1ゲーム、アニメオタクを認めてもらえない現実世界は、やっぱりクソゲーより攻略難易度が高すぎる
はい、というわけでプロローグと一話が終わりました。
これで終わるか続けるか、アクセス数や感想によって決めます。
それではまた来週に投稿されることを期待しております。
ここは現代の世界、9月1日という新しい何かが始まり、夢のような日々が一瞬にして終わる日である。
『次は、新越谷~、新越谷~……』
駅員のアナウンスを聞いて、学ランを着た一人の男子高校生が電車から降りる準備をする。
「ふぁ~ぁ……、また今日から学校かよ。……何だよまだ5分あるじゃねえか! 早く落ちて損した……」
けだるげな小声のおかげで彼の独り言が他の人に聞こえることはなかったが、彼の発言の意味は一部の人しかわからないだろう。
彼はスマホを見ながら今の時間を確かめる。7時40分だとわかり、ポケットからイヤホンを取り出してスマホに刺し、音楽を聴き始める。それと同時に彼の乗っている電車が埼玉県越谷市新越谷駅に停まり、扉が開くと彼を含んだたくさんの人が電車から降り、そのまま真っすぐ改札口まで向かって行く。
まるで朝の通勤のアルゴリズム。
駅に着いたらすぐ改札口とは、日本人はもうちょっと余裕を持てないのだろうか。
「うっわ……! 9月って天気じゃないだろ、暑すぎる……」
夏のBGMとも呼ばれる蝉がいやというほど鳴き出し、車がいっぱいの道路は陽炎によってグニャグニャと曲がっているように見える、そしてあの太陽は人に明るさを与えていると言っても良いほどの輝きだ。
だが彼はその明るさを浴びても、余計に気分が下がるだけだった。
「お、カスキぃ! はよ来いや、バス来んでぇ!!」
例の男子高校生、深澤ふかさわ加鍬かすきが駅を出てすぐ見えるバス停に、自分の名を呼ぶ3人の男がいることに気づく。
べつにバスが停まっているわけでもなく、奥の道路からもバスの陰は見えていないのだからそんなに急ぐことではない、だが友達に早く来いと急かされたらどうしても走ってしまう。
「ハァ……、ハァ……、全く、運動不足で4日間の完かん徹てつな俺を走らせるなよ……!」
「お主はもうちょっと運動したほうがいいでござるよ、ゲームではあんなに動いておるというのに現実はクソでござるな」
息切れが激しく、男にしては少し長い前黒髪の奥に潜む額の汗を拭う加鍬。
そんな動作を見て呆れるのは加鍬の友達第1号、夏なつ旗き湧よう渡と。
黒縁メガネを装着し、女性の髪とは似ても似つかぬ黒髪ロン毛を指でくるくるといじりながら佇む姿は、あまり男子高校生とは思えない。
見た目もあれなのだが何より気になるのはやはり語尾のござるなのだが、すでに聞き慣れた加鍬は特にツッコんだりしない。
「運動は僕も苦手だからそんなに責めないけど、さすがに完かん徹てつは止めといたほうが良いと思うよ」
ささやかな説得をするのは加鍬の友達第2号、堀ほり美屋みや尊たかし。
日本では珍しい、黄金色の短髪とエメラルドのように澄んだ瞳、彼はハーフである。
「あのなぁタカシぃ……、元はというと回復担当のお前が先に落ちたせいでクエストクリアできなかったんだぞ!! あれさえクリアしてたらハイテンションで学校行けてたんだぞ!!」
「確かにあれはないわ、おかげでクエストリタイアしてもうたやんか!」
威圧感が漂う関西弁で怒鳴るのは加鍬の友達第3号、業浪わざなみ昂ごう。
根本に陰が潜んでいる茶髪で、引き締まった身体はまるでスポーツマン、この中で喧嘩したら多分この男が勝つだろう。
「そうでござる、全くどうしてくれるのでござるか?」
「いやぁごめんごめん……、でもカスキくんならクエストクリアした後もゲームしてそうだったから止めたくて……」
「それは同意やな」「それは同意でござる」
「お、お前らなぁ……」
昂、湧渡の冷たい同意に加鍬は少し傷つく。
「お、バス着いたな。はよ乗ろうぜ」
彼らの運び足の代理品とも言えるバスが到着し、数人がすでに乗っている中でも4人は別々にならないよう固まって座ったり立ったりしている。
