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金がねぇ!


 刺激が――――欲しいっ!


 ……あ、いやらしい意味じゃなくてね?


「毎日がもっと刺激のある一日になりますよーに!」


 カラスがカーカー鳴く夕暮れ時。願いを込めた十円玉を賽銭箱に投げ入れ、パンパンと手を鳴らして頭を下げる。


 毎日こうして学校の帰り途中の神社にお参りするのが俺、一二之(いちにの)三吾(さんご)の日課である。まあまだ始めてから一年もたってないんだけど。


 退屈な日々に飽き飽きして刺激を求める――なんて、いかにもお年頃の男子が抱えそうな願望を、多分に漏れず俺も抱えているのだ。それを実現させるためにとる手段が神頼みというのは、もしかしたら俺だけかもしれないけど。


 でも、『継続は力なり』なんて言葉もあるんだし、こうして学校のある日は欠かすことなくお参りしていれば、いつかは神様にこのお願いが届くはずだ! 信じてるからな神様! マジで!


 だから俺は、来る日も来る日も神社に参拝する。


「もっと刺激のある毎日になりますよーに!」

「もっと刺激のある毎日になりますよーに!」

「彼女が出来ますよーに!」

「女の子にモテモテになりますよーに!」

「ちっ……田中の野郎彼女出来たとか自慢してんじゃねーよ……あぁ羨ましい!」

「もっと刺激のある毎日になりますよーに!」


 たまに正直な欲求が漏れ出ちゃう日もあったけど、三日坊主常習犯の俺が一年近くも続けられたのは我ながらすごいことだと思う。


 ……が、しかし。


 そんな祈り続けてそろそろ積み重なった十円の出費もバカにならなくなってきたころ、とある大問題に直面することとなった。


「……じゅ、十円玉が……ない、だと……っ!?」


『カァ―、カァ―!』とカラスの鳴き声がシリアスな空気を演出する。

 何度財布をあさっても、十円どころか五円も一円もなく、あるのは鈍い金色に輝く五百円玉だけ。


 くっ……コンビニで買い物した時、おつりに端数が出ないようお金を支払ったのが仇となったか……!


『カァ―、アホ―!』


 おのれカラスめ、今なんと――っとと、落ち着け俺。八つ当たりしている場合じゃない。


「んんむ、どーすっかなぁ……」


 これ一枚で大体二か月分の参拝料だ。近くに両替機なんてあるわけないし、こいつを投げ入れるしかないんだろうけど……いっそのこと、今日はサボっちゃうか? いやいや、ここまで続けてきたのをこんなくだらない理由でやめてしまうのはなんだか癪だ。


 でもなぁ……もったいないよなぁ……。


 ――いや、待てよ? これを投げ入れるということは、普段の五十倍のお祈りパワーがあるってことじゃないか? むしろ今後の五十日分は参拝をさぼってもいいってことになるのでは?


 閃いてしまった悪魔的解決法。都合のいいように解釈した、ともいう。


「……なーんて、やめやめ。さすがにもったいなさすぎるって」


 目の前に五百円玉をかざしひとり呟く。たかが五百円、されど五百円。俺にとってはただの参拝で消費するには惜しすぎる金額だ。


 それに、一日ぐらいサボっても罰なんて当たらな――


「カァァ――――ッ!!」

「うわぁぁああああ!?」


 さて帰ろうか、と振り返った瞬間、視界一杯に広がったのは奇声をあげながら猛スピードで突撃してくるカラスであった。


 ああ、カラスって本当に光る物が好きなんだな――俺の手から五百円玉をもぎ取り、どこかへ飛び去って行ったカラスを見送りながらそんなことを思う。優雅に空を舞う黒い鳥をは対照的に、衝突の勢いでよろけた俺は無様にも地面へと倒れていく。


 まさかこんなにも早く天罰が下るとは。明日からはサボろうなんて考えず、きちんと毎日参拝しよう。


 そう誓った俺は、そのまま賽銭箱に強かに頭を打ち付けたのだった。


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