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ラッキースケベは命懸け

 魔王城で迷子になっている最中で会った、着替え途中の少女。

 そんなろくに服を身に着けていない少女に、俺は必死に詰め寄っていた。


「違うんだこれはわざとじゃなくて決して君の着替えを覗こうとしたわけじゃなくて!」


「ひぃっ! 怖いです! 息を荒げながら近づかないでください!」


 どうにか誤解を解こうと必死に言い訳をするが、しかし少女は聞く耳を持ってはくれなかった。後ずさって涙目になりながら、こちらを怯えた表情で見てくる。


 くそっ、これも全ては神様のせいだ。こんな小さな子を怖がらせてしまうなんて!


『サンゴ、あの子の名前はサリエルですよ。同じ世界の住人なのですから、君だなんて他人行儀な言い方ではなく名前で呼んであげなさい』


 そんなこと言ってる場合かこのバカ! 神様のせいでこんなことになってだから助けてくださいよ!


『そうですね、サリエルちゃんは怖がってはいるものの、きちんと話せばわかってくれるのではないでしょうか。嘘をつかず、邪な気持ちがあったことを謝罪するのです』


 邪な気持ちなんてない! あったのはむしろあんたの方だろ!


 だがまあ、きちんと訳を話すべきだという考えはその通りだ。わざとではないのだし、訳を話せばわかってくれるはず!


「サリエルちゃん! 俺の話を聞いてくれ!」


「ひぃっ! な、何でボクの名前を知ってるんですかぁ!?」


 余計に怖がらせてしまった。


「ご、誤解だ! 俺がこの部屋に来たのは偶然で、やらしい思いなんてなかった(本当)し、いまだってやらしい気持ちなんて微塵も抱えてない(嘘)!」


 本当のことを言うとちょっと嬉しい気持ちにはなっちゃったりした。


「あといい加減服を着てくれると助かる!」


「だ、だったら部屋から出てってくださいよぉ!」


 確かに。いつまでもこんな小さな子に恥ずかしい思いをさせるのも申し訳ない。


「オーケーわかった。それじゃあ部屋の前で待ってるから着替え終わったら呼んでくれ」


「懲りずにまた覗きに来るつもりですか!?」


「違う! それについての誤解を解くためだ!」


 はたして本当に誤解は解けるのだろうか。もう手遅れな気がする。

 心の中でどう言い訳をしようか考えながら部屋の外へと向かう。しかし、いざドアを開けようとしたところで、何やら騒がしい声が聞こえて来た。


『サリエル様の悲鳴を確認! 緊急事態発生!』

『発生地点をサリエル様の自室と断定!』

『性犯罪者はそこの角を曲がった先にいますよ』

『総員突入準備! 最優先事項はサリエル様の身の安全!』


 ガチャガチャドタドタとこちらに向かって走って来る足音と鬼気迫った声――待って誰か混ざってなかった? 具体的には神様が。何誘導してんの?


「わわわ……! だ、だめです覗き魔さんこっちです!」


「ちょっとサリエルちゃん!? 今俺のことなんて――ってうおっ!?」


 慌てた様子のサリエルちゃんに急に服を引っ張られ、ガクッと力が抜けるような感覚がしたかと思うと、そのまま部屋の隅へと放り出される。

 倒れこんだそこは固い床などではなく、むしろ高級なソファーのようにふかふかとした材質で、さらに体の上に同じくふかふかした優しい肌触りの物をかぶせられた。


 この柔らかく、暖かく、いい匂いは――そうかこれはベッドか!


『サリエル様! どうなさいましたか!』

『ご無事ですかサリエル様! どうかドアをお開けください!』

「だ、駄目です! 絶対に開けちゃだめですよ!」


 ふっかふか! ふっかふか! いい匂い!


『ど、どうしてですかサリエル様!』

「今ボクは着替え中なので! さっきはその、えっと、虫が出てちょっと驚いちゃっただけですから大丈夫です!」


 それにぬっくぬくだ! ぬっくぬく! いい匂い!


『そ、そうでしたか……失礼しましたサリエル様!』

『では我々は配置に戻ります! 何かありましたらお呼びください!』

「ご、ご苦労様ですぅ…………」


 お、女の子のベッドってこんなにぽかぽかして優しい匂いがするのか……なんだかドキドキしていけない気持ちになってきた……ええい! 気をしっかり持てサンゴ!


『いや本当に。気をしっかり持ってくださいサンゴ。あなたサリエルちゃんが庇ってくれてる最中になんてことしてるんですか』


「――はっ!」


 頭に響いてきた神様の声でトリップしていた意識が戻ってくる。

 あ、危ないところだった……あのままでは恥ずかしい姿をお披露目してしまうところだった。


『すでに恥ずかしくてみっともない姿でしたけどね』


 う、うるさい! 思っていただけでまだ何もしてないからセーフだ!


