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二話:異世界転生かと思いきや、死んでませんでした

【Side:凛】


 私、水瀬凛は朝が苦手です。

 お兄ちゃんの部屋から目覚ましの音がひっきりなしに聞こえてくるからです。

 いつも私が止めに行ってるんですから、いい加減にしてください。


 後、私はお兄ちゃんの目覚ましじゃありません。自分で起きられるようにしてください。

 いつまでもお兄ちゃんと一緒にはいられないんですからね?


 早く妹離れしてください。

 私はお兄ちゃんが心配です。


「……はぁ」

「なになに、溜め息? 凛ちゃんが溜め息なんて珍しいね」

「楓ちゃん。それがね……」


 私はお兄ちゃんを起こさないで学校に来てしまったことを、楓ちゃんに打ち明けます。


「えぇっ!? あの寝坊助さんを起こさないで来ちゃったの? それは大変だね。もしかすると、今も寝ちゃってるんじゃない?」

「それはない……と思いたい。だって、もう一時だよ? お兄ちゃんでも流石に……」


 ……ダメです。否定しきれません。

 お兄ちゃんはダメな人間ですから、起きられたとしても、ベッドでゴロゴロしてるかも……。


 私には、その姿が簡単に想像できてしまいます。


「いいよね。楓ちゃんのお兄さんはしっかりしてて。羨ましいよ」

「えぇ? そうかなぁ。あたしは凛ちゃんのお兄さんの方が可愛いから好きだけど……」


 う〜ん。楓ちゃんはいつもそう言うけど、私には動きが鈍くて、とにかく顔が死んでるとしか……。


 ごめんね、お兄ちゃん。

 

 だけど、本当に不思議です。

 私と楓ちゃんは小学校からの付き合いで、何度か家に遊びに来たことがあるから、お兄ちゃんのだらしない姿を見たことあると思うんだけど……。


「……楓ちゃん。お兄ちゃんのこと、好きなの?」

「え? 好きだよ? 優しいじゃん」

「そうじゃなくてね? お兄ちゃんを男の人として好きなのかなって……」

「男の人として……って、そんなの言えないよ! やめてよ、恥ずかしいでしょ!」


 この反応……もしかして、本当に?

 顔を真っ赤にする楓ちゃん。可愛いけど見たことがありません。

 お兄ちゃんも案外、隅には置けないのかも?


「私――」


 お兄ちゃんとの恋、応援するよ! と言おうとして。


「水瀬さんっ! 大変です! お兄さんが交通事故に遭われて病院に緊急搬送されたって、今連絡が!」

「……ぇ?」


 息を切らして教室に現れた担任の報告に対し、空気が抜けたような声を出したのは、私か。楓ちゃんか。

 それすらも分からなかった。


 だって、お兄ちゃんが……どうして?

 

 分からない分からない分からない。

 分かりたくもない。


 私はとても動揺しています。


 私のせいですか? 

 私が悪いんですか? 

 私がお兄ちゃんを起こさなかったからですか? 

 途中まで一緒に登校しなかったからですか?


 嫌。嫌です。嫌なの。

 私が悪いです。悪かったんです。

 だから、奪わないで。お願いします。


 私の胸中には後悔と自責だけが募り、それ以外は何も考えられなくなってしまいました。

 息を吸うことさえも忘れてしまいそうです。


 でも、何とか足を動かすことはできて。


 私は何が起こっているのかも理解できず、先生の後を着いて行くのでした。

 



【Side:蓮】


 闇の中から、意識が浮上する。


「……ここ、は」


 辺りを見渡す限り、病院ではない。

 ただ白い空間が広がっていて、この世のものとは思えない。


 ここは、死後の世界だろうか。


「……俺は死んでしまったんだな」

 

 そう呟くが、驚くことに俺の胸中は穏やかだ。

 死んだことで、悟りでも開いたか?

 それとも単純に、死を受け入れただけか。


 まあ、ありがたいことだけれど。


「死んでないよ」

「って、うおわぁっ!?」


 突如として目の前に現れた……って、あれ? 何もいない。

 さっき、感覚的に目の前から声が聞こえてきたはずだが……?


 俺は辺りをキョロキョロと見回してみるが、やはり何もいない。

 もしかして、幻聴?『死んでないよ?』と聞こえてきた辺り、俺はまだ死を受け入れきれてはいない?


「あっ、ごめん。ヒトの子であるキミに、女神である私の姿は見えないか。――よいしょ。これでよし」

 

 また幻聴が聞こえたかと思いきや、額に何か柔らかくて温かいものが触れた瞬間、それは見え始めた。


「初めまして、水瀬蓮くん。私はここ――地球と異世界の狭間を管理している女神、アドミニストレータ。今後ともよろしくね」


 ……この人は、一体何を言っているのだろうか?

