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言葉の使い方  作者: 総督琉
コミュリンピック編
10/11

第9話 彼女は言葉と向き合った

 言葉世界。

 私はここへたどり着いた。

 そこには延々の虚無が広がっていた。その中には、無数の言葉が宙を舞い、この世界を漂っていた。


「そなた、どこからこの世界へ入ってきた?」


 私の前には、玉座に座る冠を被った女王がいた。


「どこからって、そんなの方法はひとつしかないだろ。言霊を使っただけだ。それ以外に方法はないだろ」


「お主、この世界がどこか分かっておるのか?」


「言葉世界、言葉によって支配された世界だ」


「それを分かっていて、お主はこの世界へと入ってきたのか。それは愚かなことだな。実に愚かで、救いようがない」


「それでも、それでも私は向き合わないといけないんだ。言葉と、だから私はこの言葉世界に来たんだ」


 女王は私を指差した。


「ならば、言葉と向き合ってみろ。わらわの世界に入ってきたのだ。言葉によって死ぬ覚悟もできているのだろうな」


 周囲に漂う言葉があるひとつの形を形成する。それは巨大な龍、言葉というものがひとつに集まり、龍を形成したのだ。


「それが言葉モンスター。言葉というものの正体はそれじゃ。全ての言葉に意思はある。全ての言葉の意思には邪が込められておる。それらが龍を生み出したのじゃ。分かるか」


 龍を形成した言葉が私へと向かってくる。


「言葉と向き合う?そのような戯言、聞いているだけで吐き気がするわ。そのおなごを喰らってしまえ」


「戒めよ」


 龍は私を喰らえない。

 私を喰らう寸前で、龍は口を大きく開けたまま口が閉まらないと苦しそうにしていた。


「なぜ……」


「言葉というには全てに邪があるわけじゃない。優しさや温もり、温かさが詰まっている言葉だってあるんだ。私はその言葉に救われた、救われてきた」


「言葉など全て嘘だ。表向きに自分を偽るためだけの嘘だ。というのに、お主は言葉を信じるつもりか」


「それでも、私は言葉を信じるよ」


 私は今まで言葉に救われてきた。

 言葉があったおかげで、私はこの足を前に進めることができた。挫けても、立ち上がることができた。

 言葉というのは確かに全てが全て真実というわけではない。それでも、全てが全て偽りというわけではない。

 言葉が全てになったこの世界では、確かに世界は嘘にまみれている。それでも私はこの目で知った、この耳で知った、それをこの口で語る、言葉で語る。

 人を救う優しい言葉、自分の過ちを認める謝罪の言葉、愛を伝え合う別れの言葉、夢を歌う温かい言葉、

 私はいろんな言葉を見てきた。

 だから私は言葉を信じる、信じたい。


「言葉よ、槍となってあのおなごを貫け」


 龍となった言葉は槍となり、私へと向かって降り注ぐ。その全てが私へ触れるとともに花びらへと変わった。


「どうして……」


「不殺生戒、私の持つ言霊のひとつ。それは生命を殺し続けてきたからこそ、分かったこと。殺し合うことに意味はないんだって。それは私の心に戒めとして刻まれている」


「この言葉世界はわらわの領域、わらわの独壇場、わらわが絶対的主導権を握る世界。そこでお主はどうしてーー」


「ーー言葉よりも大切なものがあるからだよ。私はそれを知っている。だから私は、君にそれを教えに来たんだよ。この世界の外にはもっと面白い世界がたくさんあるよ。一緒に行こう」


「わらわは……」


「行こう」


「わらわは、今まで言葉に裏切られ続けてきた。だからわらわはお主を信じることはない、いや、君の言葉を信じることはない。だけど、わらわはお主の心を信じる。それまで、しばらく君を疑うが、それでも良いか?」


「ああ。必ず信じさせるよ」


「お主は、面白いな。お主となら、わらわは進めそうだ」

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