「あ、あの、覗き魔さん。もう出て来ても大丈夫ですよ」


「ありがとうサリエルちゃん。でもその呼び方はやめてくれないかい? 心に傷を負ってしまいそうだ」


 頭の上から被っていた掛け布団をどかし、上半身を起こしてサリエルちゃんに答える。


『その前にいい加減ベッドから出るべきでしょうサンゴ。いつまでサリエルちゃんのぬくもりを堪能しているつもりですか。それに心に傷を負ったのは間違いなく着替えを見られたサリエルちゃんです』


「えっとぉ……そう言われましても、ボク、あなたの名前を知らな――「うるさい! 余計なことを言うな!」――ひぃっ! ごごごごめんなさぁい!」


「ああ違うんだサリエルちゃん!」


 しまった! またしてもサリエルちゃんを怖がらせてしまった!


「ごほん、と、ところでサリエルちゃん。どうして俺を庇ってくれたんだ?」


『話の逸らし方下手ですかあなたは』


 ほっとけ。


「え、えっとですね、このお城が加入している警備会社の防犯サービスがありまして、さっき来た方たちはそこの防犯システム悪魔さんなんですけど」


「防犯システム悪魔ね……悪魔も就職する時代、いや世界か」


「それで見つかった犯罪者は木っ端みじんにされてしまうんです」


「こっわ!!」


 さすが魔王城、危険なトラップが仕掛けられているな。


「だから覗き魔さん……じゃなくて、えーと」


 サリエルちゃんは言葉を切ってこちらを窺うように見てくる。

 ……あっ、そうか。名前がわからなくて困ってるのか。


「自己紹介が遅れたけど、俺の名前はサンゴだ。よろしくサリエルちゃん」


「は、はいっサンゴさん! それで、サンゴさんが覗きをしたと言っても、木っ端みじんにされちゃうのはかわいそうだと思って、とっさに隠れてもらったんです。うう……今更ながらボクはちょっと後悔しています……。やっぱりあそこで防犯システム悪魔さんたちに差し出すべきでしたでしょうか」


「後悔しないで! ほらサリエルちゃんが助けてくれなかったら俺は木っ端みじんになってたから! サリエルちゃんは命の恩人だ! 俺の命を救ったことを誇りに思って!」


 もしここで心変わりされてさっきの悪魔とやらを再び呼ばれたらかなわない。

 だからお願いだサリエルちゃん、そんな引いた目で俺を見ないでくれ。


「そ、そうですね。いくらサンゴさんが覗き魔さんだとはいえ、殺されちゃうのはかわいそうですし……」


「あ、ありがとう本当に」


 サリエルちゃんが優しい子でよかった。危うく転生して二日目で詰むところだった。


「でも、そもそもサンゴさんはどうしてボクの部屋に来たんですか?」


「ああ、それが魔王様に食事会に招待されたんだけど、実はトイレに行ったら迷子になっちゃったんだ。それで間違えてサリエルちゃんの部屋に」


「食事会に招待……あっ! あのあの、もしかしてサンゴさんがオーダおじさんの言っていた転生者さんですか?」


「たぶんそうかな。そのオーダおじさんっていうのが誰かは知らな……知ら……」


 オーダ……おじさん? ちょっと待ってくれ、オーダって聞き覚えが…………



 ――僕は裁判長の仕事をしているマ・オーダです。よろしくねサンゴ君――

 ――言い出しっぺだし僕からするよ。名前はマ・オーダ――



 脳裏に思い浮かぶそんな声。


「そうだったのですか。それならやっぱりサンゴさんを助けられてよかったです! お客様に何かあったら大変ですから!」


「……ねえサリエルちゃん。二つほど聞きたいことがあるんだけどさ」


「はい? 何ですか?」


「オーダおじさんっていうのはさ……もしかしてこう、なんていうか……肩書みたいなものを持ってたりする?」


 どうか間違いであってくれ……!


「はい! オーダおじさんは『魔王』です!」


「ま、『マーボー』か。辛そうな肩書だね」


「マーボーじゃなくて魔王ですよサンゴさん」


「ああごめん聞き間違えちゃったよ。『硫黄』だね。科学的な肩書だ」


「科学的な肩書って良くわからないですよ。ですから魔王です」


「そっかそっかまた間違えたよ。『益荒王(ますらおう)』だね。益荒男の上位互換みたいな肩書だね」


「どう聞き間違えたらそうなるんですか!? ですから魔王ですよ! オーダおじさんは魔王様なんです!」


 間違いじゃっ……ながっだ……っ!


「サンゴさん? どうしてそんなに泣きそうな顔に?」


「ぎにっ、気にじないで……んんっうん、ごほん。それじゃあ次に、サリエルちゃん。その『おじさん』っていうのは?」


「オーダおじさんは伯父さんなんです! ボクはつまりオーダおじさんの姪です!」


 笑顔で、まるで自慢するようにしゃべるサリエルちゃん。まあなんたって魔王様だからね。そりゃ自慢の伯父さんだろうね。



 ……そっかぁ……サリエルちゃんは魔王様の姪かぁ……。


 俺、殺されるかもなぁ……。

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