表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

女神と神子と聖女

貴方、いつの間に女性の趣味が変わったの!?

作者: 月森香苗

※思うがままに書いたので読みづらさはあると思いますが、ふわっと読んでいただけると嬉しいです。

※神子と聖女の定義についてはこの作品内のものですが、神子→神の声を聞き人々に伝える存在。聖女→女神から力を与えられて奇跡を行う者。神子と聖女なら神子の方が立場は上です。

 最近、王立学園では一人の下位貴族の令嬢を中心に様々な恋愛問題が発生している。その下位貴族の令嬢というのが子爵家の令嬢だが、彼女の出生に事情がある。子爵には正妻がいるのだが、結婚前から密かに愛を育んでいた恋人がいた。正妻が嫡男を産むと、子爵は恋人―正しくは妾との間にも子を儲けた。

 正妻はそれなりに優秀な人間で帳簿を読む事が出来た為、子爵が不在の際にその帳簿を確認して不明瞭な金銭に気付いた。そこから調査を入れて妾及び庶子の存在を認識した。それから十数年、妾が病気で亡くなると子爵はその娘を連れて子爵家に戻り彼女を正妻の許可も取らずに勝手に養子にした。

 本来であればこれは隠されるべきことなのだが、如何せんこの子爵はしてはならない事を多くしてしまい正妻の怒りを買い続けていた。

 一つ目に、子爵と正妻の婚姻には政略の意味が多く含まれており、愛人を作りその子供を産ませるのは禁止されていた。二つ目に、もし万が一隠れて産ませていたとしても決して子爵家の子にはしないともされていた。これらの契約事項の記載された契約書は全て国と双方の当主が管理しており、例え子爵が勝手に破棄したとしても意味がないのだが、頭の悪い子爵は契約書を正妻の前で破り捨てて笑っていたそうだ。

 怒りに満ちた正妻はきっちりと社交界という女性の舞台で愚かな子爵の振舞いを広めた。正妻の家は伯爵家で、後を継いでいるのは正妻の弟であり、婚姻はしているものの子供は娘しかいない。姉である正妻が離縁して戻ってきた暁には嫡男を養子にして後を継がせたいと言われたこともあり、子爵は離縁した。当然ながら、契約違反のペナルティを背負って。膨大な慰謝料と契約違反に基づく違約金などをきっちりと回収した後、正妻は嫡男と共に実家に帰った。子爵は嫡男を連れて行くことは反対したが、これもまた契約に含まれていたのでどうしようもない。この離縁騒動には国が関与せざるを得なかった。

 そんなわけで、この醜聞から件の子爵令嬢は相当に有名であった。

 それだけではなく、子爵令嬢自身が問題の塊であった。高位貴族の子息をターゲットに多くの子息を誑かし侍らせていったのだ。その中には婚約者のいる子息も多い。

 振舞い自体が平民生活が長くきちんとした教育を受けていないせいで淑女らしくない所に付け加え、あからさまに女を前面に出すような行動に眉を顰める令嬢たちは数知れない。

 勿論、婚約者である子息にはきちんと注意をしたのだが一向に話を聞き入れやしない。

 今や学園は大きな火種を抱え、何時でも爆発しかねなかった。


「アンドリュー!貴方、いつの間に女性の趣味が変わったの!?噓でしょう!?」


 本日もまた、中庭のベンチで子爵令嬢を中心に高位貴族の子息達が侍り、それを見た令嬢達が不愉快を前面に出している状況の中で唐突にそんな声が上がった。

 一体誰がそんなことを言い出したのか、と周囲が見渡していると、一人の女子生徒が信じられないと口元に手を添えて歩み出てきた。

 アンドリューというのは伯爵子息で、騎士を目指して日々鍛錬をしていたのだが最近はそれを休みがちであると言われている。そんな彼に対してその女子生徒は目を大きく見開いて大声を発する。実によく通る声だ。


「貴方、金髪碧眼の胸が大きくてお尻が大きな女性が大好きだったじゃない!どう考えてもその子は全く違うわ!胸はぺたんこだしお尻も小さいし、括れもない寸胴体型よ!どう考えても貴方の好みじゃないのにどうしてそんな子に愛を囁いているの!?病気?大丈夫!?」


 現在は昼食の時間で、それこそ現状を見守る人々でそれなりの視線が向けられている中、アンドリューの好みがこんなにも堂々と暴露された。あまりのことに呆然とする周囲を他所に、大声を出した令嬢は更に他の面々を見て驚きの声を上げる。

