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プロローグ

 プロローグ


 全ての始まりは高校二年生になった春、蔵の中での物探しだった。

 うちは一応、神社である。名前は見凪神社。大きさはたいした事無いのだが、それでも先祖代々、受け継いできた歴史ある神社なのだ。

 その為、春には祈祷や御払いなど、神社としての仕事が増えてくる。

 基本的に信仰心の離れた現代日本では小さな神社の経営など、とてもじゃないがやってはいけない。氏子の人達からの寄付と賽銭などだけでは、まったくといっていいほどだ。

 だからこそ、行事での臨時の仕事は神社を経営する生命線といってもいいくらい重要な事なのだ。

 だが、そんなうちの神社も今、大変な窮地に陥っている。

「はて、一体何処にしまったのか……。まったく見つからないなぁ、そっちにはあったか? 早斗(はやと)

「こっちにもねぇよ! 本当にこの蔵にしまったのか? 親父」

「む、このまま明日までに見つからなかったら、やばい事になるなぁ……。器物損失で一体いくら払う事になるのやら……。これじゃあ、神社だけじゃなくってうちの家計もヤバイなぁ」

 今、俺達が必死に探しているのは、とある神社から借りた祭具だ。一昨年あたりに何かの行事に使うからといってうちが借りて以来、借りっ放しになっていたものらしい。

 ところがつい先日、その借りた先の神社から返して欲しいという電話があったらしく、現在目下捜索中なのだ。

 このまま、本当に見つからなかった場合、本当に冗談では済まされない事になってしまう。

 山積みにされたダンボールとあたりに散乱した古書などを書き分けながら、それらしき大きさの包みを探していく。

 ちなみに、今探しているのは直径三十センチほどの銅鏡だ。宮司の手伝いで祭事を見ていたから覚えている。そして、最後には紙で包んだ後、箱にしまっていたのを覚えているのだ。

 だが、肝心のしまった場所は知らなかった。その為、今は親父の記憶を頼りに手当たり次第に探していく事しか出来なかった。

 だけど、すでに蔵の入り口付近は捜しつくしてしまった。こうなると、後は蔵の奥のほうを見てくるしかないだろう。激しく面倒くさいが探さなければ家計のピンチなのでどうしようもない。

「親父! 俺はもう少し奥の方を探してくるから、別の場所を探しとけよ」

「分かった。では、本堂のほうを見てくる事にするかな……」

 そう言うと親父は蔵から腰を重たそうに持ち上げて出て行った。

 俺は額を伝う汗を拭いながら、蔵の奥へ入っていく。手入れが行き届いていないので埃などが積もり、空気が悪い。

 早くこんな場所から抜け出て、休日をゆっくりと満喫したいものだ。部屋に帰ればあいつらが待っていてくれているというのに……。

 そんな事を考えながら、まず何処から手をつけようかと思っていた時、ふと俺の目に止まる物があった。あちこちがぼろぼろになっているが、俺にははっきりとそれがあれだと分かったのだ。

 俺は作業を中断してそれに近づいていく。壁に立てかけられているそれは紛れもなく、日本刀だった。俺はそれを手に取ってみる。

「おおっ、結構な年代物じゃないか! いつ頃の作品だろう? うちにあるって事は御神刀なのかな?」

 そう、俺は三度の飯よりも日本刀が好きなのだ。鍛えられた刀身、見事な反り、栄える刃紋、全てが手作業で作られながらも寸分の狂いもなく出来上がるそれは芸術といっていい。

 武器の中で最強とも言われる日本刀は、まさに武器と芸術品の両方を兼ね備えた日本の心なのだ。

「さて、刀身はどんなものなのかなっ」

 鞘に手を当て、鯉口に指を添える。最初に日本刀を見る時は、たまらなくわくわくする。それがどんな出来であったとしてもだ。

 指に力を入れ、抜刀しようとした。しかし、その時、蔵の入り口から声が掛かった。

「早ちゃ〜ん? 居る〜?」

 その声は親父ではなかった。俺の事を早ちゃんなどと呼ぶ人間は一人しか居ない。

「だ〜か〜ら、俺の事をちゃん付けで呼ぶなって言っているだろうが、ナツキ!」

 俺の声を聞いたナツキは蔵の中にパタパタと入ってくる。積み上げられたダンボールの道から現れたのは、いつもと変わらない見慣れた幼馴染みだった。

「えへへっ、ごめんね。でも、もう慣れちゃった事だから治すのが難しくって」

「いつまで経っても治らないな。でも、外ではなるべく気をつけろよ」

「うん。頑張るよ!」

 へらへらと笑っているこいつは俺の幼馴染みである『沢井(さわい) ナツキ』だ。ハネ気味のショートヘア。パッチリとした目と整った顔立ちは薄暗い蔵の中でもよく見える。

「ところで、こんなところで何してたの? 蔵が開いていたから見にきたんだけど」

「ああ、うちの親父が借りていた祭具を失くしちまったんだよ。紙に包んで箱にしまってある三十センチくらいの銅鏡なんだけどさ」

「あ〜、あの鏡ね。最後に使ったのって確か去年のお払いの時だよね?」

「あっ? お払い?」

 俺は記憶にない言葉につい情けない声を出す。今、ナツキの言った事はなんだ?

