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第1話 伝説は消える
「言葉とは重たい」
「はい。だがそれがどうかしましたか?今我々はディベイトの最中ではありませんか。今を楽しみましょうよ。黒淵さん」
不敵な笑みを浮かべる男に、黒淵天下は苛立ちを覚えつつあった。
実力は黒淵天下、彼の方が上だろう。だがそれでも彼には大きな弱点があった。彼はそれを弱点と呼びはしないものの、今戦っている彼から見ればそれは大きな弱点であった。
未だ負けたことのない彼を大きく負かすための、圧倒的な弱点であった。
「いい加減敗けを認めてくださいよ」
相手は笑みを浮かべつつ、片手を黒淵天下へとかざした。
「使わせませんよ。力は」
黒淵の体は動かない。
どれだけ抗おうにも、彼は体を動かすことができないでいる。これが彼の力ーーではない。
だとしても、彼には勝つことができなかった。
彼を前にして、黒淵は攻撃を仕掛けることができない。
悔しさが心を渦巻き、怒りがこみ上げる。
「無駄だ。力は使わせない」
時間終了。
黒淵は一度も体を動かせなかった。一度も口を開けなかった。
そこで彼は消えた。
彼を見た者は一人もいない。