第6話 コミュリンピック開催
来たる夏、コミュリンピックというものが開かれるらしい。
路地裏街にも密かにそのようなものが行われるという噂は度々来ていたが、まさかコミュニケーション部全員がそのコミュリンピックに参加しなければいけないとは。
これはさすがに想定外であった。
正直、今行われている選挙の方が興味はあった。
梓川卿夜、早乙女刃、朝桜鴻上など。
「コミュニケーション部よ。今年のコミュリンピックこそ、私たちコミュニケーション部が優勝をかっさらうぞ」
部長ーー安宮等さんはコミュリンピックに向けての意気込みを高らかに宣言する。
コミュニケーションは、これまでに十二回もコミュリンピックに参加しているらしく、しかし未だ一度も優勝できていないらしい。
正直のところ大会形式がどのようなものか分からない以上、優勝することが難しいことなのか簡単なことなのか、まだ分からないままだ。
「今回のコミュリンピックでも、やはり八つの種目が開催されることとなっている。そこでだ、今回のコミュリンピックの競技の一つでもある討論を鍛えようと思ってな。そこで代無高校のコミュニケーション部に来てもらっている」
そう言うと、扉を開けて高校生の集団がこの部室へと入ってきた。数は五名。
「彼らが今回の相手になってくれる者たちだ。心して討論するように」
「初めまして。私は代無高校コミュニケーション部部長、伊藤遼太郎と申します。よろしくお願いしますね」
爽やかに、彼は安宮等部長へと手を出した。
二人は軽く握手を交わすと、早速討論へ移ることとなった。
「まずは部長である私から行こう」
安宮等部長はそう宣言し、伊藤の前に立った。
「それでは私が相手をしなければ失礼に値しますね。ではあなたの相手は私が努めましょう」
伊藤もやる気満々のようであった。
部長VS部長、二人の討論が始まった。
「ではお題は、人間は生きている意味があるか、についてだ。私はなう」
「では私はあるにしないとな」
安宮等部長はある、伊藤はない、だ。
「人間というのは環境に害を及ぼし続けるばかりだ。我々が生きている意味はない」
「確かにそうだな。人間というのは環境ばかりに害を与え続けている生物だ。だから人は意味がない。それはいささか傲慢だな。そもそも、人というものの存在価値があるかないかなど、人が決めることではない」
「ではあなたはどちらの意見でもないということになるが」
「私は人間には存在価値がある。それは人という生き物によって、救われたものが何かしら存在しているから」
「その考えこそが傲慢ではないのか」
それから討論は何十分に渡って続き、結局決着はつかずに終結した。
どちらが正しくどちらが偽りか、その答えは討論では得られない。この討論では得られないのだ。
それから私たちも彼らと討論を重ね、代無高校との合同演習は終わった。
終わった後、部長は屋上へ向かった。私は呼ばれ、彼女の後を追う。
「部長、呼び出して何のようですか?」
「なあ黒淵、今回の討論で何か思ったことはないか?」
「いえ。特にないですかね」
「そうか……」
部長はどこか悲しげな顔をし、私を見ていた。
「なあ黒淵、こんなことを聞くのもあれだが、お前は父親のことを覚えているのか?」
「いえ。私が生まれてまもなく、父は死んだと聞かされました。ですので父の顔は未だに覚えていませんかね」
「なら今回のコミュリンピック、もしかしたらお前は悲しい現実を見るかもしれない。暴力というものが表向きにはなくなったこの世界の真実を、そしてこの世界の闇について」
「そういえば明日でしたっけ。コミュリンピック」
「心の準備はしておけ。きっと、このコミュリンピックで、お前の人生は大きく変わってしまうだろうから」
私には分からない。彼女が何を心配してくれているのか。
だが一つ分かることはあった。
ーー彼女は私の父親について知っている。
だが私には訊く勇気はなかった。父親がどうなってしまったのか。父親がなぜ死んだのか。
父さん、あなたはなぜ死んだのですか。
死人に口なし、返答は……なかった。