捨てられる側ではいたくない。私は成り上がることで私の人生が素晴らしいものだったと証明する。母のようにはならない。


 上陸すると、荷運び用の牛車があったので旅の荷物を積む。お見合いは一日では終わらない。二週間ほど一緒に過ごして決める。生活に必要な荷物はすでに送っておいた。


 漁師に手伝ってもらい荷物を積み終わると、ベルコが浜から登った場所の先を険しい顔で見ていた。


 視線の先は屋敷とは別の方角で開けた場所だった。何かがあるようだが、リサに判別できない。ベルコが漁師に質問する。


「島には墓があるね。何十もある。この島に村はない。どうして、そんなに墓が立っているんだい?」


 リサの目は悪くない。ベルコの視力が良すぎる。


 漁師は笑って答える。

「お前さんのいう通りにマンサーナ島は大きいわりに村がない。だが、屋敷は大きく使用人用の住居もある。三十人は住んでいるから、墓だってあるさ」


 浜からなだらかな丘を十五分も登れば屋敷が見える。屋敷は大きいので島の北側に使用人の住居があれば陰になって見えない。昔からある家なら島で死者が出ている。墓があるのも不思議ではない。


「行こう」と口にするとベルコは墓場にむかって歩き出した。漁師は困った顔をしてリサを見る。ベルコを置いていってもいいが、ベルコとは仲良くしたい。リサは小首を傾げて漁師にみせる。


 リサもベルコに従いて歩いていく。


 漁師も諦めたのか牛車を牽いて従いてきた。墓は小さいが多く五十はあった。ベルコは墓を調べている。好きにしたらいいと思うが、場所が墓地なので長居はしたくない。幸いまだ明るいので、気味悪くはない。


 ベルコが戻ってくると、顔は厳しかった。

「墓をざっと調べたが、新しい物が多いな。最近、島で何かあったのか?」


 ベルコの言葉にどきりとして、漁師の顔を窺う。漁師は少しばかり沈んだ顔で答えた。


「海賊との戦いで犠牲になった縁のない者が眠っておる。最初は海に遺体を流す予定だったが、当主様がそれではかわいそうとの理由でここに墓を建てた」


 嫁になると島の当主は義理の父になる。優しい人間のほうがよい。気に入らない嫁としていびられるのは御免だ。


 ベルコの視線が険しくなる。

「墓碑銘を見たよ。女性の名前が多い。女性の海兵はあまり聞かない」


 さすがのリサも漁師の話がおかしく思えてきた。漁師は何かを隠しているのだろうか?


 漁師が乾いた笑いを浮かべ説明する。


「よく見ておるのう。戦いの犠牲者は海賊に商品として捕まっていた若い女性じゃ。海賊船は戦いの最中に炎上した。海に逃げた女性たちの大半が溺れたんじゃよ」


 ベルコの追及は続く

「なら、なぜ墓碑に名前が刻んであるんだ? 犠牲者の名前はどうしてわかった」


 ベルコが何を疑っているか見えてきた。ベルコは墓に眠る女性が自分と同じ花嫁候補ではないかと疑っている。館の主人は『息子の嫁選び』と称して若い女性を集めて殺している?


 リサは自分の思いついた考えにゾッとした。黒い噂が本当なら、来年には館の主のコレクションとして自分の墓が建っているかもしれない。


 漁師を見ると漁師の表情はいつも通りに柔和だった。


「それはあんた、全員が死んでおらんかったからな。亡くなった者を覚えておった者がおる。それに海賊は几帳面にも帳簿を付けておった。帳簿には商品名として名前、特徴、価格が書いてあったからのう」


 説明は付くが本当なのだろうか。ベルコの目は疑っていたが、漁師が先を促す。

「墓なんて見ていても面白くあるまい。屋敷にいこうや。儂も屋敷で茶を飲んでくつろぎたい」


 漁師は牛を牽いて屋敷にむかう。ベルコも従うのでリサも従いていった。最悪の出会いで始まる恋もある、だが、出会う前から不吉なこともあるのかもしれない。

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