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4ゲーム、現実世界をそんな目で見るなんて、死んだ魚のような目からビー玉程度に光らせるとは珍しい

昨日と今日とで、かなりの量を投稿したのでストックが少し足りなくなりましたw


せっかく乗ってきたところ悪いのですが、来週はお休みを入れさせてください

どうしてこうなった……!? 加鍬の脳内にはこれしかなかった。


 アニメイトでの出会いが終わり、加鍬たちは話をするため一度場所を変えることにした。


『いや、さすがにメイドカフェはないよな……』


 どこでとりあえず話そうか悩んでいた時、一瞬だけメイドカフェという案が脳裏をよぎったが……、相手は女子だ、ありえない。


 ということで、偶然空いていたマクドナルドとなった。


 席を確保したのは良いが座ってから数分、お互い何も話さない状況だった。


『き、気まずい……。この空気、「彼氏、やりますよ!」の序盤みたいじゃん……』


 わけのわからないことを考え始めながらも何か喋らないと、と加鍬は必死で考える。


「そ、そのひじ……、今朝の事故で、ですか……?」


 あたふたしてたのが見えてたせいなのか、先に薫から話しかけてきた。


 そして指摘したのはひじ、今は夏服なのでガーゼがまる見えだ。


「あぁ、気にしないでいいよ。運動神経が良ければ怪我せず助けられたんだけどねハハハ……」


 またも笑ってない目をしながら笑う加鍬、しかしそれを見ても笑ってない薫、何この二人……。


「えっとさ……、聞かせてくれない? どうしてお嬢様の愛姫さんがここに……?」


 いきなり本題をぶつけた加鍬、女性に対して免疫力がなさすぎると判断できる。


「私がここに来るのおかしいんですか?」


 まさかの質問を質問で返してきた。


「お、おかしいってわけじゃないんだけど……! 意外なんだよ、あなたみたいなお嬢様がアニメとかこういうのに興味あったなんてのがさ……!」


 答えになっていない答えを返す、まだ加鍬は緊張している。


「そんなにおかしいのでしょうか? アニメは日本の文化ですし、私も小さい頃からプリキュアとかのアニメで育ったんですから」


「いやぁ~俺が言うアニメってのはそういうことではなくてですね……」


 一緒にするな、と言ってるわけではないが、プリキュアとかアンパンマンとかそういった子ども向けアニメと加鍬たちが見るアニメを一括りにするのは合ってるようで間違っている。


 この隔靴掻痒な気持ちを彼女に伝えられるほどの語彙力を、加鍬は持ち合わせていなかった。


「で、でもさ……、うちの学校は『オタク不良』っているわけじゃん? オタクは嫌われ者で有名なのに、どうしてアニメに興味を持ったの?」


 わざわざ自分たち『オタク不良』の名前を出してまで聞こうとする辺り、他人のふりでもしてるつもりなのか?


「……? 一体何の話をしているのですか?」


「……ん?」


 原点から意味が通じてない天然さを出してきた薫、さすがに反応が難しくなってきた。


「オタクというのは、『相手の家庭・夫・団体を敬っていう語』のほうのお宅でなく、『ある事に過度に熱中している』のほうのオタク、ですよね? どうして嫌われるのでしょうか?」


 哲学……、なのか?


「えぇ……、だってオタクはみんなから嫌われると相場が決まって……」


「何を言ってるんですか!? 皆さんが食べて消化している排泄物は、肥料として使われているんです。私からしてみれば、排泄物を見ただけで気持ち悪いと言ったり暴言に使う人たちのほうがよっぽど哀れです! オタクというのは『ある一つのことに情熱をかけるもの』のこと、プロじゃないですか!? 専門家じゃないですか!? 尊敬します!! それなのにどうして嫌う理由ができるんですか!?」


「……!」


 今、マクドナルドにて食事をとる者たちが一気に立ち上がり、手を叩いた。


 スタンディングオベーション!