ところでみんなはお気づきだろうか、この4人のことを。
そう、この4人はさっきクエストを受けていた女性キャラの中の人である。中の人と言っても声優でなくプレイヤーのことだ。
この4人はゲームやアニメなどのメディアオタクであり、ゲームでは女性キャラを扱うネットオカマ、いわゆる『ネカマ』なのだ。
そんな仲良く感じない会話が彼らの日常。出会ってすぐ会話が始まり、尽きることなく一日を終える。バスの中に入っても、他の人の目線も気にせずアニメやゲームについて話す。
「今日の放課後、アニメイトに用ようがあるから秋葉原行くんだけど、誰か一緒に行かないか?」
バスの吊り革を二つ両手で持ちながら加鍬がみんなに報告する、ちなみにゲームではLapinラパンという黒髪少女を使っている。
「悪いけど陸上部があるから無理やな。特に行きたい用事もないし……、すまんな」と、メリアというカウガールを使う昂。
「吾人は今金欠でござる」と、ヨーコという魔法使いを使う湧渡。
「僕もごめん、塾があって……」と、自分の名前をゲーム名としている女教師の尊たかし。
「珍しく付き合い悪いな、まあ急すぎたし別にいいけど……」
ここまで断られると逆に清々しく感じてしまう。普段なら躊躇なく一緒に行ってくれるので加鍬は同行してくれると信じていたのだ。
彼らにとって秋葉原は学校の帰り道に分類されていない、むしろ逆方向だ。
地図を見てもらうとわかるのだが、彼らの高校の最寄り駅である新越谷、南側へ35km先に秋葉原がある。
そして加鍬の家の最寄駅は新越谷と秋葉原の間に位置する梅島、湧渡も間の北千住、尊も間の東京スカイツリー、昂にいたっては間でなく北に位置する北越谷。
寄り道とは呼べない位置、それでも彼らは秋葉原を『寄り道』に分類してしまう。それはなぜか、オタクだからだ。
「んでカスキ、どういう理由で行くんや?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました!」
「そんでさぁ、来期のアニメは2期が多くて新アニメが少なすぎなんだよなぁ!」
「おい待てその話題参加したいけど無視するんじゃねえよ!!」
加鍬が発したうざいセリフを昂は別の話題を出してスルーする。
こんな雑な扱いをされているというのによく関係が保てるものだ。
「現在放送中の『侍家族の遊歩道プロムナード』のDVD1巻の先行予約をしに行くんだよ! まあせっかくアニメイトに行くんだから、ついでに何か買おっかなって思ってるけど!」
さすがオタクなだけあって、加鍬の今の言動は輝かしくも無邪気な要素が含まれていた。
オタクの使命の一つ、布教をしている時はやはりテンションが上がるものだ。
「あぁ、あのクソアニメのやつやな」
「2期制作予定なしの残念アニメでござるな」
「タイトルは聞いたことあるけど見てない……」
人の好きなアニメなどおかまいなしに、3人は自分の感想を躊躇なく述べまくる。そしてその不評の連鎖に加鍬はイラっと来た。
「お前らわかってないなー、ヒロインの咲さ夜やちゃんとかまじ尊いじゃねえかよ! 俺は目が節穴なやつとはつるまねえ、今からでも遅くない、咲夜ちゃんは最高だと言え!」
そして加鍬のほうも人を小馬鹿にすることをさらりと言うので、それを聞いた3人、主に昂と湧渡はカチンと来た。
「ハァ!? てめえ何言ってやがんだよ! あんなウシヂチ女のどこがええんや! 刀を振り回す度に乳揺らすとこ強調するわ八つ裂きにされてもおっぱいの近くの服しか斬れへんわ、完全にエロ要素の塊やないか!!」
「そもそもあのアニメは『侍の道を捨て、平凡な道を歩む』のがモットーなのでござる! 思いっきりバトルものになってる時点でクソだとなぜわからないのでござるか!!」