 子爵令嬢は自分が貶されていると判断するや顔を真っ赤にして、直ぐに涙目になるのだが、子息はそんな子爵令嬢に視線を向けずに大声を出した女子生徒を見続けている。


「何てこと……ミハエル様は銀髪青目のスレンダー長身美人がお好きなのに……その子は背が低くて決してスレンダー体型じゃないのに。しかも銀髪青目でもないわ……え、ホビット様は黒髪黒目の眼鏡が似合う知的美人がお好きだったはずよ……どう考えても成績が下から数えたほうがいい子を好きになるなんて思えないわ……」


 ミハエル侯爵子息とホビット侯爵子息の好みまで盛大に暴露されている。誰も彼女を止められないので少女の震える声で信じられないと言わんばかりの暴露は続いてしまう。そう、続いてしまった。


「フレドリック第二王子殿下が赤髪緑目で胸はそれなりに大きければよいけれども形が良いのが良く、腰はあまり細すぎないほうがいいけれども括れは必須で、お尻はきゅっと持ち上がったような小尻、でも大本命は細すぎず適度な肉がついた足派だというのは有名なはずなのに……皆様、如何されたのですか!そこにいる令嬢はどう考えても皆様のお好みに該当しておりませんよ!しかも、あちらこちらにお声掛けするような軽薄さしかない、まるで娼婦のような行動をするような令嬢がお好みだったなんて信じられないわ!いえ、娼婦はお金を受け取り最高のサービスを提供する専門家。口は堅く誇り高い彼女たちと一緒にしてはいけませんわね。ああ、でも下層部の娼婦はそちらの令嬢とよく似た行動をされていると聞き及んでおりますわ。兎に角、淑女たるもの、妄りに男性に触れるべからずという淑女教育第三項を実行出来ない令嬢がお好みなのですか!?え、そんな尻軽が好みなのですか?そちらの令嬢、学園のみならず外でも多くの男性と閨を共にしておりますのでどのような病気を有しているのかわからないと平民の間でもかなり有名ですけれども、そんな方が宜しいのですか。病気には気を付けてくださいませ。治癒魔法というのは万能ではありません。性病に関しては女神様が汚らわしいと聖なる力の使用を禁止しておりますので、本当にお気を付け下さいませ。あ、もしかして皆様、魅了魔法でも使われておりますの?そうとしか思えませんわ!念のために失礼いたしますわね。『状態異常解除』!」


 止まらない言葉。第二王子殿下すらも暴露された好み。不敬ではないのかと誰かが言おうとしたのだが、それをとどめたのは周囲である。ここに来て漸く彼女の正体がはっきりとした。いとも簡単に発せられた魔法の言葉。

 彼女から溢れんばかりの白い光と共にどこか淀んでいた空気が霧散した。


「神子マリーン……言いたいことは多々あるのだが、すまなかった」

「まあ、宜しいのですよ、殿下。御礼でしたら神殿への寄付をお願いいたしますわね」


 銀よりもさらに色の無い白の髪の毛に赤い目をした少女は神殿に属し、今は同年代の者達と交流をする為に学園に通っている『神子』である。この神子、膨大な魔力を有し聖魔法を自在に操る事の出来るとんでもない人間なのだが、生まれが貧しいながらも家族仲の良い男爵家出身という事もあって中々に言動も自由気ままである。

 最初に暴露されたアンドリューとは幼馴染で、他の面々は神殿と王家は不仲ではない事を証明する為に開かれる親睦をメインとした交流会で何度かあったことがある。主に王族の学友という形で。


「ちなみに、そちらの令嬢の所業は全て女神様より神託という形で聞かされておりますので全て真実ですよ。皆様は魅了魔法にかかっておりました」

「だろうな……もしかして、先ほどの情報もかな?」

「ええ、その通りです」

「はぁ……魅了魔法にかかるなんて恥ずかしいよ。うん、護衛達がきっちりと取り押さえた上で魔力封じを付けているね。速やかに王城の地下牢に隔離してくれ」


 故意だろうが無自覚だろうが、王族に魅了魔法を掛けるのは固く禁じられている。意識して使った場合は公開処刑、無自覚の場合は魔封じを付けた上で処刑地にて永久幽閉である。多くの国でこれまで魅了魔法が原因でとんでもないことになったので、魅了魔法の使用にはかなりの制限がかかっている。