 今ここに、秋葉原のマクドにて、店内に響き渡るほどの拍手喝采がこの空間を支配した。


「な、なんと美しい……!」「俺たちが間違っていた!」「今まで俺はなんと哀れなことを……!」


 拍手をしている人たちから言葉が聞こえる。まるで目が覚めたのような顔になり、ホロリと涙を浮かべる者もいた。あの人たちもオタクなのだろう。


 実際に加鍬も、今の言葉には驚いてしまった。


 オタクという固定概念で嫌う女子たちを見て放っておきたくてもガツンと言ってやりたかった、そうだよ、こう言えば良かったんだ。


 いつの間にか加鍬自身も認めていた、オタクは嫌われるという運命、いや、違うではないか。




 オタクは、ヒーローだ。




「えっとそれで……、愛姫さんはその……、アニメオタク……、というのでいいんですよね?」


 さっきの余興が嘘のように、話題を変え始める。


「はい、そうですね」


 言ったな? 言いましたね!? 言質取ったからな!? と、心が腐ってる加鍬は真面目に聞き取った。


「えっと……、一応理解はしておいてくださいね? うちの学校には『オタク不良』というのがいて、みんなから嫌われているということを……」


「はぁ……? そうだったんですね。私、推薦組だったからなのでしょうか? 一般組の方たちの噂とか耳に入ってこないものだったんで……」


 え、何? オタク程度のゴミなんか眼中どころか渡り鳥の一羽も通らないと? と言わんばかりの呆然。


 加鍬たちの学校にはエリートしか入れない推薦組というのがある。中でも愛姫薫はエリート中のエリートなわけで、普通は加鍬みたいなゴミ虫がこうやって正面に座ってることすらおこがましいのである。


 そんな彼女のオタク度を知りたくなってきた。しかし本題からだんだんと遠ざかっていくのに加鍬は少し苛立ちを覚えた。


「あーもうだんだんめんどくさくなってきた、オタク歴・最初に見たアニメ・今期一番好きなアニメを言ってごらんなさい!」


「は、はい……! オタク歴はまだ4か月! 最初に見たアニメはドラえもん! コンキというのは何でしょうか!?」


 グダグダな答え!? 要するにあれだ、まだ卵なだけだ。


 これから孵化させればいい話だ、そう加鍬は前向きになった。


「4か月ということは……、高校に入ってからということだよね?」


「はい。私がアニメに興味を持ち始めたのは、家柄に関係があるんです……」


 どこか遠い目で、懐かしいと言わんばかりのにこやかな顔で加鍬に語った。





 愛姫薫は、愛姫財閥の一人娘である


 数えきれないほどの窓が並び、邪悪な気配が一切感じない白塗りの洋館


 中は決して羊頭狗肉などではない


 情熱的で麗しいレッドカーペットが地面を包み、天には魂を象徴するシャンデリア


 部屋一つ一つに輝きを彩り、浴場もキッチンもお手洗いも、すべてにおいて完璧という他ない


 右手にはメイド、左手には執事


 庭は童話のような迷宮ラビリンス、草原を駆け抜けていくゴールデンレトリバー


 もうここには、幸せそのものが約束されているかのように見えた




 薫の父、卓蔵は油絵が好きだ


 白き壁にはずらりと有名な油絵が並んでいる、それはまるで美術館のように


 フィンセント・ファン・ゴッホのひまわり、ポッティチェリのヴィーナスの誕生、レオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザ、さすがに複製のものはあるがほとんどが本物だ


 しかし、薫は油絵が好きになれなかった


 戦争という遥か過酷な世界の中で唯一と言ってもいいくらい生き残った芸術作品


 森羅万象、さまざまな絵具を使用して己の全てを一枚の絵に収めたといってもいい


 一筆によって違う色・陰・明るさ、組み合わせ計算された人間国宝


 それなのになぜ薫は好きになれなかったのか、それは全てこの父のせいだからだ




 油絵を手に入れるためにはほとんどの手段を択ばず、他のことなど一切忘れてしまう


 油絵こそが美しき姿、それ以外は失敗作 まるで洗脳のように囁き続けていた


 油絵に少しでも触れてしまえば機嫌が悪くなり、罰を与えるまで気が済まなかった


 そして何より、そのせいで母親が亡くなったといっても過言ではなかった




 薫は油絵の良さを知っている、薫は何事でも原点を先に見る女だ


 しかしその父のせいで油絵の良さが霞んでしまったのだ


 幼い頃に書いた絵を見向きもしなかった父の姿に絶望し、いつしか目に映る風景や人物


 目が入手する情報の絵カタマリすら嫌うようになった





「うっ……、うぅ……! なんて悲しい話なんだ!! チーーーン!!」


 薫の過去話に号泣してしまい、みっともない鼻水姿を今すぐ直そうとする。


「なんて親だ! 愛した妻や子どもを忘れて己の欲望を満たすなんて……!」


 その言葉だけなら加鍬もいずれやりそうな感じがするが、とにかく今の話を聞いて黙っていられる人なんていない。


「でもどうしようもないんです……、私や、……あなたがアニメを好きなように、父も油絵が好きなのですから……」


 薫はそんなどうしようもない父の気持ちを我慢しながらもわかろうと努力している、加鍬はそう感じた。


 人というのは欲望に弱い、すべてに対して平均的に愛を注ぐなんて器用なことは並大抵のことでは……、いや、不可能といってもいいだろう。


 だが薫の父は度が過ぎている、話を聞いた加鍬でもわかることだ。


 そんな相手に『どうしようもない』という結果、加鍬は直感で理解したのだ。




 愛姫薫は父の鳥籠の中にいる、ということを。




「でもすごいよ愛姫さんは……、そんな父のせいで油絵どころか、こういう絵すらも嫌いになってもおかしくない状況だったのに、今は立派に、アニメオタクになってるんだからさ」