「ほら、去年の夏が終わった頃にカップルの人が心霊写真を撮ったって言ってお払いに来たじゃない? あの時にも確か使ってたよね?」

 俺はナツキの言葉を頼りに去年の記憶を手繰り寄せていく。徐々に蘇っていく記憶の中には、確かにそんな事をしていたような記憶が残っている。

「確かに……、そんな記憶が微かに残っているな……。ってか、なんでそんな事ミツキが知っているんだ?」

「も〜、本当に覚えてないの? あの時は丁度夏祭りの後でアルバイトさせてもらってたの。それで、人手がないからって手伝わされたんだよ」

「そうだったのか。じゃあ、その後祭具をどうしたかも覚えてないか?」

「覚えているよ。でも、銅鏡は確か借り物だからってここじゃなくって本堂の方にしまっておいたはずだけど?」

 ナツキの言葉に思わずクラッときた。ナツキの記憶力は確かなものだ。だとすると、一日中この蔵を探していたのはまったくの無駄となる。

 そんな風にがっくりと肩を落としていると親父が駆け足で戻ってきた。

「おい、早斗! 本堂のほうにしまってあったぞ! いやー、去年の夏にお払いで使っていたのを忘れていた。おや、ナツキちゃん。来ていたのかい」

「こんにちは、おじさん。よかったですね、探し物が見つかって」

「はははっ、年を取ると忘れるのが早くなるねぇ。嫌だなぁ」

「おい、こらっ! いままで散々苦労して探していた息子への感謝の言葉はねぇのかよ!」

 こっちを無視してナツキと話す親父に対して俺は怒りの声を飛ばす。しかし、そんな事は別に気に止めているような感じではなかった。

「ああ、悪かった悪かった。褒美に今お前が持っている刀をくれてやるから機嫌を直せ」

 その言葉を聞き逃しはしなかった。刀が貰えるのならば話は別だ。

「まぁ、それならしょうがない。次からは気をつけろよ!」

 百八十度態度を変えた俺をナツキが苦笑いで見ていた。しかし、そんな事は気にしない。俺は刀さえあればいいんだからな。

「そういえば、なんでナツキはこっちに来たんだ?」

「あっ、そうそう、それを伝えたかったの。今日の夕飯のときに食べられるように煮物を持ってきたんだよ。勝手に台所に置いてきたけど良かったよね?」

「おお、それはありがたい。男二人だとどうしても食事が偏るから困っていたのだよ。早斗は卵料理の簡単なものしか作れないからの」

「何も作れない奴よりはマシだろうが!」

「あははっ、それじゃあ私はこれで帰りますね。まだ家のほうでやる事があるので」

 そう言ってナツキは蔵から出て行こうとした。しかし、丁度入り口を出かかった時、何かを思い出したように立ち止まった。

「早ちゃん! 明後日の誕生日プレゼント、期待しててね!」

 ナツキは笑顔でそう言った。そして今度こそ立ち止まる事無く、走り去ってしまった。俺達は毎年お互いの誕生日にはプレゼントを贈るという約束をしていた。そして、明後日は俺の誕生日なのだ。

 誕生日に祝ってもらえる事は、この年になっても嬉しい事だ。俺は今年はどんなものをもらえるのか楽しみにしていた。

「顔がにやけているぞ、早斗……」

 親父の言葉に俺ははっとする、思わず顔の筋肉が弛緩していたようだ。

「うるさいな、いいだろこれくらいの事は喜んでも」

「まったく、毎年毎年じれったいなぁ。いっそのこと思い切ってしまえばいいものを……」

「あっ? 何のことだよ」

「なんでもないわ。それよりも、蔵を閉じるからさっさと出ないか」

 俺は数時間ぶりに蔵の外に出た。境内に咲いている桜が風に乗って綺麗に散っている。ようやく息苦しい空間から開放された俺は、思い切り気持ちのよい新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。

 その時、手に持っていた刀がわずかに振動したような気がした。何だと思い刀を振ってみると鞘にひびが入っているのが分かった。恐らくこのせいで鞘の中で刀身が揺れたのだろう。

 俺はとりあえず先に風呂に入ってくる事にした。刀を整備するのにも汗と埃まみれでは満足に行なえない。

 母屋に戻り、自分の部屋に戻った。部屋を開ければ、壁一面にかけられた大量のコレクションの刀が俺を迎えてくれる。俺はとりあえず床に刀を置いた。すると、さっきよりも鞘のひび割れが酷くなっているのに気がついた。

 これはもう、パーツ全部総取替えかな……。

 そう思いながら俺は部屋を後にした。まだ銘も確認していないあの刀をどんな風に直そうかと考えながら風呂に向かったのだった。


どうも、桜雪 零です。

執筆中の作品があるのですが、そちらの方が進まなくなったので、気分転換で書いてみました。勿論、本気で書いてますよ。どっかの賞にだそうかと思っています。


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