「わかってないほんとわかってない! 平凡な道を歩みたくても、咲夜の前に立ちはだかる曲者がいるから面白くなるんじゃねえか! しかも嫌だとわかっていても戦わざるをえないヒロインの悲しい表情がグッと来るんじゃねえかよ! それに大きい胸があるおかげで新必殺『乳白羽取り』というオリジナルな技を編み出したんじゃねえか! 作者が描く技の汎用性の高さと、現代社会の理ことわりに必死に抗おうとするストーリー構成の魅力がぬわぁんでわからないのかなぁ!!」
「わかんねぇよ、そもそも俺は貧乳派や。無駄に肉が多い巨乳のどこがええんや?」
「胸を無駄な肉って言うな大事だろ!? 赤ちゃんのための栄養が詰まってるんだぞ!!」
「おっぱいのことを胸って言ってるチキン童貞に言われても説得力あらへんわぁ!」
「ぐぐぐ……!」
「まあ吾人はおっぱいなどどうでもいいでござるけどね、やっぱり幼さからにじみ出る可愛さが最高でござる」
「うわ出たよロリコン勢……、幼女にそんな目で見たら犯罪ものだろ?」
「わかってないでござるなカスキ殿は、ロリっ子は身体より純粋な心だと言いたいのでござるよ」
「純粋な心持っとるならロリやのうてもええやろ?」
「そういうことではないでござる!」
「どう違うんや教えてみろやこらぁ!」
「ちょっと3人とも、今バスのなか……!」
「お前はどっちの味方なんだよ!?」「お主はどっちの味方なんでござるか!?」「おめえはどっちの味方や!?」
「内容は同じなのにセリフが一言一句合ってないね! あと僕は百合派です」
とまあこんな感じで、仲が良いのか悪いのかわからないこの4人、TPO関係なく大声で論争するのは日常茶飯事。
ついついバスが高校に到着することを忘れてしまうくらい熱心に話すので、比較的まともな尊が気づいてくれないと遅刻になってしまう。今日も遅刻せず、2学期初めての学校生活が始まる。
「あ、タカシくんおはよう~! 今日も暑いわね!」
「おータカシ、おっは~&久しぶり! 少し焼けたな!」
バスから降りると、登校しているクラスメートと会うのは必然である。故に夏休みという長期休暇により久しぶりに見る女子高生や少しちゃらい男子高生が次々と現れ、挨拶を交わす。
しかし、一つおかしな点がある。それは『タカシ』にしかあいさつされてないことだ。
「おーおーやっとるやっとる、リア充特有の典型的あいさつが!」
「軽く挨拶をしているのが余計に質たち悪いでござる!」
「おめえ、やっぱうちらのグループから外れたほうがええんちゃう?」
「ひ、ひどい……!!」
比較的充実している尊の行動を見て、反アンチの世界にいるオタク3人が蔑みまくる。
正確には尊もオタクである。だが尊はハーフという見た目の良さと性格の良さ、さらには生徒会の活動を積極的に行っている優しさ故の深い人望により、学校のアイドルの座を手に入れた。
そして何より『オタク』だということで蔑まれずにいれる一番の理由は、オタク3人に脅されて反アンチの世界に行かされた、という変な誤解が学校中に知れ渡っているからだ。みんなは可哀そうだと同情し尊を気にかけ、オタク3人は完全に嫌われ者扱いされている。
オタクというのは学校では嫌われる存在だ、ということを昔から知っている3人は今の立ち位置に不満を抱いてない。むしろ誇らしく思っている。だがある日、一人の女子高生が尊になぜオタクとつるんでいるのか聞いた時、尊はこう言った。
『好きで一緒にいてるだけだよ』
外国に長いこと住んでいた尊が日本の文化の一つ、アニメについて知りたいと思い3人と仲良くなった、自分から進んで入ったというのに、その女子高生はこう感じたのだ。
『あぁ……、もう身も心も奪われてしまったのね!!』
こうして、尊を除いたオタクグループは嫌われ者の問題児となり、オタク3人も尊のことをいじるようになってきた。
「そ、そういえば……、僕たちもリアルで会うのは久しぶりじゃないかな?」
ギスギスした状態を和ませるため、尊が話題を変えようとする。
「ゲームで会ってるんだからから別によくね?」
「そうだよ、便乗でござる」
「はよ校舎入ろ~、あつぅて汗かきまくりやわ」
「えぇ……」