 そう言いながら加鍬は自分のバッグにつけてるアニメキャラクターのストラップを見せる。


 今はそう言ってストラップで例えているが、下手な生活をしていたらこの風景も醜いと思いながら瞳を捨てる道を選んでいたかもしれない。


 彼女がなぜ今ここに立って、精神的に強くなったのか、その理由を加鍬は知りたい。


「私がアニメに興味を持ち始めたのは、高校に入った時です。父が機械に強くなるようにしなさい、ということでもらったノートパソコンがあるんです。まずはインターネットに繋げて、検索やタイピングの練習など様々なことをしました。今にして思うと、ネットというのはすごく広いものなのですね……、動画を見る練習をしていた時に、3Dアニメーションを見たんです」


 潤んだ瞳、十人十色な髪の色と型、小さな顔にしまりのよい体つき、わずかな陰が立体図の奥ゆかしさを際立たせている、それはもう薫が今まで見てきた油絵とは全く違う。


 現実の人間にあるところを隅々まで描いておりながら、その容姿は人間離れしている。


 薫はそんなもう一つの芸術を知るようになったのだ。


「油絵では決して表現できない絵があるということを、このCSOの広告が教えてくれたんです。それから関連するゲーム・漫画・アニメ・ライトノベルなど、一心不乱に探し続けていました。こういったメディアこそ、私が探し求めていたものだったんです!」


 先ほどの悲しい顔とは打って変わって、実に少女らしく無邪気な笑顔だった。


「なんかこっちまで嬉しくなっちゃうな、わかるよ。そういう心の凹みを埋めてくれたものを見つけた嬉しさってのは……」


「……? どうかしましたか?」


「え、あぁううん! 気にしないで……!」


 笑顔でごまかしているが、加鍬は今、この状況で少し悲しんでいる。


 彼女の精神の強さ、現実に歯向かう力の根源は何だったのか、加鍬は今それを求めている。


 しかし、薫の答えはメディアだった。


 すでに加鍬には知っている答えであって、求めている答えではなかったのだ。




「一つ質問していいかな?」


「はい、何でしょうか?」


 なぜか改まった感じになってて余計に緊張感があふれ出てきた。


「愛姫さんがアニメオタクだということを知ってる人はいるの?」


「いないです。……あなたが初めての、同士、というものです!」


 くすりと笑いながらこっぱずかしいことを言ってくる。三次元に興味があったら、加鍬は間違いなく悩殺されていただろう。


「愛姫さんがアニメを好きになった理由はわかったけど、……んん? オタクはみんなから嫌われてる、けど愛姫さんはそれを今まで知らなかった。故にアニメオタクだということを隠す理由がない、そもそも隠す気もないだろうけど……、なのになぜ、愛姫さんはアニメオタクだということを知られてないんだ?」


 こんなに誇らしげにアニメオタクの称号を名乗ってるのだ、少しでも……、いや、間違いなくうわさが広まるだろう。


 何せあの学校は、オタク不良がいるせいで『アニメに興味がある』=『嫌われ者』の称号を得てしまうほどだ。


 そんな学校があってたまるか! という話だが、例えば愛姫薫がアニメについて興味があると知られた途端、愛姫薫を尊敬している者、特にあの丸秘翔子なんかは真っ先にオタク不良の加鍬たちを疑ってくるだろう。


「実は、別の理由で隠してるんです……」


「別の、理由?」


「私、自由にお金を使えないんです」


 えっと、どういうことだ? と誰でも悩んでしまうだろう。


 何せ愛姫財閥の一人娘、お金持ちなのに……、まさかお小遣いをもらえていないのか。


「お小遣いはもらってるのですが、使ったお金と買ったもの、そして残ったお金の精算を家に帰ったら必ず見せるよう決められているんです。使ったら必ずレシートをもらって、財布の中身や買ったものやアリバイ、それはもう色々と厳しく……」


