第3話 学級会
私は今、廊下を歩いている。それは学校の廊下。
私は久しぶりに教室へと向かう。その場所へ近づくに連れて私の心臓は激しく鼓動を高鳴らせる。
「黒淵、そうかしこまるな。このクラスの皆はそんなに悪い奴じゃないんだからな。皆良い奴だから」
「あ、ああ。分かったよ」
というものの、緊張というものはそう簡単に拭いきれるものではない。それがどんな言葉であろうと。
「着いたぞ。心の準備はできているか?」
「当然だ。私を誰だと思っている」
「そうか。それなら大丈夫そうだ。では行くぞ。黒淵の新しい青春の幕開けだ」
それから十日。
気付けば私には多くの友達ができていた。その中でも最も仲が良く信頼できるのは緋色婢納。
あだ名はひぃちゃんだ。
「ひぃちゃん。おはよう」
「うん。おっはー」
彼女はクラスで最も知恵に優れており、優秀であった。
私は彼女という友達ができたことで学校というものへの認識も少し変わりつつあったーーそんな時期だった。
私のクラスで財布の盗難が起きた。そしてその犯人は緋色婢納、ひぃちゃんらしい。
「ひぃちゃんがそんなことするはずないだろ」
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学級会が始まった。
それはクラスで問題が起きた際に行われる裁判のようなものだ。
盗まれたと主張する桜桔梗はひぃちゃんが犯人だという台詞を曲げるつもりはないようだ。
しかしひぃちゃんはやっていないという。
私はひぃちゃんの友達として彼女を信じる。
「緋色婢納、お前が私の財布を盗んだんだろ」
「私は盗んでない。第一何の証拠が?」
「今日の二時間目に行われた水泳の授業終わり、私が教室の鞄の中に入れておいた財布がなくなっていた。つまり水泳の授業中に教室へ行った人物。そして緋色は水泳の授業中になぜか教室へ行っていた」
「違う。行ったけど、財布なんて盗んでない」
「じゃあ何しに行った?」
「それは……」
ひぃちゃんは何かを隠している。
このままでは完全にひぃちゃんは財布を盗んだ犯人になる。
だが一体何を隠そうとしている?私はひぃちゃんを眺め、その答えに気付いた。
ひぃちゃんは水泳の授業を見学していた。それだけではなく、二時間目の授業の際は必ずどこかにいなくなる。それはなぜか。
ひぃちゃんの手には白い毛がついている。それも人毛ではない他の何か。
「そうか。ひぃちゃん、君は猫の面倒を見ていたんだね」
「何でそれを!?」
図星だった。
「猫?それがどうした。猫が財布を盗んだとでもーー」
「ーーああ。そうだ」
「何の根拠があって」
「お互い様だ。お互いに根拠はない。ただ疑心しかない。この状況下ではどちらの発言も虚言である」
「ではどうするというのだ」
「確かめに行くんだよ。その答えを」
私とひぃちゃん、桜は猫のいる場所へと向かった。そこに向かうと、猫の手元には宝石が幾つか付けられた財布が転がっていた。
「あれは……」
「これでひぃちゃんは犯人ではないとはっきりしたな」
私は桜へ視線を向け、謝罪をさせようとした。しかし振り向いた時には彼女は頭を下げていた。
「ごめん。私、早とちりしてた。証拠もないのに緋色を疑っていた。本当にごめん」
「良いよ。もう済んだことだし」
「だがそれでは示しがつかぬ。どうか今日の昼飯だけでも奢らせてくれ」
「ちょうど良かった。実は今日弁当を家に忘れちゃってね、だから購買で買おうと思ってたけど、奢ってくれるならたまには高いものでも食べたいかな」
「分かった。何でも奢る」
「じゃあ行こうか。四時間目もちょうど終わったし」
四時間目の終わりを告げる鐘の音が響く中、私たちは購買へ向かう。
一件落着だな。