ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああドーン!
外が明るい。気持ちが明るくなる。ここ最近土砂降り続きだったせいか、どうも心が沈んでいたのだ。
外に出る。すぐに汗が滲みそうな暑さだが、久しぶりの太陽が嬉しい。私は歩を進めた。
雨の痕跡を感じる土の匂いさえも愛おしい。将来は土と結婚しよう。
足を止め、スーッと息を吸う。陽の光を浴びながら深呼吸をする。良い1日の始まりだ。
背伸びをしながら顔を空に向ける。んーっ! と全力で伸びをする。目を開けると、青過ぎるくらい青い青空が青広がっていた。それと同時に、私の左目に鳥のフンが落ちた。
ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああドーン!
私は宙を舞った。パニックになって走っていたところ、大型トラックにはねられたのだ。宙を舞っている間、頭の中に懐かしい記憶が流れていた。そうか、これが走馬灯か⋯⋯
吹っ飛んだ私は近所のビルみたいな家の壁に衝突し、その庭にあった巨大な網の上に落ちた。ふぅ、助かった⋯⋯ん、熱い、熱すぎる!
網の上に乗ったまま周りを見渡すと、4人の男女が見えた。トングで肉を持っている男性、オレンジジュースのペットボトルを持っている女性。紙皿で肉と玉ねぎを食べている少女、そして、青じそドレッシングを直飲みしている少年。
私は彼らがバーベキューをやっているということに気が付いた。ということは、今私の背中には美味しい美味しいお肉たちが貼っついているに違いない。
私はすぐに立ち上がり、軽々と柵を乗り越え走り去った。900000000kmほど走っただろうか、さすがにここまでは追ってこないだろう。後ろを確認してみる。何もない。真っ暗な闇が広がっているだけだ。
いや、よく見ると遠くに見覚えのある青くて丸いものが見える気がする。なんだあれは、ドラえもんの後頭部か? いや! 地球だ!
どうやって帰ればいいんだ⋯⋯背中に網くっ付いてるし⋯⋯火傷してるからか分かんないけど、この網全然取れないんよ⋯⋯
「あの、すみません」
後ろから声がした。振り返ると50代くらいの男性が浮いていた。
「はい、なんでしょう」
「私、こういうものです」
男は名刺を差し出しながら言った。
「渡辺 バーベキューに背中から突っ込んで肉と網をくっつけたまま宇宙に飛び出し彦と申します。実は私⋯⋯」
彼の背中には肉と網がくっついていた。私と同じ境遇で育ったのだろう。私を見つけてほっとしているのだろうか。
「その先は言わなくても大丈夫ですよ。バーベキューに突っ込んで肉と網をくっつけたまま、ここまで逃げてきたのでしょう」
「え? なんの事ですか?」
は?
「あ、この背中の肉と網ですか? これは生まれつきなんですよ」
この流れで違うことってあるんだ。じゃあなんで宇宙にいるんだよ。この流れ以外で徒歩で宇宙に行った人間がいるとでもいうのか?
「あの、お名前でそうだと思ってしまいまして⋯⋯」
「いやいやご冗談を! 名前って先につけるもんでしょ! 私が今その行動を取っていたとして、その名前なわけないでしょ! はははおかしいなぁ」
おかしいなぁ、じゃねえよ。なんなんだお前。怖すぎるだろ。お前の親もなんなんだよ。申し訳程度に『彦』つけやがって。
「それにしても暑いですねぇ、クーラーないんですかね、ここ」
暑いですねぇ、じゃねぇよ。そんな普通の会話よく出来るな。宇宙空間で遭難してるんだぞ? こいつ状況分かってんのか? クーラーなんかあるわけねぇだろ!
