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病弱剣道少女沖田霞の異世界転移  作者: 今川幸乃
第二章 商人を救う
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悪徳商人

 次の村もとりたてて先ほどと変わることのない村だった。シルアはまっすぐに村の真ん中付近にある宿を目指す。旅慣れていて大体村のどの辺に宿があるのかすぐにわかるのだろう。


 何でもない村だが街道沿いにあるからか、宿はそこそこの人で賑わっていた。

 入ったところにある酒場では旅人や商人が陽気にしゃべりながら飲んでいる。ちらっと料理を見てみるとやはり日本とは全然違った。シルアが手続きをしてくれているのに申し訳ないという気持ちもあったが、私は早速聞き込みを開始する。


「すいません、つかぬことをうかがいますが生命の実ってこの辺にないですか」

「何だあ嬢ちゃん、生命の実なんてそうそうある訳ないだろ」


 私が適当に選んで話しかけた旅人風のおっさんは呆れたように言う。

 さすがに貴重なものらしい。悪魔はこの方角だと言っていたが、もう少し先なのだろうか。


「ですよね。でも話だけでも聞いたりしませんか?」

「ねーな」

「おや、お嬢さん生命の実を探しているのかい?」


 するとおっさんと相席していた商人風の男が私の方を興味深げに見る。


「はい、そうです。何か知ってるんですか?」

「最近ここいらじゃ噂になってるんだ。生命の実を持っている商人が病人やその他実が欲しい人の間を回って値を吊り上げてるって」


 えぇ、商人が持ってるのか。私はお金なんて一銭も持ってないって言うのに。それを聞いて一気に暗い気持ちになる。


「病気の母親がいるのに値を吊り上げるなんて、とか村の伝統的な祭祀にどうしても必要なのに、とか非難の嵐らしいぜ。俺も一応商人だし、金にがめつい方だとは思っているが、さすがにあそこまであからさまなことは出来ないな」


 話を聞く限り相当望みは薄そうだったが、今回の実を手に入れなければ悪魔は次の手がかりをくれないだろう。

 それに、もしかしたら私の剣の腕を買ってくれるかもしれない。私の剣が、生命の実に釣り合うほどの腕なのかはよく分からないけど。


「その方、なんて名前ですか?」

「オズワルド。お嬢さんもあいつから実を買うならせいぜい大金を持っていくがいい」

「あはは……」


 そう言われると笑うしかない。大金どころか宿代すら出してもらっている身だ。


「あ、いたいた。沖田さん私が宿とってる間に何してるんですか」


 振り向くと呆れきれ顔のシルアが立っている。


「一応実の情報集めておこうと思って。宿ありがと」

「はいはい。にしても知らない人に普通に話しかけてくなんてすごいですね」

「まあ、知らない人しかいないし」

「なるほど……それで何か分かりました?」

「一応」


 そう言って私は今聞いた話をシルアに伝える。話を聞いたシルアはうーんと首をひねった。


「私は無理だと思いますけど、沖田さんがチャレンジすると言うなら私もついていきますよ」

「シルアは正直だね」

「お金稼いだら生命の実買う前に宿代返してくださいね」

「う」


 思ったより現実は甘くなかった。

 こうして私たちはその日はそれぞれの部屋で眠りについた。




 翌日、私たちが宿で朝食を食べていると(シルアは金額らしきものをメモしていた)、宿の外が騒がしくなった。


「何かあったんですか?」


 私は隣で朝ごはんを食べている旅人に聞いてみる。


「例の生命の実の商人が来たんだよ」

「え、本当に!?」


 私は思わずテーブルに手を突いて立ち上がる。

 が、彼の反応は冷ややかだった。


「お嬢ちゃんも興味あるのか? だがどうせまともに売ってはもらえないと思うがな」


 とはいえ、だからといって手をこまねいている訳にはいかない。

 私は慌ててスープを飲み干してパンを口に詰め込む。


「ちょっと、ご飯ぐらいゆっくり食べましょうよ」

「シルアは後からでいいよ」

「誰がお金だしてる朝ごはんだと思ってるんですか」


 シルアは口を尖らせながらも目の前の朝食を口に詰め込むと追いかけてきた。

 宿の外に出るとちょっとした人だかりが出来ていた。この宿は村に一つしかない宿なので旅の人は皆泊っていく。そのため、宿の前には旅人向けの店が並ぶちょっとした広場があるのだがそこが今日は混んでいた。


 人だかりの中心にいるのは高そうな服を着た商人。彼の後ろには武装した護衛が六人も立っている。商人はがっしりとした体つきをした四十前後の壮年だ。良く言えば顔つきに貫禄があり、悪く言えばあくどい顔つきである。


 一方、商人の前には客と思われる男が二人、女が一人。そんな彼らを囲むように野次馬の輪が出来ている。野次馬の間にはちょっとした緊張も走っている。

 そんな中、商人はやや陽気に声を張り上げる。


「さあどうしますかな? アレク村の村長は金貨三十枚出すと言ってましたが」

「そんなに出せるか! こないだは金貨十枚だったじゃねえか!」


 客の一人が商人につかみかかろうとするが、さっと護衛が間に入る。


「商品はより多くの金を出すものに売られていくべき。そう私は考えますが?」

「だからといって金貨三十枚は高すぎだろ! お前もそう思わないか?」


 男は唾を飛ばしながら護衛にくってかかるが、護衛の男は無表情で立っているだけだ。


「くそ、何とか言えよ! 黙ってるってことはお前もこいつに加担しているってことだぞ!」


 男はなおも血相変えて詰め寄るが、商人は余裕の表情で言い返す。


「では聞きますが生命の実に金貨三十枚の価値はないと言いたいのですか? 寿命が延びるのであればもっと大金を積む価値があるという方もいると思いますが? そしてもし本当にぼったくりだと思うなら買わなければいいのでは?」

「いや、そういうことではないが……」


 途端に男は弱気になる。命の重さを金銭に変換すること自体に無理があるのだから当然の反応だろう。ただ、人が持っている金銭に限りがあるから自然に相場というものが生まれてくるだけで。


 そしてその相場というのも、生命の実のような稀少な存在の前では意味がないかもしれない。金貨を百枚持っている人が不治の病にかかれば相場は金貨百枚になるし、金貨三十枚持っている人しか病にかからなければ相場は三十枚になる。

 逆に言えば金持ちが皆自分の寿命に満足していれば、大した値段にはならないかもしれない。


「悩むということは金貨三十枚という価格は妥当かもしれないということでは? 勝手に安く買えるかもしれないという希望を抱いておいて、それが裏切られて怒るのは筋違いなのではないですか?」

「う……」


 口達者な商人に男は完全にやり込められている。それに本質的に商人が自分の商品にどんな値段をつけようと本人の自由だ。この分だと無一文どころか借金中の私の出る幕はなさそうだ。そんなことを考えているとシルアが私の耳元に口を近づけてくる。

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