熊谷だと思ったら間々田だった件について
手に伝わるスマホの振動で目を覚ます。
いつの間にか落ちていた片方のイヤホンから、揺れる電車の音に耳をすませ窓の外に目を向けるともう随分と日が上っていた。ラケットを肩に掛けながら寝たせいか、どうも身体が縮こまるような窮屈な心地がした。時間を見ると7時15分 家を出てからちょうど一時間半、昨日はあまり眠れなかったせいか起きたばかりなのにまだ少し眠い。もう二年目にもなるのにいつまでたってもあの試合前日の興奮には慣れないが、もう後少しでこの興奮も味わえなくなる。
7時20分 予定より一分遅かったがそんなのは些末な誤差だったやっと目的地に着いた。扉が開く、すんだ空気を口いっぱいに吸い込み、太陽の光を全身で浴びた大きく伸びをした。軽やかな鳥の鳴き声と共に機械的な音声が鳴り響く。「間々田~間々田~」 全身から汗が吹き出した。大急ぎで調べる、宇都宮行きだ。高崎行きではなく宇都宮行きに乗っていたんだ試合まではあと30分、間々田から熊谷は電車で1時間30分。
僕は無我夢中で走り出した。手足をばたつかせ空を走る、飛ぶ鳥よりも響く声よりも照らす光よりも速く。俺は試合に間に合わなければ行けない。遥か下、小さくなった町はもう目に見えず、風の音ももう聞こえない。後ろへと身体を引くラケットを必死に抑えながら走る前へ前へと。もうどれだけ走っただろうか遥か下に白い円上のものが見える熊谷ドームだ、意識が途切れる。次の瞬間にはもうコートの上にたっていた頭上からはやけに眩しい太陽の光が降り注いでいる。
さあ試合開始だ。