 ドン引きです。


 今の加鍬では絶対に耐え切れない家の決まりだ。無駄遣いもしてるし親に隠れて買ってる少しエロいものだってバンバン集めてる、愛姫家は改めて地獄だと思う加鍬だった。


「そういうことか。つまり父親は油絵以外の絵、ましてやアニメなんて認めるわけがない。かといって隠れてアニメグッズとか買うことはできない、その決まりがあるのだから」


「はい、その通りです。アニメオタクを隠しているのは、こっそりアニメグッズを買うのが学校の人たちにばれないようにするためなんです。クラスメートの何人かは、親同士知り合いというのもありますから……、少しでも目撃を避けないといけないので……」


 さすがエリート組、高校にもなって親同士知り合いなんて普通はありえない。


「でも、問題はアニメグッズを買うお金だよ。どこからそんなお金出てくるの? バイト? それともクラスメートから前借り?」


「バイトも考えてみたのですが、父は認めてくれませんでした。その給料もどうせ見られると思いますが……、なので考えた結果、アリバイ工作が一番やりやすかったんです」


「アリバイ工作……?」


 軽く犯罪用語が出てきたが、とりあえず説明を聞こう。


「ある人にお願いして、買い食いや外食した時のレシートをもらってるんです。その時間はもちろん私も同行していて、会計が終わった時に『そのレシート、私が捨てておきますよ』と言えば……、そのレシートをお父様に見せて、あたかも自分が買い食いや外食したように見せて……」


「了解了解! 言いにくいよねそういうの! ある程度察したからもう言わなくていいよ説明ありがとね!」


 説明の途中で『何てひどいことしてるんだろ私!』と言わんばかりの罪悪感満載の顔をしていたので加鍬が止めに入った。


「それで浮いたお金が出てきたんです、夏休みも同じようにして1万円まで貯めることができました!」


「おぉ~、ちりつもってやつですか! でもそれって……、すごい量の買い食いや外食をしたわけなんだよね……」


「はい、まあ父の前では育ち盛りとか大食いとか色々ごまかしてますけど特に問題はなかったみたいです!」


 あるよ、絶対あるよ! と加鍬は言いたかったが、喜んでいる薫の前で水を差すようなまねはできなかった。


「なるほど、①財布の中身、②買ったもの、③アリバイ、食べ物なら②は用意できないよな」


 まさか食べたものを吐き出せという親はいまい。


「はい、でもこのソフトを買ったことで半分以上使ってしまいました。また何回か買い食いと外食のレシートをもらわないといけませんね、このやり方、一回一回の値段が少なくて効率が悪いんですよね……」


「……というか、愛姫さんゲーム機持ってないじゃん」


「え……? ゲーム機?」


「ソフトを入れるゲーム機、CSOのソフトだとPS4だね。それを買わないと遊べないよ」


「え……、ちなみにそのゲーム機はおいくらなんですか……?」


「3~4万、中古でも2万はするかな」


 絶望。


 その言葉が似合いそうなほど、彼女の顔は青くなっていった。


「……大食い大会の、金一封を狙ってみます」


「なぜ食べ物にこだわるの!? というか大食いは嘘なんでしょ!?」


 身から出たさび、いや、ちょっと違う。


 打つ手なし、のような感じで、薫の思考は完全に停止してしまった。


「……パソコンは持ってるって言ってたよね?」


「……? はい、それが何か?」


「このCSOはネットゲーム、いわゆるネトゲでもあるんだ。だからパソコンで、しかも基本無料でゲームすることができるんだ」


「ほ、本当ですか!?」


 しおれた花が一気に開花したような活気だった。


「う、うん……! だから隠れて、しかも金を使わず買うことができるわけだよ」


「あ、ありがとうございます!! えっと……」


「深澤加鍬、さっきからずっと名前がわからなくて『あなた』って言ってたよね?」


「はい……、すみません」


「いいんだよ、まだ何の自己紹介もしてなかったんだから」


「カスキさんって、とても優しいのですね!」


『いきなり名前呼び!?』


 一瞬びっくりして少し顔を赤くする加鍬だが、気にせず話を続ける。


「それじゃあ今からそのソフトはクーリングオフしに行こう! そしてCSOのゲームをするなら、愛姫さんは今から別のものを買わなくちゃいけないんだ。もちろんちゃんと俺が教えるし、絶対に役に立つものだから!」