 子爵令嬢は第二王子付きの護衛に取り囲まれ連れて行かれる。声を発することが出来ないように口枷までされているほどの重装備だ。罪人に施す処置をまだ若い令嬢にするのはどうかと思うのだが、神子がはっきりと「魅了魔法」と宣言した以上、重罪人扱いをするのは間違っていない。

 大きく溜息を吐き出す第二王子ににこりと笑みを浮かべるマリーンは決して嘘を吐かない。というよりも嘘を吐けないのだ。神子は神の言葉を民に伝える存在であるがため、偽りの言葉を発することが出来ない。真実しか伝えられない為に普段は出来るだけ話さないようにしているのだけれども、今回ばかりは見過ごす事が出来なかった。


「さて、周囲でヤキモキさせられた皆様。御覧の通り、殿下たちは魅了魔法を使われておりました。そして皆様の好みはそれぞれどなたを示されているのかもうお分かりですね。野暮は厳禁。愛を尊ぶ女神様の為にも早々に撤退いたしましょう」


 ぱん、と手を合わせて音を立てたマリーンに従うように一連を見守っていた面々は立ち去る。残されたのは子息達とその婚約者である令嬢達である。

 暴露された好みの外見をした令嬢たちは気まずそうに立ち尽くしている。婚約者である子息達は視線を彷徨わせながらも申し訳なさそうに近寄り、令嬢たちにそれぞれ詫びていく。

 魅了魔法というのはどう足掻いても避けられない。誰もが常に強靭な精神力をしているわけではないのだ。ほんの少しの油断が出来た隙にするりと入り込んで術に絡めとられるようなものである。

 マリーンは立ち去る生徒達を誘導しながら満開の笑みを浮かべて子息令嬢たちに声をかける。


「皆様ご安心くださいな。女神様の選ばれた組み合わせですもの。相性はばっちし。皆様お互いが好みの外見をしていますでしょう?素直になればよいのですよ。ふふ、それではごゆっくりとどうぞ。ああ、後で皆様女神様にお祈りを捧げて下さいね!」


 楽しそうな笑い声が遠のく中、それぞれの組み合わせは何とも言えないもどかしい距離を保ちながらも素直になる努力をしたという事を知る者は実に少ない話。




「マリーン、あまり人の好みについて暴露しては駄目だよ」

「仕方ないじゃないですか。女神様が暴露しなさいと仰ったのですもの」

「もう少し声を控えてあげればよかったのに」

「いいえ。あれで宜しかったのです。婚約者がその方の好みど真ん中であり、この婚約は女神様により成り立っているとはっきりあの場にいる人たちに伝える必要がありました。そうじゃなければ、自分の方がと身の程知らずがどんどん現れるでしょう?」


 神殿の一室で薬草茶を飲むマリーンの正面ソファに腰かけるのはマリーンの護衛で婚約者の騎士であるエリクである。一つ年上である彼もまた同じ学園に通っており、本日の騒動の時も一緒にいた。ただ、マリーンを止めることも出来ずに彼女の大声暴露大会が実行された時は少しばかり頭が痛くなったものだ。

 第二王子相手に不敬と取られかねない言動だったが、最終的に丸く収まったからいいものの、一歩間違えば処刑されかねなかったのだ。

 ただ、魅了魔法が使用されており、既に騒動が起きている以上早急な対応が求められていたので必要なことであったとは理解出来る。だが心臓には悪かった。


「それにしても厄介よね、魅了魔法って。本人の好みとか無視して強制的に好きにさせるって。しかも魔法を使うってことは魔力がなくなるとか効かなくなったら本来の状態に戻るから反動だってすごいのよ。あの令嬢は敢えてわかって使ってたらしいから極刑は免れないわね。女神様の言葉は一応伝えておいたけれど」

「自覚ありの行動か……あの子は他国の歴史を知らなかったのかな」

「成績が下から数えたほうがいい時点でわかるじゃない。全く愚かよ。反動で国が滅んだところもあるというのに」


 とある国では相思相愛だった二人の間に割り込んだとある令嬢が魅了魔法を使い、男性を奪い取って結婚したものの、令嬢が子供を産むと同時に魔力が消失。魅了魔法を掛け続けることが出来なくなり正常な状態に戻った。男性はずっと愛してやまなかった女性と引き裂いた女を許せず魔力が暴走した。それがよりにもよって王族の男であったから被害は甚大なものになり、あっという間に一国が滅んだのだ。


