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二 ようこそ、ヴィヘム魔術学院へ

 時間は少し飛んで午後一時過ぎ、ヴィヘム魔法学校の時間割では四限の時間に当たる。俺の所属する二年C組はこの時間、魔術応用論Ⅲ——魔術による物体の操作の講義を受ける手筈となっていたが、講師のリミルエイヤ・ウルニスの出張のため自習となっていた。

 友人と雑談に興じる者、次の時間の予習を少しでもしておこうとする者、少しでも睡眠をとろうとするもの、三十人あまりの教室で生徒たちは自習という通達に対して思い思いの反応を示している。

 俺もまた次の時間でこそないが、別の科目の復習に勤しんでいた。しかしそれは俺が勤勉だからではなく、せっぱつまっているがゆえのことだった。

 机の上には五センチ弱の犬のおもちゃが置かれている。犬のおもちゃを馬のおもちゃに変身させる。魔術応用論Ⅳ——魔術による変身の課題だ。

 いまだこの課題をクリアできていないのは、講師の話では二学年全体約二百五十人中三人だけであるという。しかも講師のマルガレッド・サメガイは二年C組の担任でもある。そのプレッシャーもひとしおであった。

 しかし何度やってもうまくできなかった。首が異様に伸びたり、四足歩行じゃなくなったり、動物を模したとはとても思えないような形になってしまう。

 マルガレッドの話では授業は今週中には生物の変身に入るという。こんなところで足踏みをしている場合ではないのだが。

 いや問題は魔術応用論Ⅳだけではない。俺は今回自習となった魔術応用論Ⅲを含めて、多くの実技試験で赤点すれすれの成績をたたき出しているのだ。せっかく七年制魔法学校に入学できたというのに、このままでは三年生に進級すること叶わないかもしれない。

「なんだバレット、まだそんな課題に四苦八苦してんのかい」

 からかうようにクラスメイトのクレス・マイヤーが言う。

「悪かったな」

「いやいや気を悪くしないでくれ。別に責めてるわけじゃない」

 そう言われれば気分がよくなるわけではない。

「狙い通りにいかないだけで、作用してないわけじゃないからなあ。もっと肩の力を抜いたほうがいいぞ」

「いやいやむしろ緊張感が足りないのよ。失敗したら身内に大変なことが起こる。それぐらいの気持ちでいきなさい」

 そう言うのは東洋からの留学生リーシー・ホアンだ。彼女は親戚一同が一丸となって費用した資金でこの国まで魔術を学びに来ているという。きっとそれぐらいの気持ちで授業に臨んでいるというのは過言ではないのだろう。

「そういやウルニス先生、今年の奨励賞の候補に選ばれたって噂だけど、本当なのかしら」とリーシー。

 奨励賞というのは王国が選ぶその年魔術の発展にもっとも貢献した研究を選んだものだ。ウルニス先生はゴーレムと呼ばれる魔術で動く人形の大規模運用を主に研究している。研究が実れば工業分野の著しい発展が見込めることだろう。

「ああ、俺もそんな話聞いたなあ。ウルニス先生が辞退しようとしたとか」

「そうそう。それでほかの先生とか、王国からの使者が説得してとりあえず呼び出しにだけ応じることにしたとか」

 なるほど。それで今日の講義は自習なわけか。

 こつこつ。廊下のほうから複数人分の革靴の足音が聞こえる。外を覗き見ると背広姿の男たちが数名教室の前を横切る。

「誰だろう」とクレス。その声には見知らぬ顔だ、という響きがあった。

「警察だ」

 彼らが醸し出すあの特有の雰囲気には覚えがあった。

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