「はい、よろしくお願いします!」


 こうして、新たな同士と出会う。それと同時に、加鍬は少し現実が楽しくなった。


「あの、私がアニメオタクということは誰にも言わないでくださいね……」


「そりゃもちろん、隠す理由が他のとは違うのが驚きだけど……。そうだ! 買い食いや外食よりも、もっと金を浮かせられる方法があるよ!」


「え、そうなんですか!?」


「例えば、友達がレンタルした漫画やCDを利用するとか……、あぁでも漫画はまずいのか!」


「でも少女漫画ならある程度許してもらえるかもしれません、友達が読んでるからその話題についていきたいみたいな理由を拗らせて……」


「あとは、カラオケかな! 友達のひとりカラオケのレシートをもらえれば……、カラオケはダメとか言われてない?」


「いえ、でもどういう理由で行ったということにすればいいか……」


「カラオケ行くのに理由なんてないでしょ! まあストレス発散とかあるいは……、音楽の授業が上手くいってないから練習したいとか?」


「なるほど! カスキさんてすごくアリバイ作りが得意なんですね!」


『どうしてだろう……、悪知恵が働くんですね! って聞こえるんだけど……』


 とまあこういった会話をしながら、買い物を済ませて行く2人。


 内容は穏やかではなかったが、とても楽しそうに話している光景は、誰もが羨ましく思えるものであろう。




「本当にいいの? 家まで荷物運ぶよ」


 改札口前、すでに5時と遅くなってしまい、買い物をして多くなった荷物を運ぶくらいのことをするのが紳士たるマナーだ。


「大丈夫です、逆にこっそり家に入らないといけないので、その……、カスキさんがいると余計目立ってしまいますので……」


「それもそうか、じゃあ気をつけてね。ちなみにどの辺に住んでるの?」


「浅草です」


「うっわいいなぁ! 秋葉原から近いほうじゃん、俺梅島だから遠いんだよね……」


「でも学校は遠いですよ?」


「区間急行で乗れるからいいじゃん、梅島なんて普通しか通らないんだよ! まあそれはともかく、帰ってから電話でゲームのことについて話すね」


 こんなに自然と女子高生の連絡先を知れるのは珍しいのではないか。


「はい、あれ? 同じ方面なんですから一緒に乗れますよ?」


「それなんだけどね、ちょっと買い忘れしちゃったから先に帰っててよ」


「別に待ちますけど……」


「いいのいいの! あんまり遅くなると親御さん心配するよ……!」


「はぁ……、ではお先に失礼します。深澤加鍬さん……!」


「は、はい……!?」


 なぜかフルネームで呼ばれたので、声が凍ばってしまった。


「今朝の事故といい、家の秘密といい、カスキさんには感謝してもしきれません! なのでカスキさんも、困ったことがあったらいつでも私に言ってください! こんなふつつか者ですが、何でもしますから!!」


 どこか誤解を招きそうな言い方、しかし誠意は十分に伝わった。


 感謝の言葉を述べてすぐ、恥ずかしくなったのかそそくさと電車のところへ行く。


 今の加鍬に、満足感はあっただろうか。いや、これは満足とか達成とか、そんなものとはまた違った想いだった。


 強いて言うなら、興味だろうか。愛姫薫との出会いによって、これから起こる物語。


 現実なのに、魔法も能力もファンタジー要素のカケラもないこの現実世界を、まるで冒険したくなるほどの好奇心が、加鍬のエンジンを活性化させる。


 歩きたい、捨てた現実世界だったはずなのに、まるで続きが気になったゲームや漫画のような感覚。


 未来が、待ち遠しくなった。


「さて、それじゃあこの難易度の高い現実世界を攻略するため、さっさと用事を終わらせますか!」


 運動不足の足でも、鍛えれば何だってできるものだ。


 さあ示せ! その足の進む方向は、加鍬にとっての運命を変えるに違いない。


 この男が描く冒険が、楽しみでならない。




「さすがにあの子の前ではできなかったからな、早く行こ! 先行予約!」




 台無しだこのやろ……。

プロフィール紹介




堀美屋尊ほりみやたかし


・年齢:15歳(高校一年生)


・誕生日:12月24日生まれ


・血液型:A型


・身長:168cm 体重:58kg


・好きなもの:日本文化(主にアニメ)、コーラ 嫌いなもの:化粧道具


・好きなタイプ:百合、女教師、女生徒会長


・感情:喜15%、怒10%、哀10%、楽15%、明20%、暗5%、温14%、冷5%、無5%、狂1%


【その他】 愛姫薫とかのエリートと同じくらい家がお金持ちなのだが、とある理由で一般を受けている。ハーフでイケメン、とても優しい性格なのでみんなからの人望が厚い。クリスマスイヴに誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント両方もらえるくらい。勉学は中であり運動はあまり得意ではない。


【作者の意見】 一人くらい金持ちキャラ入れとかないとね、この先旅行とかパーティとかやりやすくなるからねという不純な動機(笑)


ですがまあ、自分のピュアな部分をこの子につぎ込んでるといってもいいくらい、このオタク不良の中でもまともなキャラクターです。

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