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言葉の使い方  作者: 総督琉
学園編
5/11

第4話 コミュニケーション部

 学校に通うようになって一ヶ月。

 色々あったが不登校に戻るようなことはなく、私はまたここで楽しい人生を送っている。


「ねえ法華。部活はまだ入ってないでしょ」


「そういえば入ってないかな」


「じゃあさ、私の部活に来る?」


 ひぃちゃんに誘われ、私はある部室の前まで来ていた。

 この緊張は不登校から学校へ久しぶりに来た時のようだ。しかしもうそれは乗り越えた。

 私はひぃちゃんとともに扉を開けた。


「緋色、おはー。隣の子は誰?」


 まず迎えてくれたのは、金髪に染めている先輩の女性。


「初めまして。黒淵法華と申します。この部活を見学しに来ました」


「ここはコミュニケーション部、現代必要とされているコミュニケーション能力を鍛える部活だ。これからよろしくな」


 私と彼女は握手を交わす。


「私はこの部活の部長、安宮等(あくら)だ。何かあったら私に任せろ」


 気付けばコミュニケーション部の人たちと打ち解けていた。

 私って意外とそんな才能あったのかな?なんて、全部ひぃちゃんのおかげだけど。


 そこへ謎の少女が入ってきた。

 彼女は手に携帯電話のような物を持っている。


暗堂(あんどう)、見学者が来ているぞ」


 暗堂、そう呼ばれた彼女は私を見た。しかしすぐに顔を背け、走ってどこかへと行ってしまった。


「ああ、行っちゃった」


「あの子は?」


「あいつは少し変わっていてな、いつも携帯電話ばかりを気にしているんだ。恐らく何かあったんだろう」


「そうですか……」



 私は部室を抜け、トイレへ向かっていた。

 そこへ続く通路の途中で窓越しに見えた。先ほどの少女が屋上で携帯電話を握り締め、泣いているのを。


 よく見ると、彼女の携帯電話には言霊らしきもののオーラが溢れ出ている。


 そういえば担任の沼川先生(私が学校へ行く理由を作ってくれた人)が言っていた。

 この学校にも数名言霊(ことだま)を所持している者がいると。中にはそれを悪用している者もいると。


 私は自ずと屋上へ向かっていた。

 彼女から感じる言霊の正体を知るために。


「暗堂さん、その携帯さーー」


「ーー見学者さん、やはり来ると思っていましたよ。あなたも()()()()ですから」


「言霊について知る者っていうことか?」


「さあどうでしょう。見学者さん、あなたに相談があるのです」


「どのような内容だ?」


「死んだ私の友達を成仏させてほしい。といっても、本当に難しいことというのは分かっていますが」


「成仏?」


「あなたが知っているか分かりませんが、言霊の正体は人間です。厳密に言えば人間の心、でしょうか。人は誰しも言葉に縛られている。縛られ過ぎた者は言霊へ変わってしまう」


「初めて聞いたな。そんなこと」


「では、あなたにも無理そうですね」


 悲しげに言うと、暗堂は携帯を胸元で握り締めた。

 その携帯に彼女の友達が言霊となって宿っているのだろう。


「心当たりはある。その言霊を成仏させることができる者が」


 それは私の元いた路地裏街での噂。

 ある人物は言いました。私があなた方を救ってあげましょう。私は人々の心を浄化する、あなた方を癒すために生まれたのですから。

 偽善、そう罵られながらも、鬱になったものや苦しみに耐えられなくなった者を彼女は救った。

 いつしかそれが偽善ではなくなった。


 そんな女性がいたらしい。

 彼女の目的は分からない、いや、目的などないのかもしれない。彼女はただ人を救った。それだけだ。


「その人なら私の友達を成仏させられると」


「確信はない。けど彼女ならきっと君の友達を救えるかもしれない。行くか?路地裏街に」


 暗堂は無言で頷いた。

 私は暗堂とともに路地裏街へと向かう。そこへ着いた時、既に彼女はそこにいた。


 目を布で覆い隠し、手も足元も隠すような長く白い服を着ていた。頭を隠すような布もつけている。

 この服装は噂通りだ。


「待っておりました。貧しき者よ」


 ーー聖処女はそこにいた。

 彼女と出会い、私たちはとある部屋に案内された。

 そこへ私たちは腰かける。


「なぜあなたは私たちが来るのを知っていたのですか?」


「言霊、私もそれを有しているのです」


「お願いがあります。この携帯に宿る言霊を成仏させられませんか」


 暗堂は彼女へと訴えかけた。

 彼女はその携帯を見ると、彼女特有の優しく温かい声で暗堂へ言う。


「できます。ですが成仏すればもう二度と彼女とは会えませんよ。それでも構いませんか?私の力があれば彼女と話させることもできますよ」


「良いんです。私は彼女を死なせてしまった。だから私には彼女と話す権利なんて……」


 突如、携帯電話は鳴り始めた。聖処女はその携帯を暗堂へ渡す。

 その電話が掛けてきた相手は、、、

 彼女は電話に出た。


「……暗ちゃん」


 その声は明らかに携帯電話から聞こえたものだ。


「海……、何で……」


「私が死んだのは私のせいだよ。暗ちゃんのせいなんかじゃないよ」


「でも私がいなかったら……」


「それでも、君がいたから私は報われた。暗ちゃんがいたから私は学校という場所が思い出になったんだよ」


「恨んでよ、憎んでよ、何で海はそうやって」


「暗ちゃんが好きだから。だから私は暗ちゃんを恨んでもいないし、憎んでもいない。大好きだ、本当に大好きだ。大好きでたまらないよ」


「…………」


 暗堂の目からはこぼれていた。

 友達との思い出を思い出し、その悲しみから出た雫が。


「海、私も大好きだよ」


「ありがとう。本当はもっと一緒に居たかった。もっと一緒に遊びたかった。けど時間っていうのは有限で、その時間は無慈悲に突然終らされたりする。それでも私は思ったんだ。やっぱり暗ちゃんと会えて良かったって」


「……うん……」


「もう、お別れだ。私に幸せをくれてありがとう。暗ちゃん」


「海、私の方こそありがとう」


 電話は切れた。

 暗堂は携帯電話を握り締め、涙を流した。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 数時間後、ビルの屋上で黄昏る暗堂のもとへ聖処女は歩み寄る。


「君はどうして言い訳をしなかったんだ?私は君と海という子との間の記憶を見てしまった。あれは別に君が悪いわけではない。なのにどうして君は、」


「どれだけ言い訳を重ねようとも結果は変わらない。人の心に残るのは言い訳ではなく結果なんだ。だから私は言い訳なんて時間を無駄にするようなことはしない」


「少しくらい言い訳しても良いんですよ」


「私には必要ないんです。どれだけ言い訳しても、事実がねじ曲がることはないんですから。だから私は前しか向けない。そう、まるで"敢為邁往(かんいまいおう)"のように」


 その会話を私は盗み聞きしてしまった。

 学校に行っていなかった私には分からない。

 その言葉が一体どんな意味なのか。でもどこか、彼女はその言葉を悲しげに受け取っていた。苦しそうに受け取っていた。


「敢為邁往、か」


 人は言葉に縛られ続ける。

 私も何かに縛られているのだろうか。言葉、それがどういうものか、私には分からない。

 言葉の使い方すらも、私には分からないのだから。

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