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エピローグー4

《先週末、あたしと彩花の二人で、彩花の実家に戻りました》


 悠が口を開く。

 彩花と違い、悠は落ち着いていた。

 いつも以上に聞き取りやすい、ゆっくりとした声音で語る。

《あたしも、ショックでした。皆さんも知っての通り、この番組の企画で、何度か彩花の実家にはお邪魔していましたし、その時にお会いしていました。病気と知った時は驚きました。彩花のことを助けたいと思うと同時に、私自身、ショックを受けている部分が少なからずありました。……でも、先週末、彩花の実家にお邪魔した時――いろいろあったんですが、その時、思ったことがあります》

 いろいろあったんですが、の部分で、彩花と二人、苦笑い気味になっているのが声だけでも分かる。

 確かに、いろいろあった。

 あの時、彩花だけでなく、悠も悩んでいたことを俺は知っている。彼女なりの『答え』が見つかったらしい。


《あたしたち声優は、作品を通して、声を届ける仕事をしていますが、その仕事の本質は、誰かに覚えていて欲しいとか、ファンの皆さんのため、ということではないと思うんです――あ、そういうと語弊がありますね……。ファンの皆さんのため、ではあると思うのですが、ファンの方々の『未来』を見て演じるものではないと思うんです。この作品を見てファンの方々が将来、○○になって欲しいとか、将来、この作品を思い出した時に○○って言って欲しいとか、そういうことではないってことです。

 『その一瞬』でいいんです。その作品を見ているその瞬間、その方の心に残れば、きっと『未来は勝手についてくるもの』だと思うんです。そもそも、将来、誰がどうなっているかなんて、あたしたちには分かりませんし、あたしたちにはどうすることもできないですよね。だから――その時、その瞬間が楽しければ……それで、少しでも応援してもらえるのなら、あたしたちは、演じ続けますし、声優を続けたいと思えます》


 彩花が、言葉を引き継ぐ。


《将来、例え、忘れられても、わたしたちは気にしません。もし、わたしたちの他に応援したい人ができたら、その方を応援してあげてください。素晴らしい作品は世の中に溢れています。わたしたちが出演していない作品も、どんどん見てください。その中で、もし、わたしたちのことを少しでも応援したいと、そう思ってくださる方がいたら、その時はよろしくお願いします。わたしたちも全力で、応えたいと思います。

 これからも、『皆さんそれぞれの一秒を、一瞬を』、最高に幸せなものにできるよう、精一杯、心を込めて、頑張ります!》


 俺は、どうしてか、目頭が熱くなるのを感じた。

 声優は、星の数ほどいる。

 少し前、声優と呼ばれる職業が、顔を出さず、本当に『声の仕事』だけをやっていた頃に比べ、大幅に増えている。

 全員を把握するのは不可能と言って良い。

 そんな場所に身を置きながら、『忘れられてもかまわない』、『他に応援したい人ができたら応援して』と言えるその精神力は、半端なものではない。

 悠は、忘れられることを怖がっていた。

 彩花は、それが原因で声を失った。

 その二人が、『忘れられてもいい』とはっきり言えるのは、やはり、あの日の出来事が大きいのだろう。


 ――一瞬を大切にする、か。


 二人よりも多く、認知症の方々と接してきた俺にとっても、その言葉は響いた。

 忘れるからしょうがない、ではない。

 忘れたとしても、その時、その一瞬、その人が笑ってくれれば、幸せに感じてくれれば、それで良い。

 誰よりも大切なファンを失った彩花が言うからこそ、説得力がある。


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