「恋愛感情っていうのは育むものなの。時間と経験を積み重ねて少しずつ育てていくの。魔法を使って横着をしても結局は仮初のものよ。魔法は何かしらの反動があるものよ。身体強化の魔法はその瞬間の肉体は強化されるけれども、本来の体の限界を超えるものだから解除後にはいつも以上の疲労を感じるし、時には筋肉の断裂だって起きる。それと一緒で精神干渉の魔法を使えばその分精神負荷が返ってくるもの。そこに負の感情が蓄積されていたら……魔力暴走が起きるのは当然よ」

「今回は人数も多かったからね。しかも高位貴族にもなれば魔力量は尋常じゃない。そう考えるとマリーンの行動は問題はあるものの、咎められるものではないか」

「そうよ。それにしても周りも冷静に考えたらわかるのに。それぞれ皆異性への好みがあってばらばらなのに、一人に集中するなんて異常状態なのよ。魔法の関与を考慮すべきだわ」

「それを考えられないようにされていたんじゃないかな」

「なるほどね」


 状態異常解除の魔法は何も子息達だけでなく、あの場にいた者全員に一斉にかけた。明確な目的をもって狙ったのは王族であったり高位貴族の子息だろうが、その余波が他者を侵害していたのだろう。実に厄介でしかない。


「ピンクがかった茶色の髪と同色の目。寸胴体型。背は割と低い。胸はない。頭も悪い。ああいうのが好みな人もいるだろうけれど、それが複数人いるのはちょっとね。あまり考えられないもの。そう言えばエリクも声を掛けられてなかった?」

「幾度かは。ですが全く魅力を感じませんでしたよ。私には貴方がいますからね」

「あら、嬉しい。エリクの場合、私の影響で女神様の加護の御裾分けがあるものね」


 二人の間を挟むように置かれているテーブルには薬草茶の他に香草を練り込んだ焼き菓子もある。これらは神殿が運営している孤児院の子供たちが作ってくれるもので、女神様への捧げものとして一度女神像の元に置かれた後、神子のおやつとして分けられるものだ。

 さくさくとした食感と爽やかな香草の香りがよく、マリーンはこの焼き菓子を喜んで食している。

 エリクも同じように一枚を手に取るとぱくりと口に放り込んで咀嚼をすると、一つ頷く。どうやらお気に召したらしい。


「来年には『沈静』の聖女が入学してくるから、まあ落ち着くでしょう。彼女の起こす奇跡は争いを沈静化させるのもそうだけれど、魅了魔法のように強制的に感情を弄ぶものも沈静させることが出来るもの」

「そう言えばそうでしたね」

「一年早ければこの問題も起きなかったでしょうけれど、まあそれは仕方ないわね。これも一種の女神様の試練としていただきましょう。ふふ。それにしても、本当に興味深かったわね」

「何がですか?」

「ほら、帝国の神子にこの度ご協力いただいたでしょう?態々この国に赴いて下さったじゃない。あの時にね、色々と教えてもらったの」


 帝国の神子はこの世界にいる神子の中でも最も力を持っている。その最大理由が彼女がこの世界の生まれではない事にある。異なる世界から女神の導きにより招かれ、その膨大な力を女神の為に使う神子は、神子たちの憧れでもある。とは言えども、彼女が異世界からの来訪者であると知る者は少ない。マリーンとてこの度の出来事が無ければ知ることは無かった。そしてこの事は口外を禁じられている。

 その神子は帝国の皇太子の妃という立場にありながらも女神の導くままに他国で起きている神子や聖女の問題に介入し解決している。ただでさえ神子の中の神子と言われているのに、更に異世界の知識を有している事が悪しき考えを持つ者に知れ渡れば碌でもない事になりかねない。

 皇太子が帝国最強の騎士よりも強い上、女神と自由に繋がれる神子を害することが出来るとは思わないが、そんな状況にならないようにする為に心配の種は一つでも減らしておきたいそうだ。


「神子アカネが仰るの。物語には時に、身分の差を越えて結ばれるようなものとか、多くの男性に愛される一人の女性の話とかがあるのですって。普通であればそれは想像の物でしかなく、身分の差というのは超えようのない現実なのだけれど、それをわからない者もいるそうよ」