「そうですね、はは」
心の中で散々言いつつも、私は大人なのでちゃんとした対応をする。でも確かに暑い、クーラーないのかな。
「はは、そうですね、じゃねぇだろ! テキトーに返事してんじゃねぇ!」
こいつ怖。怖いけど、1個気になるから訂正したいな。『はは、そうですね』じゃなくて『そうですね、はは』なんだよなぁ。言うと怒るかな。どうする? 言う? 言ってみる? やめよっか。怖いし。
「シカトしてんじゃねーよハゲ!」
シカトしたわけじゃないしハゲじゃないのに怒鳴られた。なんなんだよもう。どうしろってんだよ。こんな広い宇宙で、地球からこんなに離れたところでばったり出会った人がこいつって、すごい確率のハズレだよな。宝くじ1等当たるくらいのハズレだよな、これ。
「眠くね?」
こいつ怖。今日何回目の「こいつ怖」だよ。でも本当に怖いんだよこいつ。なぁ、何とかしてくれよ、頼むよ。
「こんなとこで寝たら風邪引きますよ、早く地球に戻りましょうよ」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
腹立ってきた。自由すぎるだろ。絶体絶命なんだぞ。なんか耳ジージー言ってるし、まぁ言ってるんじゃなくて聞こえてるんだけどさ、ってあああああああ! 電気のとこにでかい虫がおる! アレの羽音か! ちょっとキモイんだけどでかいんだけど!!!!!!!!!
「パク。ムシャムシャムシャ」
渡辺なんちゃら彦が食べてくれた。良かった。⋯⋯待てよ? こいつ人間か? 生まれつき背中に網と肉がついてる人間なんていないよな? 地球からだいぶ離れたところでたまたま会ったやつがたまたま人型だったから勝手に地球人だと思い込んでたんじゃないか? 私は。
「あの、あなた地球人ですか?」
「そうだよ」
マジかよ。こんなやつと同じ星の人間だと思われたくね〜。今の我々って他の星から見えているんだろうか。こいつと仲間だと思われているんだろうか。やだなぁ。
あれ、そういえば電気あるよな。だから明るかったのか。
めっっっっっちゃ話変わるけど、昨日めっっっっっちゃ重いもの持って歩き回ってたからめっっっっっっっちゃ腕痛いの。そのおかげでパワフルマッチョになっちゃったよ。ポンデリングみたいな力こぶあるもん。ほら。見える?
「波動砲、発射!」
なんか後ろから物騒な言葉が聞こえたぞ。なんだ? ⋯⋯ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁんにょああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああzzZ
気がつくと私は独房にいた。そうか、あれは夢だったのか⋯⋯私はバーベキュー窃盗の罪で捕まって、今ここにいるのか? 記憶がない。ただ、あいつの記憶だけがある。あの頭のおかしいおっさんの記憶だけが⋯⋯
「あ、やっと目覚めた?」
聞き覚えのある声。振り向くと、そこには渡辺なんちゃら彦がいた。なんでいるんだよ。お前、夢の中の登場人物じゃなかったのかよ。お前みたいなやばいやつが地球にいるなんて信じられないよ。それに独房って独りの房(ぼうってなんだ)じゃないのか? なんで2人なんだよ! んもう!
それにしても、ここにいると暇だなぁ。なんかやることないかなぁ。そうだ、スマホで小説を書こう! え? 刑務所でスマホなんて使えるのかって? 使えるでしょ。見ててよ。
シュン
シュン
ほら、今瞬間移動して君からスマホを奪ったよ。すごいでしょ。え? じゃあ脱獄すればええやんって? そうだね。でもおいら、曲がったことは嫌いなんだ。罪を犯したのに償わないなんて出来る性格じゃないんだ。
という感じで小説を書き始めて今に至る。そう、これは全て実話のエッセイなのである。私は今、獄中でこれを書いている。信じるか信じないかはあなた次第。てれれれれん、てれれれれん、てれれれれんれんてれれれれん。あ、これ世にもだな。
なんか、通り魔みたいなお話だね。そうか、私の書く話って全部通り魔だったのか。