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言葉の使い方  作者: 総督琉
学園編
6/11

第5話 歌わないアイドル

「転校生を紹介します」


 この一年一組の教室に、新しく仲間が増えることになった。

 誰がどう見ても彼女は可愛い、まるでアイドルのようなーー


「初めまして。私はアイドルの歌唄(うたうた)アリアと申します。よろしくお願いします」


 彼女は、アイドルだった。

 彼女が転校してから数日、彼女の連絡先を聞こうと何十人もの男子が挑むも、百戦百敗、男子は誰一人として彼女から連絡先を聞き出すことはできなかった。

 鉄壁の守備に準じる彼女であったが、それでも男子は誰一人として諦める者はいなかった。


「法華、皆バカだね」


 ひぃちゃんは笑いながら男子たちを見て言った。

 それには私も同意見だ。


 ある日、私たちへ飛び火した。

 それは彼女から依頼を任された、ということ。ではその彼女とは誰のことだろうか。そんなのは決まっている。


「何の用ですか?歌唄さん」


「黒淵法華。私は君の噂について聞いているよ。だからお願いだ。どうか私の頼み事を聞いてほしい」


 私についての噂。

 これは後々聞いたことだが、路地裏街で私がある事件を起こした主犯だった、ということを聞いたらしい。

 路地裏街で起きたあの事件がなぜ彼女の耳に届いたか、その理由はひとつしかない。彼女も路地裏街にいたことがあるからだろう。


「で、頼み事とは何でしょうか?」


「私を助けてほしい」


「助ける?何から?」


「テレビから。私はもう歌を歌いたくない。歌なんて大嫌いだ。だからお願い。私を、誘拐してほしい」


「なるほど。でも何で?君はアイドルなのに」


「それは……」


「やましいことでもあるのか?」


「これから言うことは絶対に内緒にしてほしい」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「私はさ、本当は歌いたい。けどさ、テレビ局のお世話になっているプロデューサーの中に言霊っていい不思議な力を持っている人がいる。その言霊を使われ……私は……」


 そこで彼女は口を閉じた。

 よっぽど嫌なことをされたのだろう。


「君の頼みは分かった。だけど歌を歌いたいのだろう。アイドルを続けたいのだろう」


「うん。私はアイドルを諦めていない」


「なら話は早い。そのプロデューサーから言霊を奪えば良い。私に任せておけ。私、路地裏街の女王に」


 歌唄アリア。

 彼女の悩みを解決するのに必要な条件は全て私の手の中にある。


 私が大嫌いなものは三つある。

 一つ、話が通じない者。

 一つ、苦労する者を見下し、嘲笑う者。

 一つ、他人の思いを無下にする外道だ。

 それに一つ追加だ。

 一つ、私の友を悲しませた者だ。


「ひぃちゃんがついてくる必要はないんだよ」


「ううん。何もできないかもしれない、けど側にはいたいから」


「なら私の側から離れるな。久しぶりに暴れようか」


 私は学園の外に出てすぐにある駐車場で待っていた。一分ほど経つと、黒色の高級車が華麗な運転捌きで私たちの前にピタリと停まった。

 その車から降りてきたのは、サングラスをかけタバコを口に咥えた男。


「乗れ」


「ああ。助かる」


 その車に乗り込むと、男は猛スピードでテレビ局へと向かう。

 彼は世界でも名のあるレーサー、ソニックという異名が与えられる程の逸材だ。彼のドライビングテクニックにより、あっという間にテレビ局へ着いた。


「黒淵、また事件でも起こすのかい」


「いいや。ただの説教だよ」


「テレビ局に乗り込んで説教って、やっぱあんたイカれてるよ」


「だーろー」


「そうだ。これを預かっていたんだ。持っていきな」


 渡されたのは私が頼んでおいたとある能力を持つ言霊。それを私は胸元へ押し込んだ。すると言霊は私の中へと吸収される。


 私たちは車から降り、テレビ局の中へと乗り込む。


「天下、やっぱあんたもあんたの娘もイカれているよ。だからこそ、俺はあんたらに惹かれ続けるのだろうな」


 ソニックは車に寄りかかり、テレビ局へと向かう黒淵らの背中を眺めていた。タバコの息を頭上へ吹き上げる。


「さあ行ってきな。路地裏街の暴れん坊よ」


 テレビ局へと入った私、そこで警備員が私へ駆けつける。


「邪魔だな。眠っていてもらおうか」


 そう言うと、警備員たちは急激な睡魔に襲われ、その場に崩れ落ちた。くれぐれも死んでいるわけではない。ただ眠っているだけだ。

 私は次々と眠らせていき、そしてテレビ局の中枢へと向かった。

 そこで一人の男を見つけた。その男を見た瞬間、歌唄は明らかに表情が曇った。


「見つけたよ。歌唄、この男がそうかい?」


「ああ」


「何だお前らは」


 男はそう叫ぶが、私は男の頬を鷲掴みにし、目を見て問う。


「私の前では何人も嘘はつけない。お前が歌唄に嫌がらせをしている男だな」


「ああ。俺がそいつに嫌がらせをしている。まさか、それだけのことでテレビ局に乗り込んできたのか。それはいささか馬鹿みたいだな。あいつのようなアイドル、俺がいなきゃ売れないんだよ。俺の道具だろ。俺がどう扱おうと俺の勝手だ」


「お前の顔、見ているだけで吐き気がするよ」


 私は拳を握る。だが私の手を歌唄は掴んだ。


「黒淵、大丈夫だから」


「だが、」


「違う。許したわけじゃない。ここからは私がやるっていう意味だよ」


 歌唄は男を鋭い目付きで睨んでいた。


「お前……俺がいないとこれからもテレビに出れないぞ。俺に何かすればーー」


「くたばれ」


 そう言い、歌唄は男の顔面目掛けて拳を振るうーーー寸前で、彼女は拳を止めた。

 男は泣きじゃくり、脅え、震えていた。


「良いのか?あれで」


「これが私の選んだ選択だ。この男を殴ったり蹴ったりしたところで何も変わらないでしょ。それに、この世界は全てが話し合いで解決するんだ。だから、裁判で決着をつけるよ」


「そうか。それが良いな」


「ごめんね。こんなことに付き合わせちゃって」


「別に良いよ。そんなことは」


「ありがとう。おかげでまたアイドルに戻れそうだ」



 後日、彼女はそのプロデューサーへ裁判を挑んだ。

 結果は歌唄の圧勝だったらしい。見事賠償金三千万を請求し、今もテレビへ出続けている。

 相変わらず、たくましいものだな。彼女は。


 私は密かにそのプロデューサーの言霊を回収していた。

 その言霊は"絶対遵守"という四字熟語の意が込められている。これではどんなことを命令されても逆らえないな。

 私は学校の屋上で風に揺らされる。


「歌唄、頑張れよ」

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