バス内で行った論争がうそのようにびっしりした統率力、リア充の言葉に聞く耳を持たないのか、尊をさらりと受け流すところが非道すぎる。
そしてそのまま4人はバス停から校門へと歩いていく。そして移動中も彼らの会話は終わらない。
「カスキ殿がアニメイトに行って、ゴウ殿が部活、タカシ殿が塾でござるか。放課後のゲーム合流は夜になってしまうでござるな。せっかく今日は午前で終わるというのに……」
今日は始業式のみだから学校は午前で終わる。彼らは放課後すぐ家に戻ってゲームをしている、普段なら宿題やら何やらでプレイ時間はあまり長くないのだが、試験日の終わりや始業式や終業式や三者面談などの午前授業、さらに長期休暇となると話は別である。
終わった夏休みもばりばりやっていたというのに、彼らは絶対にゲームに飽きたりなどしない。
「僕の塾は正確には5時からだから、それまでならできるよ! でも帰って来てからゲームはできないと思う」
「今日は学校終わってすぐ部活、昼から始めるわけやから早めに終わるわ! せやから5時からなら合流できんで! でも7時からは妹の世話せんとあかんから2時間だけやな」
「アニメイト行って、買い物したり晩飯食べたりするから……、7時からならいけるな」
「吾人はギャルゲーの主人公でござるか……」
時間ごとに一人一人相手していくというやり方が少しおかしい。どうせなら集まってできないのかと湧渡は思い、深いため息を吐く。
「そんなクソアニメ見ないで早めにゲームに参加してほしいでござるな、しかも一度見てるくせに」
「てめえふざけんなよ何がクソアニメだコラァ! しかも今のチャンネルじゃ光あるんだから、無修正版を見るのは当然だろが!!」
「エロアニメだったのあれ!?」
湧渡と加鍬の口論がまたも起こりそうになり、先ほどまで知らなかった事実をツッコむあまり尊も大声になってしまった。
……とそんな会話をしている時、前を向いていなかった加鍬が女子高生とぶつかってしまった。
「あいたっ! あぁすみません、よそ見してしまって……」
「いえこちらこそ……、って! きゃぁぁぁ!! キモオタがうつる~!!」
女子高生がまるで汚物をつけられたかのように、ぶつかったところを思いっきりはたいたり拭こうとする。
そしてそのまま加鍬からすぐさま離れようとする。これだけでも傷つくがとどめの一撃となったのは、彼女の瞳から流れる悲しみの水晶だった。
そんな状況を見ていた他の高校生たちは、ただ加鍬を白い目で見つめるまま通り過ぎて行った。
「……オレシンデイイ?」
もはや何の慰めも効かないほどの絶望感だった。
だがオタクたちは慰めなどしない。
「ぶつかった拍子に『ズキュゥゥゥン』という音がする、そして女子高生Aが言う『このきたならしいオタクがァーーッ!!』、そして見ていたモブがこう言う!」
「さすが女子高生A! 俺たちに言えないことを平然と言ってのけるッ、そこにシビれるあこがれるゥ!」
「そこへ加鍬がこう言う、『初めてのファーストタッチは白馬の王子様などではない、このカスキだぁッ!!』、どや顔で叫ぶ加鍬を無視して、女子高生Aは近くの水たまりへ向かってある行動をするッ!」
「あぁっ! み……、見ろ! こいついったい何考えてんだッ! ドロ水でぶつかったところを洗っているぞッ! 頭おかしいんじゃねえか、学校に手洗い場もあるのによ!」
「そんな行動を見て加鍬がブチンと切れる、『こっ! この女子高生Aッ! わざとドロで洗って自分の意志を示すかッ!』、そう言いながら加鍬は女子高生Aの頬をはたきまくる!」
「君がッ! 泣くまで! はたくのをやめないッ!」
「ジョジョパロしとる場合かーッ!」
「自分もしてるよ!?」
慰めどころか先ほどの状況を昂と湧渡が、しかもジョジョパロディでいじって来て、なぜかいじられた加鍬もジョジョパロディでツッコんでしまった。
そして最後に尊がしっかりとツッコむことで、なんだか爽やかな気分になる。まるで新しいパンツを履いたばかりの正月元旦の朝のようだ。