 もしかして、頭が少々痛い人なのかもしれない。

 可哀想だな。大人にもなって、厨二病だなんて。


 でも、俺はそれを馬鹿にはしない。

 流石に片目を眼帯で隠していて、暗黒龍が封印されているとか言ってきたら関わりたくはなかったが、外見はまだまともだ。


 こういう服装を何と言うのか。俺は分からないが、一つだけ言えることは似合っているということ。

 恐らく黒髪が多い日本人が着ても映えない。白髪碧眼の彼女だからこその服装だ。


 完璧すぎるプロポーションも相まって、神々しいとすら思えてくる。……女神だけに。

 

「……どうも、アドミニストレータさん。いきなり本題で悪いんですが、『死んでないよ』というのは……」

「凄いね、キミ。さっきまでかなり失礼なこと考えてたのに。まあ、いいか。正直なのは、美徳だからね。で、その言葉はそのままの意味だよ」

「じゃあ、ここは死後の世界じゃない?」

「さっきも言ったけど、ここは地球と異世界の狭間にある空間だよ」


 ということは、異世界に転生するということ? いや、死んでいないなら転移か。

 何にせよ、俺は異世界に行けるらしい。

 全く嬉しくないが、仕方がない。

 魔王でも何でも倒して、世界を平和にしてやるか。


「キミ、それ早とちり……」

「……え?」

「キミは異世界に行けないってこと」

「……ふぅん。あっそ」


 俺は座り込んで、地面にのの字を書く。


「いじけないの。そもそもキミ、異世界に興味なんてないでしょ?」

「……まあね」

「でも、魔法は使えるようになるよ」


 魔法だと? そんなの憧れない男はいない。

 それに魔法が使えれば、今後はスムーズに凛の恋路を邪魔できるかもしれない。


 今までは面倒だったからな。凛といい関係になりそうな男を牽制したり、凛の靴箱に入れられたラブレターを別の靴箱に入れたりするの。

 中高一貫の学校じゃなかったら、どうなっていたか……。

 

 俺は今までにない素早さで立ち上がり、アドミニストレータさんに詰め寄る。


「詳しく」

「流石は男の子。食いついてきたね。使用用途は残念だけど」

「そういうのいいから、早く」

「せっかちさんだね。でも、特に説明することないよ。魔法はキミのイメージ次第だからね」


 なるほど。イメージ次第か。それはありがたいな。

 

 しかし、気になることがある。


「……魔法のことは分かりました。でも、アドミニストレータさんはどうして俺をここに?」

「んー、主な理由は二つあって、一つはさっき言ったように、魔法を使えるようにするため。二つ目は、これから説明しようとしてたんだけどね。

 水瀬蓮くん。キミには、ある調査をしてほしいの」

「それは、どのような?」

「まだ確証が取れてないんだけど、日本にダンジョンが出現しているかもしれないの」


 ……は? この女神、また頭のおかしなことを言い出し始めた。日本にダンジョンが出現している?

 そんなことあるはずがない。ダンジョンがあったらそこには魔物がいるということになる。


 もし、それが事実だとしたら、自衛の手段を持たない日本国民は魔物によって滅ぼされかねない。

 日本には世界にも誇れる自衛隊が組織されているが、前例がない非常事態であるがゆえ、どこまで正確に処理できるか……。


 最悪、なすすべがないかもしれない。


「キミって、本当に早とちりが好きなんだね。それに、戦えるのは自衛隊だけじゃないよ」


 アドミニストレータさんは呆れた物言いで、俺の間違いを指摘した。

 しかし、俺には言っていることの意味が理解できず、頭の中で『?』を三つほど作る。


「分からないのも無理ないけどね。だけど、本当のこと。日本には異能って呼ばれる力を行使できるヒトがいるの。最近流行りの呪術もそうだね。っていうか、キミも会ったことあるでしょ?」

「……え?」

「キミを突き飛ばした女の子だよ。あの子は多分……巫女さんかな」


 ……巫女? あの言葉遣いで? ありえねぇ。

 それ以外にも思うところは多々あるが、ムカつくから考えないようにする。

 だけど、もしまた会ったら、一回泣かす。それぐらいのことはさせてもらうからな。覚悟しとけ。


「うんうん。その意気その意気。でも、できれば仲良くしてほしいな」

「……嫌だけど?」

「そう言わずに、ね? 仲間は多い方がいいでしょ?」

「……善処する」


 たしかに、仲間はいた方がいいだろう。

 万が一、ダンジョンが見つかって、魔物と戦うことがあったら、味方としては心強いかもしれない。


 でも、絶対に一回は泣かす。

 調子に乗ってる奴は、制裁を加えないとずっと調子に乗ったままだからな。

 巫女なら巫女らしく、お淑やかにな。


「じゃあ、そろそろお別れかな。まずは出会った異能者と仲良くすること。後、魔法の修行は欠かさないように」

「……分かりました。頑張ります」

「うん。頑張って。後、キミが目覚めるのは三日後かな。目が覚めたら、スマホを見てね。バイバイ」


 そう最後に言いたいことを詰め込んで、アドミニストレータは消えた。

 そしてそれを追うように、俺の意識も薄れていくのだった。


 

本作をお読みいただきありがとうございます。


ブックマークの追加や、画面下の『☆☆☆☆☆』から評価をした上で読み進めていただけると幸いです。


何卒よろしくお願いします!


本作はネット小説大賞に応募するため、時期を早めてなけなしの二話分を投稿しています。

本格的な始動は一週間後の六月七日を予定しているので、ブックマーク等よろしくお願いします。

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[一言] 続きが読みたいです。 更新を楽しみにしてます。
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