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言葉の使い方  作者: 総督琉
コミュリンピック編
8/11

第7話 愛さえなければ

 コミュリンピックは始まった。

 参加者は五百名以上、想像以上に多いその数に、私は緊張していた。

 まさかこれほどまでに大規模な戦いだとは、思ってもいなかったからだ。


「来ましたね。黒淵天下の娘が」


「もしかすれば、彼女は我々の敵となりうるかもしれません。ここで排除しておくのが得策だと思われますが、どうでしょうか?」


「そうだな。では邪魔者は消してしまおう」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ではコミュリンピック第一競技を始めましょう。第一競技はVR恋愛シミュレーションです」


 VR恋愛シミュレーション?

 さすがに意味が分からない。これから私たちは何をさせられる?


 私たちは謎のカプセルの中に入れられた。

 ひぃちゃんは躊躇いなくカプセルの中へと入っていく。部長もだ。

 暗堂は観客席でこの光景をどう思っているのだろうか?


「では皆さん、VRの世界へいってらっしゃい」


 カプセルの中、私は眠りについた。長い長い、とこしえの眠りに。


 それから幾つかの時間が流れた後、私は目覚めた。

 そこは誰かの腕の中、その中はとても温かく、温もりに溢れていた。腕の中にいる私を、何人もの見知らぬ人が見下ろしている。

 まるで、これはまるで私が今さっき生まれたかのような、そんな反応だ。もしかして、私は今生まれたのか。この世界に、見知らぬ世界に。


 それから何年も、私は知らない彼らに育てられてきた。

 生まれて間もなく父は死んだ。だが全く別の父と母が、私のことを育ててくれた。

 優しく、温かく、時には厳しく。


 私は幼稚園に入るようになった。そのクラスには、問題児と言われている少年が一人いた。


久家(くが)くん、物は投げてはいけません」


「そんなルール俺は知らねー」


「知らないじゃありません。ちゃんとルールは守ってください」


 先生に言われるも、久家という少年は頑なに先生の言うことは聞かないでいた。

 そんな人生が続き、気付けば小学生になっていた。それまでの間、彼と話したのは花火の夜の一度きり。


 小学六年生、卒業が近付き、進路に悩んでいた。

 そんな私のもとへ、彼はーー久家は現れた。


「なあ黒淵、明日の夏祭り、一緒に行かないか?」


「うん。この前皆で行こうって言ったの忘れてないよ」


「違うよ。…………二人きりで行きたい」


「それはどういう……


「俺じゃ、駄目か?」


「駄目じゃ、ないけど……」


「なら決定だ。二人きりで行くぞ」


 そんなこんなで、私は久家と二人で夏祭りに行くことになった。

 正直、どうして久家がそう言ってくるのかは分かっていた。だから私はそれを肯定することしかできなかった。


 夏祭り、私は浴衣を着、できる限りのおしゃれをして約束した場所へ向かった。そこには久家が待っていた。


「ごめん。待った」


「べ、別に。そんな待ってないよ」


 三十分ほど遅れたのは事実だ。

 私の浴衣姿を見て久家は頬を赤らめていた。


 しばらくの間、私は久家と二人きりで祭りを楽しむ。

 人気のない道を歩いていると、前の方からいかにも悪そうな男三人組が歩いてきた。

 このまま何事もなく終わってくれれば良いと思っていた。案の定、そんなはずもなく、男たちは私たちを見て足を止めた。


「おいお前、何怖い目付きで見てやがんだ」


 まさか久家、この男たちを睨んでいたのか。

 明らかに関わってはいけない相手だろ。


「見ちゃ悪いのか」


「そういうことか。なら覚悟しろ」


「逃げるぞ」


 久家は私の手を掴み、男たちから逃亡する。私は全力で走り、男たちの追走から逃れようとする。

 何とか逃げきり、私たちは荒い呼吸で床に座り込んだ。


「すまないな。危険な目に遭わせてしまって」


「良いよ別に。それよりもさ、何で久家は私と二人きりで祭りに行こうと思ったの?」


 久家は何か息を飲み、私の方を見た。


「一度しか言わねーからよく聞いておけ。俺がお前と一緒にいたのはな、お前のことが好きだからだ」


 その瞬間、周囲の空間が歪み始めた。

 何か機械音のような音が鳴り響き、気付けば、私は謎の機械の中に入れられていた。


「思い出した……あの世界は……全て偽りの世界、だったんだな……」


 私は全てを思い出した。

 先ほどまでの世界がVRの中での出来事だということ、今が本当の世界だということ。


 私は虚無に苛まれた。

 憂鬱な気持ちを抱いていた。

 本当にあの世界は、偽りだったのだろうか。

 ねえ誰か、教えてくれ。


 私はカプセルの中、一人嘆いた。

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