「ヨウト、お前はモブをやるのか俺の役をやるのかはっきりしろよ! あと、モブは『シビれるあこがれる』とか言ったくせに、次のセリフが『こいつ何考えてんだ』はおかしすぎない!? どうせなら泥水で洗うところをシビれろあこがれろよ! そしてゴウ、『初めての』とファーストタッチのファーストが重複してる! あと、数々の名言&名シーンが出てるのはいいが順番が違う、『きたならしいオタクが』は時系列的に最後だろうが!」
「冷静に間違いに気づける辺り、おまえ全然傷ついてないだろ」
「うん、お前らのありえない行動のおかげで逆に吹っ切れた」
なんだかんだで、好きな漫画でいじられるとモチベーションが下がるどころかハイテンションになるらしい。
あと、今のツッコミでわかると思うが加鍬はジョジョラーである。
……と、そんなネタをしているのを止めて、加鍬が目の前の道を見て気づく。
「あれ、登校してる人が多い。この時間いつもは人少なかったはず……」
「夏休みボケやな、ひっさしぶりの学校で朝はよう起きれんかった人が多かったんやな」
「というかそもそも吾人たちが遅刻寸前に来てるだけでござる。それにしてもここまで多いとはみんなだらしないでござるな、というか邪魔でござる」
「そう思うならもうちょっと早めに学校へ行こうよ」
「「「だが断る」」」
一単語だけなら一言一句違ったりしないのだろう。
バス停から校門までの間に横断歩道が一つある。下手したら赤信号のせいで遅刻になるほどの面倒な横断歩道、青になるまでたくさんの人が待ち構えていた。
校舎にある時計台の長い針が下へ降りようとするのが遠くからでもわかる。遅刻ギリギリな高校生にとって校門がゴール、スタートの合図であるランプが緑に照り輝く瞬間が来るまで目が離せない。
だがそこへ、フライングしようとしてる人が現れた。
「おい……、何考えてんねやあいつ!?」
「ジョジョパロの続きでござるか?」
「ちゃうわ! あの女、赤信号を気にせず歩いとる!」
たくさんの人がスタート地点にて待つ中、歩道と歩道を繋ぐ橋をトボトボと歩こうとする女子高生がいる。
スマホではない、顔を下に向けてただ暗い印象を持つ女、何か悩んでいるのだろうか。
だがそんなことを気にすることなく、一台の大きなトラックが奥から見えてくる。
「危ないっ!」
高音で強烈な刺激が脳の髄まで届いてくるほどのブレーキ音。
スタートの合図などもう目に入らないほどの瞬間だった。
ぶつかりそうになった女子高生はトラックの左側、一人の男子高校生によって覆いかぶされていた。
「カスキ!?」
「カスキくん!!」
「大丈夫でござるか!?」
硬直した空気をなんとか抜け出し、女子高生と一緒に横たわっている加鍬が心配になった3人が駆け付ける。
湧渡が加鍬の肩を揺さぶって意識があるかどうか確かめる。
だが、加鍬はピクリとも動かなかった。
その事実を知った瞬間、湧渡の顔は驚きの顔で満ち溢れていた。
「そんな……、おかしい、おかしいでござるよカスキ殿は! 先ほどまで女子高生Aにひどい扱いをされたという状態だったくせに、どうしてそんな人種の一人を、命を張ってまで助けに行くのでござるか! 愚かでござるよ……、カスキどの……!」
その発言をした時にはもう、湧渡の顔は驚きで満ち溢れてはいない、涙だ。
「尊敬するぜカスキ……、お前ならたとえどんなひどいことされた相手やろうとその同族やろうと何であろうと、命張って助ける黄金のこころ持っとるんやな。思えばお前の好きなアニメ、正義感の強い主人公ばっかりだったよな……、かっこ……ええな……!」
ただ加鍬が動かないことの事実を受け入れた昂は、伝えたいことをありのままその場で言った。だが直接言いたかったと後悔しているのが、昂の拳を見てすぐわかった。
「うぅ……、カスキくん……、カスキくん……」
ここは校門前……、近くにオタクたちを馬鹿にしている高校生が見ている。
しかし、3人は感情をおさえきれなかった……。
湧渡は叫んだ、加鍬の名を!