「成程」


 嘘を言えない神子の為に帝国の神子アカネはその話もしたのだが、本命は違う。異世界には遊戯の一つに恋愛を主軸としたものがあり、数名いる男性の中から一人と恋に落ちる為に様々な出来事を熟すものがあるという。あくまでも遊戯なので他の男性に狙いを変えたり、時に隠されている相手を見つけ出したりなど。そのような遊戯は人気があるそうだ。神子アカネがいた世界から魂が来ることは無いのだが、極稀に夢という形で不意にあちらの世界の魂と触れ合うものがいる。とは言えども移動などは出来ない。夢を介してその出来事に触れるだけである。それらを現実と思い込むものが現れるそうだ。

 神子アカネの世界では「異世界転生」と呼ぶらしいのだが、異なる世界の者の魂が移動しその世界で生まれることを言う。そして元の異世界の知識がある時蘇り、その知識を使うようになる。という創作物が人気を博していたとのことである。

 夢でその知識を得て、遊戯の知識も得た令嬢は、まるで異世界転生をしたように錯覚し振舞うようになるらしい。だが残念ながら魂の移動は女神の意図するものでない限り起きない。神子アカネの場合は「異世界転移」という異世界で生まれ育った肉体のままこちらに来たとのこと。確かに彼女の顔立ちは少しばかり違うように見える。何よりも実年齢よりも若く見える。既に二十を超えているのにまだ十代のように思える位には幼い顔立ちをしているのだ。本人は少しばかり気にしているようだけれども。

 今回の件は、その勘違いをした令嬢が魅了魔法の力を自覚し、悪意を持って利用したという。悪意ある魅了魔法により国の滅亡の可能性が見えた為、女神の介入が起きた。


「はぁ。誰にだって好みはあるのだから、魔法を使わなくても自分を愛してくれる人を愛せばいいのにね」

「そうだね。ねえ、マリーン。君の好みの異性ってどんな感じなの?」

「あら、言ってなかった?エリク、貴方よ。その青みがかった黒髪も切れ長の目も、落ち着いた夕暮れ色の瞳も、私を守る為に鍛えてくれた体も何もかも好きよ。何よりもこんな破天荒な私を大事にしてくれる貴方が誰よりも大好きなの」

「そ、っか……自分で聞いておいてなんだけど、恥ずかしいね」

「ふふ。ねえ、エリクは?」

「勿論君が一番だよ。白雪を思わせる髪の毛、燃え盛る炎の瞳。愛らしい顔立ちをしていてまるで精霊の様なのに中身は真夏の向日葵のよう。生きることを楽しんで自由を愛する君が誰よりも好きだよ」


 テーブル越しにそっと握られる手。まあ、嬉しいと顔を赤らめて喜ぶマリーンと表面上は落ち着いているのに恥ずかしさでいっぱいなエリクはとても初々しい恋人同士だ。壁際にそっと控えるエリクの侍従とマリーンの世話係をしている神官見習の少女は遠い目をする。この二人は何だかんだ相思相愛でいつでもどこでもこうやって最後には独り身の者への精神攻撃をしているのかと思うほどの惚気に落ち着くのだ。

 最近では侍従と神官見習の二人ともが共通の悩みを抱いているせいで仲間意識が生まれて距離が近くなるほどである。

 愛を尊ぶ女神は神子や聖女、神官の恋愛や結婚を推奨している。愛から生まれる信仰は女神の良い力になるからだ。

 神子マリーンは今日も愛し愛される恋人からの溢れんばかりの愛を受け止め、それを女神に捧げる。それが女神の力になり、女神が人々に分け与えてくれる循環となるからだ。

◆神子アカネって?

→以前書いた事のある「女神と神子と聖女」という作品に出てくる女性。彼女だけ異世界転移してきてます。


◆活動報告にちょっとした裏話を書きました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] KYな神子様最高! と思ったら色々と裏事情がおありのようで。 「女神と神子と聖女」を読むともっと理解しやすいですか?
[一言] 言うて現実に大勢にモテる男も女もいるしなぁ… 一妻多夫より一夫多妻の方が多いんで(少なくともこの地球では) 男女の性別を逆転させてみたほうが、「人のこのみはそれぞれバラバラなはずなのになぜ一…
[一言] 暴露神子の暴露が、息継ぎ無しのめっちゃ早口ぽくて草生えた。 「もうやめて!とっくに魅了男のライフはゼロよ!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