昂は悔やんだ、加鍬の死を!
尊は流した、悲しみの涙を!
けれど加鍬の名をよんでも返ってくるのは残酷な静寂だけ……。
加鍬は死んだのだ……、湧渡と昂と尊は静寂によってこの事実を実感した。
その身尽きてもその魂は死なず……、深澤加鍬ここに眠る。
「いや、地の文までジョジョパロしてんじゃねえよ……」
それは3人にとって馴染みのある声、イケボというわけでもなくガラガラ声というわけでもなく、しかしどこか和むようで活発な響きであった。
倒れていたはずの加鍬が、起きている。
「カスキ殿!?」「カスキ!?」「カスキくん!?」
死んでいた、そう思っていた3人が一斉に驚きを露わにした。それもそのはず、加鍬の姿は意外とピンピンしているのだから。
「カスキ殿、大丈夫なのでござるか!?」
「あぁ。ちょっとひじを擦りむいたのと、打ってないはずなのに頭が痛いことを除けば大丈夫だ」
擦りむいたというひじのほうにわずかな出血、痛いと言ってる頭は打ってないというだけあって、腫れたり血が出ていたりしていない。
「何やねん、ヨウトの早とちりやったわけかいな!」
「め、面目ないでござる……」
「よ、よかったぁ! と、とりあえずカスキくん、保健室に行こう! あ、でもさすがに一人で行かせるわけにはいかないよね……?」
「いや、足は問題ないからゆっくり行くよ」
「それでもヨウトくん、カスキくんと一緒に行ってあげて! みんなも、早く信号渡って校舎に入って! 僕は先生を呼んでくる、ゴウくんはトラックの運転手の様子を見てきて! あぁでもこの女の人を先に見ないと……!」
「うぅ……、あれ? 私は一体……?」
人手が足りない、この女子高生をどうしたらいいか? とそう思ってた時、倒れていた女子高生が目を覚ましたようだ。
「あぁ良かった、どこか怪我ない?」
「は、はい……、えっとどうして……?」
女子高生が頭を抱えながら、横断歩道、トラック、加鍬の順番で見ていき頭を整理する。
そして、一気に女子高生の顔が真っ青になる。
すると何の言葉もなく、カバンを持って校舎へと逃げだした。
「え、ちょっ、どこ行くねん……!?」
「今、俺を見て逃げて行ったよね……?」
「いやいや気のせいでござるよ! ほら早く保健室へ行くでござるよ!」
気のせい、4人全員そう信じたかった。
しかし『一度あることは二度ある、二度あることは三度ある』というものだ。そのことわざを知っていた加鍬は、頭とひじ以外にも痛みが増えた。
「心が痛い……、これだから現実はクソなんだ……」
プロフィール紹介
深澤加鍬ふかさわかすき
・年齢:15歳(高校一年生)
・誕生日:1月1日生まれ
・血液型:AB型
・身長:167cm 体重:68kg
・好きなもの:プリン、桃、うさぎ 嫌いなもの:ハム
・好きなタイプ:巨乳でおしとやかな女
・感情:喜20%、怒5%、哀10%、楽10%、明15%、暗3%、温15%、冷5%、無5%、狂12%
【その他】 芸術においては平均以上だが、5教科すべての点数が悪い。さらに運動神経も悪いただのクズ、唯一良い点といえば、器の大きさと悪知恵が少し働くといったくらい。
【作者の意見】 少し自己投影してる部分があります、『陰と陽の古文書』を読んでる方はご存知でしょうが、自分も主人公も巨乳派です(笑)
性格だけ判断すると加鍬のほうがましなので、一応オタクメンバーのリーダーという立ち位置になってます。